回顧5 とある夏の日
「お祭りいけなかった~~~~~~~」
「桜、まだ言ってる……」
燦燦と降る陽射しがキツい。蝉の鳴き声がうるさい。
どうしようもないほど、夏だ。
私と桜は木陰の下にあるベンチに座り、公園の遊具を見つめるだけの非生産的な時間を過ごしていた。
「昨日の夜に出てきた魔獣がやけに強くて、時間が掛ったんだから、仕方ないよ」
「せっかく浴衣も用意してたのに~~~」
昨日の魔獣との戦闘は、浴衣で臨むことになってしまった。
安物とはいえ、せっかく買ったやつがぼろぼろの状態に。
「浴衣は残念だったけれど、魔獣に勝ててよかった。それでいいじゃない」
「それはそうなんだけど……今年の祭りは今年だけなんだよー」
桜は季節ごとのイベントを大切にする子らしい。
その日の思い出はその日だけ、ということか。
「それじゃあ、ちょっと遠出するけど×××市のお祭り、行く? 浴衣は無いから私服で行くことになるけど」
「ああ、うん……そうだね、それも楽しそう」
「桜にしては歯切れが悪いね、どうしたの?」
「私が小さい頃から毎年行っていたお祭りに、今年はくおんちゃんと行きたかったんだ」
にへ、と笑いながら桜は言った。
「……そ、そうなんだ」
その笑顔には、弱い。
まずい。顔が赤くなる。暑さだけでは言い訳できない。
「お祭りの会場でさ、くおんちゃんに言いたかったんだ。私がお祭りを大切な思い出にしてて、その思い出のいちばん新しいページにくおんちゃんがいるってことを伝えたかった」
「……」
顔の赤みを見せないために、うつむくしかない。
「いままで居た友達の中でも、こんなに長く一緒の時間を過ごした子はいない。真夜中のお月様の下、魔獣を探して駆け回る。楽しいんだよ、今が。くおんちゃんと共に戦う今が。くおんちゃんはどう?」
「……私も楽しい」
危険なことは山ほどある。逃げ出したくなったこともある。
それでも、桜がいたから。
どんな巨大な魔獣を前にしても、不敵な笑みを絶やさなかった、あなたがいたから。
私は戦えた。
そして、いっしょに笑うことが出来た。
「よかった。ねえ、くおんちゃん。来年のお祭り一緒に行ってくれる?」
「ずいぶんと先の予定になるね。うん。いいよ。来年こそ一緒に行こう」
桜はたまに、なんの前振りもなくこんな恥ずかしいことを言ってくる。
私の顔は赤くなりやすいらしく、それを見せないようにするのが大変だ。
「よし! それじゃ涼みに行こうか!」
「うん?」
桜が急にそんなことを言い出した。
どこへ?
「…………………………ふたりとも、なにしてるの」
ほら、トウリの目がものすごく怖くなってるって!
ぜったい怒ってるよ!
「あ~~~~~~図書館は涼しいな~~~~~ここの気温一定だから、夏に来たら最高だなってずっと思ってたんだよ~~~~~」
「その、トウリ……ごめんね?」
私と桜はトウリの大図書館へやってきていた。
涼しさを求めて。
柔らかいソファーに寝そべっている。
「…………」
「ごめんなさい!」
「ちゃんと本は読んでくよー」
魔獣に関する勉強もしていきました!
いつもトウリにはお世話になります!
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