回顧6 モテ期
いろいろあった夏休みが終わった。
13体が融合した巨大魔獣を倒したり、あちこちの夏祭りを巡ったり。
トウリの大図書館では夏休みの宿題を進め、それから魔術をいくつか習得した。
「あなたたち、もっと魔獣退治に役立つ知識を学びなさいよ……どうして宿題優先なの」
いやそれは我々も、健全な高校生でありまして……ごめん。
まあ、無事に宿題も終わらせることが出来て、一安心。
何の憂いもなく、学校に登校した……うん?
「あ……くおんさん」
「あ、あの……ごめんなさい! なんでもないです!」
「顔がいい……」
なんか、学年を問わず、女の子から視線を向けられたり、声をかけられたりしている。
……これは、あれか?
あれなのか?
モテ期なのか?
「………………………………へへ」
これはまいったな。夏休みデビューが向こうからやってきたということか。
そりゃね? 学校では深窓の令嬢という印象だったでしょうし? 友達が少ないだけとはいえ、クールでかっこいい女子としてみんなの脳を焼いてしまったということなんでしょうね!
自然と背筋がのびる。キメ顔をしたくなる。
ふふふ。
ファンクラブ作るか。
「くおん、あなたバカでしょ?」
「うわぁ!?」
隣にいきなりローブ姿の少女。
学校の廊下にトウリが立っていた。
「え? いや、みんなに見られるよ!?」
「人払いの術ぐらい簡単……種明かしに来たよ」
た、種明かし? なんのこった?
「あなたと桜、夏休みにこの学校の生徒を救ったでしょ?」
あ、ああ。あの時のことか。
獏型の魔獣がとある一年生女子の夢に入り込んだ。
彼女に悪夢を見せて苦しめていたので、夢に潜入できる魔法を習い、精神世界の中で魔獣を退治した。
その時に、私は記憶操作を一年生女子におこなった。
記憶操作も3回目。完全に私たちのことは忘れ去られたのだ。
「覚えてたわよ、あの子」
「えええええええ!?」
「まだまだ未熟ね。ぼんやりとだけど、あなたのことが記憶の片隅に残っていたみたい」
「そ、それで……どうなったの?」
「朝森くおんという人間のことが、気になり続けた。夢の中で怪物を退治してもらったという記憶はないけれども、あなたに救ってもらったというイメージは存在した。なんとなく気になるから、そのことを友達に相談した。『くおんさんのことが気になる……』ってね。そしたら、多感な女子高生のこと、うわさは広がる」
「な、なるほど。それでこうなったと」
うん、待てよ?
私が人気になったということに違いはないんだよね?
やっぱりファンクラブじゃん!
「はあああああああああ……」
トウリが長~いため息をついた。
「くおん。あれ見て」
「え?」
私は、トウリが指さす方を見た。
そこには。
桜がいた。
「あ…………………………くおんちゃん、おはよう」
全速力で桜の下に向かう。
あやまらないと。
桜にあんな寂しそうな顔をさせたことを、あやまらないと。
なにをしてるんだ、私は。
ちょっと人気になったくらいで天狗になって。
大切な友達のことを忘れたら、駄目だろう。
「そもそも今の状況が続くと、噂の発端となったあの一年生女子は、周りの雰囲気の後押しで完全に記憶が蘇ってしまう。だから学校全体に記憶操作をしておくよ。うまく噂が終息するようにする。これは貸しだよ、くおん」
トウリの言葉を背に受けて、桜の目の前までやってきた。
そして、言う。
「ごめんなさい桜! 私の顔を良すぎるばかりに!」
「くおんちゃんのバカ!」
その日は口を聞いてもらえませんでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます