第5話 グランシードの大ロビー

『すごい広い!』

「まずは大ロビーに連れてきたけれど……喜んでくれてるようで良かった」


 実際問題、一花と一緒にいることは私にとって、楽しみの一つになりそうだった。

 

 プラントの創業時は、子供の世話という仕事も私自らが参加していた。あの頃は組織立ち上げのために、何から何までが忙しかった。その中でメンバーの子供、そして後の幹部たちの世話は、それ自体も大変だけれども、よい憩いのひと時になってくれたのだ。

 

 一花と常時一緒にいるわけではない。その上で『先生』としてふれあいの時間を持つ。それはもしかしたら、あの時と同じ心地よさを与えてくれるかもしれない。


「今日も今日とてごったがえしてんな、ロビーは」


 今日は私、一花、バラ将軍祥子の三人で、プラント本部のある海底要塞グランシードの『玄関口』、大ロビーにやってきていた。

 

 少女の姿をした一花が、とある場所へ指をさす。そしてデバイスに文字を入力する。


『あれはなに?』

「あれは空間ゲートだよ。あそこから別の世界に行けるんだ」


 そこには、ローマ帝国的な石造りの門があった。門の中は淡い光で満たされている。大きさは50メートルの正方形。

 

 門の中に数人が入り、光の中へと消えていく。

 次に、光の中から数人が出てきて、大ロビーの中を歩み始める。

 人が出たり入ったり、だ。


「グランシードの中に空間ゲートはいくつもあるけど、一番使われているのは大ロビーのゲートかな。一日で数百人が出入りすることもあるよ」


 さて、ロビーの喧騒に耳を傾けてみよう。


「あんた、この世界じゃステータス確認は出来ないぞ? 自分の体を調べたかったら、すぐに医務室に行ってくれ」

「あー、そうだったな。すまん。しかしステータス確認に慣れてると、いろいろ面倒くさく感じるな……」

「1814世界の植物データ、今すぐ下さい! 崩壊した113世界の緑化に必須なんです!」

「うわ!? レポート書いて技術部に提出するから、ちょっと待ってて!」

「マルチバース間の支部長会議、結局グランシードでやるのか?」

「支部も増えたからなぁ。リモート参加が8割だったとしても、会議メンバーが入る議事堂はなかなかないよ」


 戦闘員に潜入工作員、科学者に探検家、それに人事課。

 みんながんばってるなぁ。

 組織の長として、こんなにありがたいことはない。

 

「まて。ちょっと変だぞ」

「え?」


 祥子の言葉に反応した、次の瞬間だった。


「どいてどいてどいて! 救急患者が通ります! すぐ医務室に連れていきますからね! 大丈夫ですから! 大丈夫!」

「……」


 突如、白衣を着たプランター数名と、担架に乗せられた怪人が、門から出てきた。

 大ロビーの注目が、一斉に集まる。


「担架で運ばれている怪人、蓮根グラードじゃないか?」

「あの人確か、691世界に新しく支部を作る仕事をしていたよな? そこで何かあったのかな?」

「691世界の新支部が攻撃されたって、さっきプラントニュースに出てました! 壊滅したらしいです!」

「まじか。医療施設もぶっ壊されたから、グランシードまで運んできたのか……」

「ほとんど活動していない支部だから、その世界の人間に敵視されることはないはずよね……」

「ニュースによると、別の世界からヒーローがやってきて奇襲をかけたらしい」

「そのヒーローはどうやって新支部の場所に気が付いたんだ?」

「どうもカルテルが関わってるらしい。あいつら……」


 私は蓮根グラードに話を聞くため、医務室へ向かった。



 


 

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