第23話 お祭りは近い

 ゲートの復旧は順調に進んでいるらしい。

 グランシードの内部も当初の混乱が落ち着き、だいぶ日常の業務を回せるようになってきた。


 相変わらず敵の意図は読めないけれど、ある程度の平穏は保たれていると言ってよいだろう。

 いま私の目の前に展開されている光景など、まさに平和の象徴だ。


「ボクをたばかったね君たち……! こんな罠にかけるなんて……!」

「仙ちゃん自分から着たんだよー?」

「水仙子爵、こっちを向いてくださいっす! 激写するっす!」


 仙がなんかビキニを着て、食堂の机の上に立っている。

 

 ベルがニコニコしながらその側に。

 ドラゴンキュウリ、Xトマト、ナスボーグがやんややんやと囃し立てている。

 Xトマトは、キロ単位はありそうなでかいカメラを持って、仙を撮っていた。


 うーん、平和だ。


「これはあれかな? バベル祭の催しものとして仙のファッションショーがベルから提案された。仙はノリノリで色んな服を着た。それで最後にビキニを着用してしまった、と。流れに身を任せすぎたせいで」

「う~~~~~~~~」


 仙が顔を赤くしながら悶えている。どうやら正解のようだ。

 そもそも、今回のバベル祭でやるイベントは一つだけのはずなのだが。

 仙もそのことを知っていれば、こんな目に合わなかったのに。哀れだ。

 

 ああ、わざわざ試着用のカーテンまで食堂に持ってきたのか……。


 仙のビキニは黄色の地に、白色の線がいくつか入ったもの。

 なかなかに露出が大きい。

 

 美以外の一切の無駄を省いたかのような、その肉体。

 まるで、100年を生きた画家が最後に描いた絵のようだ。

 

 室内灯に照らされた銀髪が、聖なる光を放っているようにすら思えてくる。


 彼女のそんな素晴らしい肢体を見ていると、思わず歓声をあげたくなる気持ちもよく分かる。


「しかしそろそろ止めるかー」


 さすがに長時間食堂の一部を占拠されるとね。


「こ、こんな恥ずかしい目にボクをあわせて……そんなにビキニがいいのなら、キミも着てみたらいいんだ!」

「いいよー!」

「「「うおおおおおおおおお!?」」」


 ベルが脱いだぁ!?


 纏っていたドレスを、その場で勢いよく脱ぎ捨てた。

 ドレスが空中を舞う。


「もうすでに装着済みなのだー!」


 そこには黒色のビキニを着たベルの姿があった。

 豪奢な金髪が揺れる。


 豊かな双丘の上半分を、ベルは堂々とさらしていた。

 それは天下に己が力を誇示するが如し。

 まさに自信の表れ。


 ちょっと見惚れてしまった。


「お、おほん! みんなそこまでだよ」


 見惚れている場合ではない。

 私はヒートアップするみんなに声をかけた。


「くおん~~~~~~~」

「くおんちゃん、どっちの水着が魅力的?」

「仙もベルも、どっちも最高だよ。ベル、お祭りの準備は大丈夫?」


 バベル祭の当日はすぐそこだった。


「細工は流々仕上げを御覧じろ、ってね」

「一花が豆電球を運んでいたけど……イルミネーションでもするのかな?」

「おっと! 一花ちゃん見られちゃってたかー。だいたいそんな感じなんだけど、もう一工夫あるよ。当日を楽しみにしててね」


 むむむ、秘密は秘密のまま謎を保ちつつ、祭りに突入するわけか。

 楽しみだ。


「もちろん、酒もたんまりと出ますよねベルさん!?」


 ドラゴンキュウリが鼻息を荒くして聞いてきた。

 

 目の前にいる怪人3人組は、毎回のように泥酔するからなー。

 変に禁酒させると、落ち込んでしまって仕事の能率が悪くなるし。

 困ったもんだ。


「お酒もごちそうも、たくさんたくさん出るよー! お腹をすかして待っててね。くおんちゃんも!」

「私も?」


 なんだろう。ベルの笑顔が、私を見たとき一層かがやきを増したように見えた。


 ごちそうにも何かがあるのかな?

 これも楽しみにさせてもらおう。


 「も、もう服を着ていいかな?」


 いかん、仙がそろそろ限界だ。

 また悶絶してしまう。


「ベルさん……ああ、ベルさん! 最高っす! ただただ最高っす! 語彙のないオレっちのことを許してほしいっす! 激写! 激写っす!」

「一枚500円だよ!」


 Xトマトは押しに対する愛情が限界を迎えているようだ。

 ベルに対して五体投地をした後、カメラのフラッシュを焚きまくっている。

 

 仙のビキニ写真は後で没収するとしよう。


『ビキニってなに?』

「あとでゆっくりお話しをしようか一花!」


 食堂に一花がやってきた!

 

 我がプラントの本部はいつも賑やかだなぁ!

 

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