第20話 保護区からの手紙

 保護区からの手紙、ゲートが閉鎖される前に届いてよかったなぁ。

 どれどれ……。


『親愛なる総統へ。保護区首相のガーベラです。今回も保護区住民からの手紙をいくつか選別し、お送り致します。総統が知ることを望む、ありのままの保護区の姿を、伝えられたのなら幸いです。プラント万歳。そして人類万歳』


『わたしは××××といいます。16歳の女子高生です。いえ、だったというべきでしょうね。わたしが元居た世界は、別世界から来た魔王によって滅ぼされました。家族も友人もオークに殺されました。自殺しようとロープに手をかけた瞬間に、わたしを助けてくれたのが、プラントの戦闘員さんです。いま、わたしは保護区で幸せに暮らしています。下手な文章でごめんなさい。だけどこれだけは。心の底から、感謝しています』


『猫型亜人の××××です。ウチの世界は神のミスで転生者が10億人も来てしまいました。あっという間に食糧不足で滅亡です。あの頃のことは思い出したくもありません。保護区ではメシが腹一杯食えます。それだけで幸せです』


『おいらはラッパーの××××! 保護区では音楽が足りねぇ! もっとライブハウスを作ってくれ! ヨロシク! ……ああうん。音が鳴ってないと不安なんだ。おいらの世界はある日を境に、音が消えちまった。耳は正常なのに、何も聞こえない。おいらを含めた希望者数百人はあの世界を脱出したが……いまごろどうなってるんだろうな、故郷は』


『私を家に帰してください』


『ガムズベルト王国騎士団の××××と申します。世界崩壊から王国の民を救って頂いたこと、プラントへは無上の感謝を捧げます。しかも魔力の目途が立てば我々のために、専用の独自世界を下さるとの話を聞き、みな至上の喜びに包まれています』


『ガムズベルト王国騎士団の××××といいます。兄さんも手紙を出すそうですが、妹の私の分も届くんですかね? 魔力集めのため騎士団がプラントの傭兵になって、はや数年。あちこちの世界を駆けまわり、騎士団の一部は疲弊しています。独自世界の為とはいえ、無辜の民を殺害する事もあるこの仕事は、ちょっとキツいです』


『イルカは人類!!! すくなくとも私たちの世界ではそうでした! 保護区ではイルカの権利が守られていません! この前はイルカお断りの喫茶店を見つけました! 確かに移動式プールの水が3リットルぐらいこぼれることもありますが! しかしなんという非情がまかり通っているのでしょう!』


『我が名は××××××××××××××××××××! マルチバース最大の天才なり! 総統よ、今すぐ我をプラントの技術部に入れるのだ! さすればウルトラハイパーキングオメガ級の超巨大ロボットが汝たちの物となるだろう! この前は1000分の1モデルが暴走し、保護区庁舎を一部破壊してしまったが、気にするな!』


『なんでぼく手紙を書いているんでしょう……? 世界が滅んでも部屋に引きこもっていた陰キャなのに……。ああ、保護区のみんなからは体の頑丈さを買われて、いろいろな仕事を任されてしまいます。うう、最近は慣れてきましたけど。総統への手紙は隣室の女子が書け書けとうるさくて。ちゃんと自分の気持ちを表せ、とのことです……独りぼっちではなくなりました。ありがとうございます』


『私はプラントに尽くしたいです。私をレタスの怪人にしてください』


『教育省に務める××××といいます。私は保護区の避難民から選抜されプラントに雇われることになった職員です。最近、プラントの思想に傾倒した学生たちが、過激な政治集団を結成するケースが増えています。彼らは保護区の住民すべてがプラントの正式な構成員となり、人類救済の道に邁進すべきだと主張しています』


『ワーウルフの××××といいます。わたし、貴方のことにはちょっと詳しいですよ? なにせ友達のエルフが総統の偉大さについて、いつも講義してくれますから。友達は保護区の全員がプラントに入隊すべきだと言います。私はイヤです。学校を卒業したら、どこか別の、平和な世界に行き生活したいです。これはみんなに認められた権利なのに……』


『これは貴方への恋文です。あなたの写真を見て以来、僕はずっと貴方に恋をしています。保護区には総統崇拝者が一部いますが、僕は違います。彼らは拝むだけ。僕は、あなたの心と触れ合いたいと思っているのです。僕の脳の一部を手紙に添付いたします。精神接続をお願いします。(*彼の脳は検査に回しています:技術部より)』


『俺の友達は、文明レベルが原始時代だった崩壊世界からやってきました。最初はここでの生活も色々大変だったみたいですが、今ではすっかり慣れています。友達は牛の骨を削って小さな人形を作りました。どうやら総統を模したようです。彼女からのプレゼント、良かったら受け取ってやってください』


『わたしは××××です。5さいです。そうとうへおてがみをかきました。いつもわたしたちのためにありがとうございます。おはなのたねをおくります。あおぞらのはなです。とてもきれいなあおいろをしています』


『ガーベラ母さんの養子になってから、もう10年になるんですね。10年前は、オレほんとうに生意気なガキでした。家中の家具をひっくり返したりして。元の家族が全滅したオレを、ガーベラ母さんは愛情豊かに育ててくれました。どれだけ感謝しても足りません。総統、今度保護区に来たらまた家に寄ってください。オレ、母さんからビーフシチューを習いました。腕によりをかけて、作ります!』


『帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ帰せ』


『どうせ検閲されるのでしょう? だったら好きに書きます。保護区には滅んだ世界からきた人が一杯いますが、これってプラントが救えなかった世界がたくさんあるということですよね? いや、救わなかった、ですかね? プラントって、積極的に危機のある世界を助けてますか? 予算不足だとか人員不足とか、あとその世界の自主性に任せるとか。そんな理由で多くの世界を見捨ててるのではないですか? 世界を取捨選択するなんて、傲慢ですよ。何様のつもりですか。ああ。はい。そうですよ。これは愚痴です。こんなことを言っても何にもならない。だけど。私はプラントに、私の世界を救ってほしかった』

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