第11話 保護区

 ベルが一花にAVを見せようとしていた。


「風紀を守って!!!!!!!!!」


 私のさけびが総統執務室にこだまする。

 明らかにエッチだと分かるパッケージから、DISCが取り出される寸前であった。


「え~」

「え~、じゃないよ、もう。一花になにを見せようとしてるのさ」


 なんとか、やばいDISCがIN! する前に止めることが出来た。

 いやでも本当にどうしたの? 


「前にさ、一花にも性教育しないとって言ってたんじゃん? だから教材の一つとしてね?」

「AVは教材として適さないと思うんだけど……」


 あくまであれはファンタジーとして楽しむべきであって。


「基礎はもう教えたよ? AVはこういう娯楽形態もあるということを紹介するためで……」

「基礎はもう教えた?」


 ちょっと待って、ちょっと待って。

 ベルが教えた? その、だいぶエッチなベルが?

 私は一花の顔を覗き込んだ。


「……………………………プラ」

「顔が真っ赤だー!!! 一花に短期集中講座を受けさせたね!?」


 純粋な一花に、なんてことするんだ!?


「失礼だなー、おかしなことは教えてないよ。ちゃんと、めしべとおしべの延長線だけだよ?」

「ほんとうだろうねぇ、ベル?」


 記憶を除去するやり方はあるが、一花にはあまり使いたくない。

 もうあなたのことを信じるしかないですよ、私は。


「信じて大丈夫だよ。あなたの頼れる部下、バベルツリーですから」

「まったく……そもそもなんで私の執務室でAV鑑賞会をしようとしたの?」

「『保護区』に関係してるんだなー、これが」


 その時私の横で、もじもじとしていた一花が顔をあげた。顔の赤みは引きつつある。

 どうしたのだろう?


『総統、保護区ってなに?』


 まだ少しドキドキしていたせいか、デバイスへのタイピングに時間が掛かったようだ。


「ああ、そうだね。それじゃちょっと説明しようか。ええと……ああ映像資料がある」


 資料棚から保護区に関するDISCを取り出す。

 機器にセット。

 テレビに映像が流れだす。

 

 ……さっきまでAVが映し出される可能性があった、テレビである。


『おおー、ごちゃまぜだ!』


 映し出されたのは、大規模な都市。

 一花の感想の通り、その印象はごちゃまぜとしたカオスだ。

 

 なにせ、中世ヨーロッパ的な石造りの城塞のすぐ横に、江戸時代の武家屋敷が並んでいる。

 

 コンクリートで舗装された道路には、空中に浮かんだエアカーと、ユキヒョウに引かれた車が一緒に走っている。

 

 超近代的なビルディングの中に、100メートルほどの高さを持った泥の塔が建っている。

 

 空を飛ぶ竜に乗るのは、頭が二つあるミュータントだ。


『これが保護区?』

「保護区の首都だね。あちこちの滅び去ってしまった世界の住人を、プラントが集めて、この空間で暮らしてもらっているんだ」


 プラントが作り出した、次元のはざまに浮かぶ惑星大の空間、それが保護区だ。

 

 ごちゃまぜなのは基本、首都だけで、後はそれぞれの世界の住人が自分たちの町を作って暮らしている。

 

 色んな文化、技術を持った人たちがいるから、様々な軋轢もある。

 けれど、ここの管理はそれだからこそ面白いと、プラント内部では結構人気のある仕事だ。


『楽しそう!』


 一花は目をキラキラさせながら、映像に見入っている。

 将来の目標として、保護区の所属というのもいいかもしれない。


「で、ここでAVの話に戻るわけですよ」


 ベルが言った。

 そういえば、そんな話してたね……。


「AVがどう関係してくるの?」

「保護区にAVを10万本送りました」


 …………うん?

 いま、なんと?

 

「AV10万本を既に送りました。事後承諾になってごめんね♡ 娯楽分野の発展が進んでないってのは、前から言われてたじゃん。だからこの問題に一石を投じるべく、行動を起こしたというわけです、はい」

「べ、ベル~」


 絶対に保護区では軽くパニックになってるよ。

 いきなりAV10万本は誰だって戸惑うよ。

 

 まったく。

 最近ベルのスケベさに、ギアがかかってるような気がするなぁ。


 

 

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