未来への意思!
「無事に逃げ切れたと判断していいと思う」
『鉄塊』のコックピットに座りながら、レッドは他のメンバーに告げた。
危なかった。
プラントの戦闘機隊を振り切り、どうにか亜空間に逃亡できた。次元と次元の狭間までくれば、一安心だ。
「だが、レッド。鉄塊のダメージが大きすぎる。後でデータをまとめるが、装甲が危険域に達しているのは確実だ」
ブルーが一瞬弛緩しかけた空気を打ち消す。
ミサイル攻撃によりエンジン部分に重大な障害が発生していたのだ。
当分、全力での行動は難しいだろう。
「で、でも僕たち全員なんとか無事だったんだから良かったじゃないか」
グリーンは空元気でそう言った。
「私たちは捕らえられた人たちを救えなかった。私たちの負けよ」
「……」
ピンクは冷静に今回の結果について話し、イエローは沈黙を保ち続けている。
「イエロー、あの基地でとてもつらいものを見たのね? 耐えられる?」
「……少し、厳しいね。俺っちは図太いのが自慢だが……今回のはこたえた。ドクターにメンタルを一度チェックしてもらおう」
体以上に、精神へ大きな傷がついた。プラントのバラ将軍はこのような効果も見越して、作戦を組み立てたのだろう。
罠にはまり、それを抜け出すことは出来た。
だが、自分たちの手札をある程度さらす結果になってしまったのだ。
さきほどまでの戦闘を参考として、プラントは次の手を打ってくるだろう。
こちらは5人。あちらは大量。
圧倒的に不利であるという、歴然たる事実。
「……プラントとの戦いは俺が主導したものだ。みんなすまない」
レッドが謝罪する。
5人組はこれまで多くの悪の組織と戦ってきたが、プラントに関しては特に、レッドが積極的だった。
理由は明白である。
レッドにはかつて恋人がいた。
恋人はプラントの実験に巻き込まれ、怪物となってしまった。
殺戮を続ける恋人を、レッドは殺した。
「レッド。お前の苦しみ、そして葛藤はここにいるみんなが分かっている」
「ありがとう、ブルー。俺はプラントに対してケジメをつけないといけない。あの時から……俺はプラントという組織について考え続けてきた」
人間大の球根と化した恋人に、鋭いナイフを突き刺した感覚は、今でもはっきりと覚えている。
あれ以上の悲しみは、きっとありえないだろう。
プラントに対する憎しみは限りない。
「けれど」
けれど、レッドは思う。
プラントに対する尊敬の念を。
あれは5人組を結成する少し前。まだ単独のヒーローとしてマルチバースを渡っていたころ。
一つの滅び切った世界での出来事だ。
『侵攻体』という次元間を越える侵略者によって、その世界はレッドが到着した時には、既に滅ぼされていた。
全ての生命が喰い殺され、広がるのは一面の荒野。
そこに、花を植える少女がいた。
少女は、プラントの研究員だった。
『殺してやろうかな』
そう思ったこともある。
だが、少女と他の支部員は、ただひたすらに世界の緑化を進めていた。
昼も夜も、いかに生命を取り戻すかを考え続けていたのだ。
侵攻体によって発生した毒素を大地から取り除き、生態系の基礎となる適切な植物を選別する。
『×××さんも花は好きですか?』
少女は屈託のない笑顔でそう言った。
心に満ちていたはずの怒りが、ほんの少し、薄まった。
『俺も手伝うよ』
いつの間にか、レッドはプラントの手伝いを始めていた。
自分とプラントの関係は明かさず、ただ、この世界の緑化のために働いた。
一部残存していた侵攻体と戦い、大けがをしたこともある。
『なんでそんな無茶をするんです! あなたが死んでしまったら悲しむ人がいるんですよ……わたしとか!』
『ははっ……ありがとう』
やがて、植物が荒野に根付くようになった。
花々も咲くようになった。
『×××さん! みんな、とっても綺麗ですよ!』
今でも忘れらない光景がある。
世界に戻ってきた花畑の真ん中で、少女が佇んでいる。
心からの笑顔で、喜びの声をあげている。
プラントは秘密結社だ。この地に人類が再生しても、プラントのことが伝わることはない。
それでも。
レッドは、自分だけでもこの光景を覚えていようと思った。
「……俺はプラントを滅ぼそうとは思わない。プラントの世界再生部門、保護区に代表される難民救済は賞賛されるべきものだ。ただ、人体改造などの非人道的な行いにもプラントは手を染めている」
「ならば、どうする」
ブルーはレッドに言葉の続きをうながす。
答えは分かっている。
だが、あらためて聞きたかったのだ。
レッドが長い葛藤の末に出した結論を。
「プラントの総統を倒す。そして、プラントを変える」
レッドの考えは、多分に希望的観測が混じっている。
現在の方針を続ける総統を倒し、それから非人道的な部署のみを滅ぼせば、プラントは変わるのではないか。
もちろん単純すぎるし、うまくいく可能性は低いだろう。
しかし。プラントの全てを否定してはいけないと思えたのだ。
「レッド、まったくお前は甘ちゃんだよ」
ブルーが鼻で笑う。
「だが……きらいじゃない」
「……ありがとうブルー」
ブルーは思う。プラントに対する憎しみを抑えるのに、この男がどれだけの時間を費やしたか。
今はこの甘ちゃんの考えに乗ってやりたかった。
「スポンサー曰く、プラントに揺さぶりをかける準備は整ったらしい」
レッドが皆に告げる。
『スポンサー』がどこまで信用できるか分からない。だが、プラントの現総統に対する憎しみは感じられた。総統撃破という目的は一緒だ。ならば共闘できる。
「ドクターが進める強化アイテム『ゴーグル』もあと少しで完成するらしいわ。これならバラ将軍とも……」
「よし、気合が入ってきた!」
ピンクの言葉に、グリーンが腕を振り上げる。
「ここからが大変だけど……俺っちたちならきっとやれるさ」
イエローの言葉に、力が戻り始める。
「さあ、まずは俺たちの基地に帰ろう!」
レッドは闘志を新たにした。
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