第6話  ヒーローチーム『5人組』

 グランシードの『医務室』とは通称の一つであり、実際は大規模な病院のことだ。一通りの医療処置は行えるようになっており、別の世界から通院している利用者も多い。


 私は祥子バラ将軍と一花を連れ、医務室へと入った。

 一花は少し不安そうな顔を私へと向けている。

 グランシード案内の初っ端から、このような慌ただしい事態に巻き込んでしまった。


「私の側から離れちゃだめだよ、一花」

「プラ……」


 通路を歩いていると、私たちの前に誰かが立っていた。


「おいおい、蓮根グラード! ベッドで寝てろよ!」

「皆様の声が聞こえましてな。一秒でも早くご報告をしなければと……」


 あちこちに穴が開いている白い巨躯。

 プラント怪人の一人、蓮根グラード。

 

 56世界でのヤクザ抗争、693世界の魔王討伐、2231世界における対神格戦など、様々な戦いで功績を残した優秀な怪人である。

 

 だが、今は本当に大きなダメージを負っているようだ。

 生まれた時から彼にはいくつかの穴があった。しかし。

 

「また、体の穴が増えたね……」

「総統、私の傷は私の誇りです。悔むべきは、失ってしまった我が仲間たちのこと。新支部のメンバーは全滅いたしました。まことに、申し訳ありません」


 失った、か。

 一瞬、桜のことを思い浮かべてしまった。


「ああ、もう! 手短に聞くぜ。新支部でなにがあった? わたしたちも報道部のニュースでやってた内容しか知らないんだ」


 祥子が蓮根グラードに、今回の出来事の詳細をたずねた。


「了解いたしました。新支部立ち上げのメンバーは私を含めて10人でした。その世界の人間や、他の秘密結社には気づかれないよう、細心の注意を払って作業を進めておりました。ですが本日、奇襲を受けたのです。相手は間違いなく、5人組。赤、青、黄、緑、桃。五色の戦士でした」

「最近、急に活発化してきたよな連中……交戦中、なにか気づいたことはあるか?」

「そうですね……微かにですが、陽動の感がありました。全力の攻撃ではなく、何か別の目的があったのではないかと。陽動の攻撃でメンバーを失った私が言うべきことではないかもしれませんが……」

「陽動ねぇ……ああ、あまり自分を責めるな。少なくともわたしは、必死で戦ったやつを見下すようなマネは、絶対にしない」


 5人組。

 プラントと敵対するヒーローチームの一つだ。

 

 自らを色の名前で呼ぶ集団で、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクの5人がいる。


 科学と魔法をバランスよく配合した異能を持っており、次元を股に掛けて、様々な戦闘活動を行っている。

 いままでプラントは、彼らに何回も作戦を邪魔されてきた。


「ニュースではカルテルが関わっているとも聞いた。これはどうだ?」

「確実とは言えません。しかし監視カメラの映像には、5人組がカルテルという単語を口にしたことが、はっきりと残っています。映像情報を精査した後、提出します」

「と、なると……新支部の場所を突き止めたのはカルテル? カルテルが場所の情報を5人組に与えた……5人組が悪党と手を結ぶかなぁ?」


 カルテル。

 マルチバースレベルの勢力を持つ、利益集団だ。

 

 彼らは自らの商売のために動く。

 それぞれの世界で手に入りにくい、厄介なものを売りさばく。

 麻薬、兵器、ブラックホール、魔王城。

 

 カルテルがやってきた世界には混乱が渦巻く。

 プラントとは主義主張の違いから、あまり交流をもっていない。


「バラ将軍。カルテルに関しては私の方からアプローチをしてみる。あなたは5人組のほうに注力して」

「了解だ、総統。さて、基地を潰されたからには、こっちも動かないといけないな。連中の拠点がどの世界にあるかは……」

「どこまでお役に立てるかは分かりません。ですが5人組との交戦中、やつらのスーツに発信機を取り付けました」


 蓮根グラードの発言に、祥子はパチンと指を鳴らした。


「でかした!」

「すぐに気づかれるかもしれませんが……」

「手掛かりにはなる! 蓮根グラード、あとはわたしに任せろ。お前はしっかり休め。5人組は必ず痛い目に合わせてやるからな」


 ……5人組のリーダーであるレッドは、プラントと因縁がある。

 

 彼の恋人は、プラントによって処置を受けた。異能の才能があったのだ。

 だが、処置は失敗した。

 恋人は蠢く球根となり、人間を殺戮し始める。

 レッドは恋人を殺し、魂を救った。


『総統?』


 一花がデバイスで文章を入力後、私の側に近づいてきた。

 不思議そうに、こちらを見ている。

 さて。

 私はいま、どんな顔をしていたのだろうか。

 

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