第33話 敵中突破

「それじゃ祥子。どうか気を付けて」

「くおん、そこは武運を祈るって言ってくれよ」

「分かった……戦果を期待しているぞ、バラ将軍!」

「了解だぜ総統! 五人組の奴らをきりきり舞いさせてやる!」


 私たちを追撃してくる五人組への対処は、祥子一人で担うことになった。


 これは祥子自身の発案である。

 もちろんその場の全員が危険だと意見したが、祥子は頑として譲らなかった。


「これからベルの居るだろう中央演算室を目指すわけだが、あいつがどんな隠し玉を持っているか、まだ分からないだろ?」


 グランシードのシステムを掌握するには、中央コンピュータバベルがある演算室にこもるのが一番いい。

 そもそもベル自身、バベルのアバターだから、能力を発揮するためにも側にいたいと考えるだろう。


 なので、私たちは今から演算室に突っ込もうとしているわけだが、当然ベルはそれを阻止しようとするだろう。


「ベルの攻撃に手間取っている間、後ろから5人組に襲われたら挟み撃ちだ。そんな事態は回避したい。5人組の対処はわたし一人でやる。本丸の攻略にこそ人数をあてるべきだろう。大丈夫、こういう遅滞戦闘の知識は豊富に持っているし……『奥の手』だってある」


 奥の手、か。あれだね。

 それだったら、祥子の無事を信じることが出来るだろう。


 あくまでベルをなんとかするまでの時間稼ぎであり、危なくなったら逃げることを厳命した。


 私たちを背に、祥子は駆け出す。

 その背中はたまらなく格好良かった。


「ボクからも提案がある。まず最初に技術部の部屋に行こう」


 祥子と別れて演算室を目指し始めた私たちだが、どうしても解決しておかなければいけないことがあった。


 トウリと一花についてだ。

 二人はこれからの戦闘に追従できないだろう。


 現在Xトマトに背負われたトウリの容体は、悪化の一途を辿っている。さっきまでは会話も出来たが、今はもう難しそうだ。吐く息が荒い。

 一花については……。


「…………」


 一花がいま走れているのは、彼女が放心状態だから。

 この瞬間が現実なのか、それとも悪夢なのか。

 それすら定かとなっていないのだろう。


 現実を正確に認識した瞬間、一花は立ち上がることすら出来なくなる。


「よし分かった。実験エリアのセーフベースにいこう。あそこなら短時間の籠城が出来る」


 仙からの提案に私は答える。

 

 セーフベースとは、実験が行われる際に職員が退避するスペースのことだ。

 仮に実験で危険なことが起こっても、魔術的な防壁が幾重にも存在するそこにいれば安全である。


 トウリと一花を一時的にそこに置き、他の面子は改めて演算室へ。

 それが最善だろう。


「一花、あと少しだけ走って。ゆっくり休める場所があるよ」

「……」


 一花はもう、うなずくことも出来ない。

 

 私との出会いすらベルの計画に利用されたものだった。

 その事実が、一花の心を押し潰してしまった。


 ああベル。

 どんな理由があるにしろ。

 一花には絶対、謝ってもらうからね。


「――みなさん! お出迎えのようですよ!」


 先頭を走るナスボーグが叫んだ。

 私たちの前に10人ほどのプランターと、一人の怪人が立っている。


 その出で立ちは、まさに西部劇のガンマン。

 ピストルからはインゲン豆の銃弾を撃つ。

 多くのヒーローを倒した、射殺請負人。


「インゲンキャリバー……!」

「ナスミサイル!!!」


 私の声とほぼ同時に、ナスボーグは腕から小型ミサイルを発射した。

 先手必勝を狙う。だが。


「……イン! ゲン!」


 インゲンキャリバーは凄まじい速さで拳銃を引き抜き、ミサイルへ狙いを定める。

 彼らの目の前で爆発が起こる。

 ミサイルは直撃しなかった。

 全てが銃弾によって撃ち抜かれたのだ。


「てめえええええええ!!! この前エロゲー貸してやっただろうがああああああ!!!!」


 今度はドラゴンキュウリのファイアブレスだ。

 轟炎が吹き荒れる。


「キャリイ!」


 しかし炎が届く前に、再び銃撃。

 ドラゴンキュウリの胸元に、三発のインゲン豆が叩き込まれた。

 竜は苦悶の表情を浮かべて吹っ飛ばされる。


「ぐあああああああ!!!」

「はあ!」


 仙も攻撃に参加する。

 氷の結晶、もちろん毒入り。

 近くで撃ち抜けば、毒が広がる。

 これは、どうだ。


「「「プラ!!!」」」


 突如として三人のプランターたちが動いた。

 インゲンキャリバーの前面に立つ。

 そのまま氷の結晶を全身で受け止める。

 もちろん毒によって即時昏倒、その場で崩れ落ちる。


「な……!」


 仙は驚愕の目でその光景を見た。

 ベルの洗脳と操作はここまでさせることが出来るのか。

 

「がっ!!」


 次の瞬間、仙も銃撃を受けた。


 まずい。

 インゲン豆の銃弾は無限装填だ。尽きることは無い。

 

 次にピストルの銃口が向けられたのは、私だった。


『吹き飛べ!』


 魔力を込めた叫びが響く。


 インゲンキャリバーとプランター達は、たちまち暴風に巻き込まれ、近くの壁に容赦なく叩きつけられる。


「ナスロープ!」


 ナスボーグはお腹からロープを取り出すと、仙と一緒にインゲンキャリバーたちの下へ。

 あっという間に彼らを縛り上げてしまった。


「……ありがとうトウリ。やっぱりトウリは、強いね」

「……あなたは、まだまだ未熟、なのよ」


 Xトマトに背負われたトウリは曖昧な意識の中、そう呟く。

 ちょっとだけ、昔の口調に戻っていた。


「トウリ博士まじ半端ないっす……一花ちゃん!」


 Xトマトの声を受け、一花の方を振り向く。


 一花へと向けて、一人のプランターが全速力で走ってくる。

 インゲンキャリバーが率いていた者たちとは違う。

 

 それは私と一花にとって、見慣れたプランターだった。

 

 直観が働く。嫌な方向へ。

 

 私は一花の下へ駆け寄り、彼女を抱きしめた。

 プランターは私たちのすぐ側まで来ると。

 自爆した。


 爆風と熱が背中を抉る感覚。

 プランターの破片が肩に突き刺さる。

 大丈夫。耐えられる。


「……一花、ケガはない!?」


 一花の顔を見る。

 その顔は、涙で一杯だった。


「プラ……プラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 一花は絶叫する。

 当たり前だ。


 自爆攻撃に使われたのは。

 戦闘員寮長の田中さんだったのだから。



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