第22話 神という存在

 グランシードの通路を一花がトコトコ歩いているのを見つけた。

 段ボール箱を両手で抱えて持っている。


「やあ、一花」

「プ、プラ! ……プラプラ」


 私が声をかけると少し慌てる素振りを見せた。

 その後すぐに、足元へ段ボール箱を置く。


 ああ、両手が塞がっていたから、デバイスに文字を入力することが出来なかったのか。


 一花とはデバイスさえ使えれば、これといって齟齬なくコミュニケーションを取ることが出来る。

 けれど、こういう不便も当然あるのだ。


 一花と出会ってしばらく経つけれど、彼女が「プラ」以外の言葉を口にしたことはない。

 いまだ不具合は残ったまま。原因もまだ分からないらしい。


『総統、どうしたの?』

「急に声をかけてごめんね、何かの作業中だったのに。その段ボール箱に入っているのは?」

『これだよ!』


 一花は段ボール箱を開け、中身を見せてくれた。


 覗いてみると、そこには豆電球がギッシリと詰まっていた。


「ええとこれは。ああ、もしかしてバベル祭で使うやつ?」

『あたり!』


 バベル祭は、本部の現状を鑑みて、規模をだいぶ縮小して開催することが決定した。


 期間は一日だけ。イベントは複数行わず、バベルツリーベルが企画したものを一つだけ執り行う。


 確か、イベント内容は当日になるまで秘密だったはずだ。


『わたしベルにおねがいされたの! お祭りのお手伝いをしてねって! なにをやるかは総統にもないしょだよ!』


 右手で文字を入力しながら、一花は左手を振り上げた。

 これ以上なく、ワクワクしているようだ。


 一花にとっては、生まれて初めてのお祭りである。

 興奮するなという方が無理だろう。


 それはさておき。ベルが企画するわけだが。

 まあ、ベルはHな暴走をすることはある。

 けれど一花に対して無茶なことをやらせはしないと思う。


 私があれこれ言う必要はない。

 一花のやりたいことを、見守るとしようか。


「バベル祭の日が楽しみだね。がんばって、一花」

『うん! あ、そうだ』


 うん? なにか聞きたいことがあるのかな。


『神様っているの?』

「お、おう?」


 急になんか話が変わったね!? 

 どうしたの?


『ベルに聞いたんだけど、グランシードにはクリスマスとか、お正月とかがあるみたい。これっていろんな神様のためのお祭りだよね? じゃあ、その神様って本当にいるのかなって思ったの』


 クリスマスかぁ。ミニスカサンタの格好をしたときは、みんな大盛りあがりだったけど、ちょっと恥ずかしかった。


 いや、それは今どうでもいい。


 神についての話だ。


「神はいるよ」

『いるんだ!』

「基本的には、対立関係だね」


 まず神についての定義だが、彼らは世界の管理者である。


 世界を創ったにしろ、世界に創られたにしろ、神とはその圧倒的な力で世界を支配している存在だ。

 いや、支配というより運営か。その世界における森羅万象の法則を運用し、稼働させ続けている。


 だいたいどの世界にも神、もしくはそれに類するものがいる。


『うーん。もし神様がいるのなら、どうして世界を救わないんだろう。困っている世界はたくさんあるのに』

「それは彼らの力が大きすぎることが原因だね」

『大きすぎる?』


 神が直接、世界へと降りると、その世界は構造にダメージを負ってしまう。


 折り紙の鶴の上へ人が乗るようなものだ。簡単に潰れる。

 だから神が世界に干渉する際は、どうしても間接的な、迂遠なものにならざるをえない。


 ただ、そうなると間に合わないこともある。

 破滅が神の慈悲よりも、はるかに早く世界を覆うこともある。


「プラントはその世界の神に無許可で行動している。あなた達では手が回らないかもしれませんよね? じゃあ私達で勝手にやっておきます、ってね。神からすれば家の庭を荒らされているようなもので、世界の法則を乱すかもしれない行為だ。おもしろくはないよね」


 だからどうしても神とは対立する。神からの干渉を受ける。


 天使が送り込まれてくることもあるし、単純に運が悪くなることもある。

 プラントの活動は神からの干渉を考慮の上で、行わないといけない。


『ふむふむ。じゃあ、プラントにも神様はいるの?』

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

『え、どうしたの?』


 それ聞くよなー。聞いちゃうよなー。

 はあああああああああああああああ。

 思わずため息をつく。


「いるよ、うちにも。かみさま。闇に住まう神」

『どんな神様?』

「マルチバースに点在する、いくつかの秘密結社が信仰している神なんだけどね。まあ、信仰してれば他の神からの干渉を和らげてくれるし、あの世も提供してくれるし」

『あの世って、死んだ後のこと?』


 大多数の神からすれば道を外れた者である、私達。

 死ねばその魂は地獄行きだ。


 だが闇に住まう神を信仰していれば、私達専用のあの世にいくことが出来る。

 

 静かなところだ。

 暗闇に包まれた、穏やかな風が吹く場所。

 怒りや憎しみに囚われず、眠ることが出来る場所。


『良い神様なんだね!』

「それはどうかな~~~~」

『駄目な神様なの?』

「ダメというか、なんというか。素直に信仰するのも腹が立つというか」


 そりゃあね。

 実際に会った者からすれば、「こいつ~~~~~~~!」と思うことも多々あったわけですよ、はい。

 

 

 

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