第7話 水仙子爵による解説

「ようやくボクの出番というわけだ!」


 水仙子爵、通称『仙』は胸を張った。近世欧州貴族風の格好を身に纏い、その場でくるりと身を回す。銀髪が優雅に翻る。


「よろしくね、仙。私はちょっと作業をしないといけないから、その間一花にグランシードプラント本部のことを教えて欲しいんだ」


 5人組による新支部襲撃の翌日。私と幹部陣はその対応にあたっている。


 バラ将軍祥子は5人組の行方を追い、私はカルテルの動向について調べていた。

 総統執務室に集められた諸情報をまとめ、担当部署に指示を出す。

 そしてさらなる情報を手に入れる。

 

 ちょっと手を休める余裕はなく、その間一花のことはどうしようかと考えていると、タイミングよく仙がやってきた。1億ドルの件もなんとかなり、暇をしていたらしい。


「ただし、この執務室で教えてあげて。私の耳の届く範囲で。教える内容にツッコミが出来るように」

「む、むむ? あ、あのもしかしてボク、あんまり信用されてない?」

「念のためだよ、念のため。地道な運用で1億ドル補填の目途を、すぐに立てたのはすごい。ただし、仙は調子にのりやすいからね」


 私はからかいの意味もこめて、笑みを浮かべた。


「もう、分かったよ! ちゃんと教えるから! とりあえず概要だけ言って、実際の見学はまた今度でいいんだね……えっと一花?」

『よろしく!』

「へんな戦闘員だなぁ」


 楽し気な光景に目を細めつつ、私は作業に戻る。

 

 ちなみに、これから一花にはデフォルトの歯車頭ではなく、少女形態で過ごしてもらうことにした。少なくとも私と行動を共にする時はそうだ。

 

 これは戦闘員である一花がそのままの姿で、総統である私と長時間一緒にいると、周りの皆が困惑するかもしれないという考えからだった。


「まずグランシードの成り立ちからいこうか。グランシードはもともと、手のひらサイズの種一粒だった」

『そうなの!?』

「総統がとある世界の魔王を倒した時に手に入れたらしい。その魔王は世界を魔草で覆いつくすことで滅ぼそうとしたんだけど、その技術に総統は興味を持った……もうこの時にはトウリ博士はいたんだっけ?」


 仙が私に尋ねてきた。


「そうだね、まだ私とトウリ博士の二人だった。あの魔王を倒すのは苦労したけれど、苦労した価値はあったね。思えば、プラントが植物を重視する組織の端緒は、グランシードを奪い取ったあの時だったかもね」

「そっか、すべての技術はグランシードからか……ああ、それで総統たちはグランシードを育てて、今の大きさにした。そしてプラント本部を立ち上げた。あちこちの世界から人員を集め、幹部を養成し始めた。ボクも最初期のメンバーさ! 成績優秀でほかの連中よりもとびぬけた存在! まさにこの頃から最高幹部の道は約束されていた!」

『なんと! 仙ってえらかったんだね!』


 よし、ツッコミを入れよう。


「最高幹部ってところはウソだね。強いて幹部の代表を挙げるなら、トウリかな? 一番最初のメンバーだし」

「あ、いやちょっと口がすべちゃったね……」

「さ、続けて続けて」

「……おほん! ある程度組織の形が出来始めると、プラントはマルチバースに支部を作り始めた。そして、グランシードは移動要塞として活動することになったんだ」

『移動要塞?』

「次元を渡るのさ。一つの世界に留まっていると、その世界が敵だらけになった場合、リスクが高すぎるからね。だから本部を定期的に移動させる。いまボクたちがいる世界は、魔力皆無の21世紀初頭の世界だ」


 ……私が元々いた世界、桜と出会った世界とよく似た世界だ。


『海底要塞ってことは、海の中にしかいられないの?』

「いや、それは違う。前の世界では空中に浮かんでいたんだ! まあその世界は地殻変動で溶岩に覆われてしまって、ほとんど滅んでいたから、堂々としていられたんだけど。ボクたちは僅かに生き残った人類を保護して……」


 仙の解説が続く。

 プラントの先輩として、がんばってね。

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