第9話 ダメな大人たち

「「「ぐお~~~~~~~~~」」」

「……………………ううむ」


 グランシードの第一食堂へと向かう通路、そのど真ん中。

 私と一花の目の前には、三人の怪人がひっくり返っていびきを立てている姿があった。


『三人はどうして道の真ん中で寝ているの?』

「ううむ」


 一花にどう説明したものだろう。

 大の大人が、日本酒の瓶を抱えて寝ているこの状況を。

 

「むにゃむにゃ……総統の困った笑顔がかわいすぎる」

 

 瑞々しい胡瓜の肌を持った竜、怪人ドラゴンキュウリ。


「むにゃむにゃ……ベルさんのおっぱい、めっちゃでかいっすね」

 

 赤地に黒い斜線が走るトマト頭、怪人Xトマト。


「むにゃむにゃ……バラ将軍ぼくを踏んでください」


 人間大のナスの体に鋼鉄製の手足がくっついた異形、怪人ナスボーグ。


「「「むにゃむにゃ……」」」


 我がプラントの誇る怪人たちである。

 ……怪人は選び抜かれたエリートのはずなんだけどなぁ。

 なんでお酒で酔っぱらった末に、こんなことになっているんだろう?


「一花はちょっと待っててね。さて。三人とも、どうしたの?」


 私は寝ぼけている三人に話しかけた。

 まず、ドラゴンキュウリが答える。


「むにゃむにゃ……うまい酒が手に入ったので、他のバカふたりと飲み始めたんだ。そしたら思いのほか盛り上がって」

「どういう話題で盛り上がったの?」

「プラントのトップ層のなかで誰が一番魅力的なんだろうなって……」


 次に、Xトマトがしゃべり始めた。


「やっぱりバベルツリー、ベルさんっすよ! だってエロいんですよ! それだけで最高じゃないっすか! スケベを許容するってことは、男と女の間にある壁を破壊するってことっす……もうなにも遮るものはない……フリーダム……っす」

「なるほどね」

「ああでも、無邪気さも最高っす……一度思いっきり抱き着かれたことがあるんすけど、セクシーな雰囲気を持った女性にあんな無垢な笑顔をされたら……もう駄目っす。その場でオレぶっ倒れました」


 続いて、ナスボーグが語り始める。


「みなさん、バラ将軍こと、祥子さんにイジメられたいとは思いませんか? ぼくは彼女にSの可能性を見ます。単純なツンデレの枠に彼女を閉じ込めておくのはもったいない。最初は恥ずかしがって、赤面されるでしょう。しかし徐々に彼女の息は荒くなるのです。自らの内に眠る未知の感覚に戸惑いつつ、鞭を愚かなるぼくにむかって……!」

「そりゃ祥子は鞭も使うけど」

「プレイが終ったあと、彼女はぼくを抱きしめてくれるのです……『よくがんばったなお前。えらいぞ』と褒めてくれます」


 ここでドラゴンキュウリが声を上げた。


「おまえら基本に立ち返れ! 我らの偉大なる総統がいかに可愛いかを思い出すんだ! 怪人として調整された後の謁見式で、あの人どんな顔をしていた!? 『すごいなぁ、すごいなぁ……!』と無意識に言いながらキラキラとした目をこちらに向けていただろう!」

「私そんなこと言ってたの!?」

「まるでクリスマスプレゼントを見る幼児のようだった。かわいかった……!」


 思った以上に衝撃的な言葉が出てきた。私が戸惑っていると、酔いの残っている三人はボルテージを上げ始めた。


「水仙子爵は色気が無いっすよね?」

「しかし王子様的な雰囲気を見せつつ、ときおり無防備なエロスを披露して下さるところは、高得点です。お風呂上りの少し油断した格好……うふふ」

「いくぞお前らぁ!」


 どうした!?


「×××××! ×××××××! ×××××××!」

「×××××××っす! ×××××っす! ×××っす!」

「ですからみなさん××××××××××こそが至上なんですよ!」


 これは放送禁止用語だなぁ。

 急いで一花の耳をふさぐ。いや、Sだとか鞭だとかが出てきた時点でふさぐべきだったか。性教育の時間か。


「総統、これを」


 ふと横を見ると、そこには戦闘員寮長の田中さんが。

 その手には水が並々と入ったバケツがあった。


「ナイスタイミングだよ、では」


 一花の耳をふさぐのを田中さんに任し、私はバケツを受け取った。


「そこまで、だよ!」


 そして、水を三人にぶっかける。

 たちまちのうちに、ずぶ濡れ。

 三人は呆気にとられる。


「……えっと、あの、え?」

「貴方たちなら、やろうと思えばすぐにでもアルコールを分解できるはずだけど?」

「……総統?」


 ドラゴンキュウリは冷や汗をだらだらと流し始めた。

 他の二人も同様。

 ようやく酔いが醒めたようだ。


「やべーっす。やべーっす」

「もうかくなる上は」

「「「ごめんなさいいいいいいいいいいいいい!!!!」」」


 私に向かって、三体の怪人が一斉に土下座をした。寸分の狂いもなく、同時である。


「私は怒っていないよ。でもね?」


 私は、後ろを振り向いた。


「あの子たちはどうだろうね」

「「「え?」」」


 これもまた、ナイスタイミングといったところだろうか。


「……鞭は使わねえよ。今からお前たちには、愛情なんて欠片もねえ特別訓練を受けてもらう。覚悟しとけよぉ!?」

「き、きみたちは、なにを……不潔だぁ!」

「わたしは別にいいんだけど、このままの方が面白そうなんで……ノリでいきます!」


 こうして三体の怪人は、我らがプラントの幹部、バラ将軍、水仙子爵、バベルツリーに引きずられていった、と。

 ちゃんと反省するんだぞー。

 

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