第14話 バベル祭の準備

「ごべえええええええええ!!!!」


 なにがファンクラブじゃい! なにが顔が良いじゃい!


『どうしたの総統!?』


 総統執務室の机に突っ伏し、悶絶している私を見て、一花が驚いている。

 

「た、たまにくおんは変なことをするよね……」

「いつも変じゃないの~?」


 水仙子爵バベルツリーベルもいっしょだ。

 

「うおおおおおお……昔の恥ずかしい記憶が蘇ってしまってね……」


 桜と共に過ごした時期に、私が調子に乗って妄言を吐いていた記憶を思い出したのだ。

 あーもう。私のおばか。


「うう……えっと、それで仙とベルはどうしたの? 今日は何か予定があったっけ?」


 気を取り直し、二人に尋ねる。


「ふっふっふ。もちろんバベル祭の打ち合わせだよ!」

『ばべるさいってなに?』

 

 意気揚々と答えるベルと、首を傾げながら質問をデバイスに打ち込む一花。

 なるほど、それでは解説しましょう。


「バベル祭というのは定期的に開かれるグランシードでのお祭りのことだよ。本部祭とも呼ばれるね」


 事のおこりは、ベルがお祭りをやりたいと、言い出したことだった。

 

 当時、ベルは生まれたばかり。貪欲に人類の情報をかき集めていた。

 その中にあった「お祭り」という概念に対し、彼女はいたく心を惹かれたらしい。なにかイベント事をやりたくて、たまらなくなってしまったのだ。

 

「あの頃のベルは純粋だったなぁ……」

「遠い目をしてどうしたのくおんちゃん。いまも純粋そのものだよー? ピュアにエロスを求めているんだよ!」

「純粋だったなぁ……」


 それじゃなにかやろうか、と私が一声あげると、まるで最初から待っていたかのようにプラントのみんなは動き出した。

 

 幹部も怪人も戦闘員も。

 一つのお祭りに邁進した。

 

 会場はグランシードのあちこち。通常業務の邪魔にならないように、屋台や、遊び場が設置される。

 

 バベル祭も、だいぶ回数を重ねてきた。

 今までいろんな出し物があったなぁ。


 「プランター戦闘員のみんなが劇をしてくれたことがあったね。劇が盛り上がりすぎて、演者たちが「「「プラ!!」」」の大合唱になってしまったけれど」

「ボクが印象に残っているのはスイカメロン戦争だね。スイカの怪人たちとメロンの怪人たちが、意地を張り合った。スイカとメロンどっちがうまいかってね。屋台の売り上げで勝負をつけることになって、結局在庫が大変なことになった。買い付けすぎたんだね」

『すごいおもしろそう!』


 一花の目がキラキラと光っている。

 私は彼女の頭を撫でながら、語り掛ける。


「プラントの仕事をやっていると、いろいろ大変なこともある。でも、数日だけでも心の底から楽しめる時間があると、これからも頑張ろう!って気持ちになれるんだ」

 

 最近は5人組やカルテルの件で忙しい日々を過ごしている。

 バベル祭も縮小して開催するしかないだろう。

 

 それでも、お祭りというのは大切だ。

 大切な、思い出になる時間だ。


「秘宝館つくるかー!」

「前も言ってたけれど、ちょっと遠慮してほしいかなー!」


 一花はぽかんとなり、仙は顔を赤らめている。

 だからギアを緩めなさいって!


「秘宝館が駄目ならプランBだよ。楽しみにしててねー!」















 バベル祭の初期の打ち合わせが終り、ベルと一花は部屋を出た。

 仙は残っている。


「くおん、報告がある。900世界に対する『処置』の予算案が整った」

「分かった。委員会で議論は続いている。次は担当支部長と面談するよ」


 『処置』の準備は、お祭りのそれとは違って、あまり楽しいものではないだろう。

 

 

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