決戦の時! プラントの総統を討て!

 前回までのあらすじ!

 

 プラントの幹部、バベルツリーから持ち掛けられてきたクーデター計画に協力することを決めた五人組。

 これまで彼女の指示に従い、様々な作戦をおこなってきた。


 バベルツリーを完全に信頼することは出来ないが、全てはプラントの総統を討つため。

 幾つかの闘いの末、遂に、プラントの本拠地グランシードへ突入する時が来た!


「お前が……プラントの総統か」


 レッドの視線の先にいる女は、総統という肩書からイメージされる姿とは、少し離れているように感じられた。


 20代後半の会社勤め。女の雰囲気を一言でいえばそうなるだろうか。

 パンツスタイルのスーツは少々くたびれている。

 もし職場に居たら毎日がちょっとだけ楽しくなるだろうな。おおよそ、それくらいの顔立ちだ。


「その子は?」


 レッドは総統に尋ねた。

 黒髪をした中学生ぐらいの女の子が、総統の胸に顔を埋めてしがみついていたのだ。


「ああ、心配しなくてもいい。別にお前たちに対する人質というわけじゃない。この子はプラントの戦闘員で、たまたま今回の騒動に出くわしただけだ。安心したまえ。せっかくのご来訪だ。人質作戦などという卑怯な手で、戦いの興を削ぐことはしない」

「なんだと……!」


 思わず声を荒げたのはイエローである。

 それもそうだろう。


 先日のバラ将軍との闘いで、プラントがいかなる作戦を用いたか。

 実験体となってしまった哀れな人々を囮に使い、5人組を誘い出そうとしたではないか。

 あの基地で溶けていった少女をイエローは忘れることが出来ない。


「俺っちは生まれてこの方、こんなに怒ったことはない……! 今すぐにでも、こいつを八つ裂きにしてやりたい気分だ……!」

「待てイエロー! バベルツリーの奸計によって総統をはじめトップ層は弱体化した。だが油断するな! いま目の前にいる女こそ大組織プラントの支配者なのだから……!」


 レッドの言葉に総統は高笑いを上げた!


「ははははははははは! そこまで認めてくれるとは光栄だよ、レッド! ならば私も全力で応えないといけないな。さあ戦闘員よ離れるのだ。そしてその場で総統の闘いを見ていろ!」

「プ、プラ! プラ! プラ! プラァァァァァァァァァァァァ!」


 総統の体から離されたプランターは、その場にへたり込みながらも彼女へ声をかける。

 この少女は一体、どんな言葉を総統へ伝えようとしているのか。

 プランターの言語に詳しくない五人組には、分からなかった。


「待て! 総統の手を煩わせることはない! このバラ将軍が貴様らを

叩き潰してやる! ……くそ、おまえら放せぇ!」

「お願いだよくおん! 逃げてくれ!」


 バラ将軍と水仙子爵はプランター達に押さえつけられている。

 向こうで胸から血を流して倒れているのは、技術部の最高顧問トウリ博士だろうか。どうやら意識を失っているようだ。


 幹部陣は手が出せない。

 今こそ……総統を倒す最大のチャンスだ!


「いくぞぉ!」

「来い、ヒーロー!」


 決戦の火ぶたが切って落とされた!


 まずはピンクの繰り出す桃色の霧!


「霧よ怒れ!」


 たちまち総統の周囲を、強力なデバフ能力がある霧で包む。

 総統は霧を吹き飛ばすことが出来ないようだ。

 

「ぐ……!」

「一斉射撃!」


 ブルーの掛け声と共に5人はエネルギーガンを発射!

 着実なダメージを与え続ける。

 これに対しても総統は何も出来ず、ただ耐えるのみだ。


 光線は数十秒間、一方的に相手の体力を削り続けた。

 霧がはれたとき、総統の体が僅かにふらついたのを確かに目視する。


「みんな……斬り込め!」


 ここまで五人組の定石通り!

 

 距離をとった射撃と一気呵成の斬撃。

 これを繰り返すことにより敵へ戦闘のイニシアチブを渡さない。

 

 一見単純に見える反復行動である。

 だがこの戦術こそが、彼らに多くの勝利を授けてきたのだ。


「……はあああああ!!!」


 そのとき総統が動いた。

 レッドに向かって一気に距離を詰める。


 右手の拳を握られていた。そのままレッドの鳩尾みぞおちへとそれを突き立てようする……速い!


 レッドはぎりぎりのところで回避、その勢いのままチョップを総統の背中に叩き込む。


 だが何らかの反撃が来ることは、彼女にとって予想済みだったのだろう。

 体を軽くずらすことによって、衝撃を和らげた。

 チョップに押される形で大きく左へと倒れ込む形になる。

 

 次の瞬間。レッドは腹に凄まじい衝撃を感じた。

 総統の蹴りである。

 総統は倒れ込むと同時に、右足をレッドの腹に叩き込んだのだ。


「がああああ!」


 ここまでレッドは光の刃を展開できていない。

 なぜならば、刃を展開するためには数秒ほどの精神集中をする時間が必要だからだ。

 

 総統はこの数秒間を与えなかった。

 今この瞬間も、与えていない。

 拳と蹴りを休むことなくレッドへと打ち込み続けている。


 レッドは総統の攻撃をかわすのに必死だ。


「レッド! いまいくぞ!」


 ブルーの叫び!

 他の四人がレッドの下へ向かう。


 まず司令塔であるレッドを倒すのが、総統の狙いなのだろう。

 させてなるものか!


「束縛せよ!」


 総統が一言そう叫んだ瞬間、四人の足元に草花が繁茂。

 彼らの足に絡みついた。

 

 すぐに光の刃で焼き切ろうとするが、切っても切っても、すぐに次の草が巻き付いてくる。


「我ながらせこい手だが……勝機はお前を先に倒すことのみだ! 私は、勝利しなければいけない!」


 総統の拳がレッドの顔面を捉えた。

 一瞬意識が飛びかける。

 レッドは己の顔を己で殴り、無理やり意識を再起動した。


「勝利しなければいけない、か。それは何のための勝利だ!? 人々を虐げるための勝利か!?」


 その言葉と共に、今度はレッドが総統の顔を殴打する。


 やがて、二人は拳と叫びを重ね始めた。

 お互いがお互いの攻撃をかわしつつ、自らの言葉をぶつける。


数多あまたの世界を救うための勝利だ!」

「その救済によって踏みにじられる人間たちがいる!」

「レッド、私は知っている! お前の恋人がプラントの実験によって無残な姿になったことを! だが私は謝罪しない! 人類の改造は滅びに抗うために必要不可欠なのだ!」

「なぜ改造に固執する! 崩壊世界から難民を救出すること! 滅亡した世界を再生すること! それだけではいけないのか!?」

「世界が崩壊してからでは遅い! 多くの犠牲を払ってしまう! 根本的な対処のためには、人自身が強くならなくてはいけない!」


 レッドの顎を、総統の膝が強襲!

 レッドは背中からぶっ倒れた!


「ぐあああああああ!!! ……はあ……はあ……総統、お前のその強い思いは、どこから来たんだ」

「……あなたと同じように、親しい人間からだよ」


 刹那の静寂が二人の間に流れた。

 

 その静けさは、イエローの雄叫びによって終わる。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 足元に絡みつく植物は、どうやら長時間に渡って保つものではなかったようだ。これも弱体化の影響だろうか。

 イエローは光の刃を展開しながら総統へ突進。

 彼女を切り捨てようとした。


「!」


 総統は済んでのところで回避する。


 だが、他の5人組メンバーも草から抜け出し、総統を囲んだ。

 

 レッドは立ち上がる。もちろん、光の刃を展開しながら。


「このまま決着をつけさせてもらうぞ、総統」

「……」


 レッドの言葉に総統を沈黙するしかない。

 プラントの総統もこれで一巻の終わり。


 そのはずであった。


「おりゃああああああああ!!!!!!」


 謎の叫び声がしたかと思うと、大ロビーに白い煙がもくもくと立ち込め始めた。

 あっという間に視界が白一色となる。


「煙幕!?」


 レッドは驚愕しながらも、周りを見渡す。


 視界の端に、キュウリ肌の竜を見たような気がした。

 

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