第4話 私が先生?

『というわけで。戦闘員一花の先生役、がんばって』

「ちょ、ちょっと!」

 

 そこで電話は切れた。

 かけなおしても、留守電になっている。


「……で? プラントの誇るトウリ博士はなんだって? またろくでもないことだろうけどさ」

「ははは……」

「プラ?」


 総統執務室のソファーに座っているバラ将軍、愛称は祥子、が頭を掻きつつ電話の内容を聞いてきた。電話中の一花の相手、ありがとうね。


 一花はきょとんとしながら、私の方を見ていた。

 その頭部は、黒髪をした中学生ぐらいの女の子である。

 歯車では、ない。


「一花はだいぶ、個性的な子なんだね」

「そのせいでややこしいことになってるんだろ?」


 製造時に不具合を起こしたであろうプランター戦闘員、一花と出会ってから数日が経った。

 あれから一花は製造部に送られ、検査を受けたのが、そこでどうもおかしなことが判明したらしい。


  「プラ」としか喋れない一花は、当然不具合を抱えていることになるのだが、のが問題だったのだ。

 

「製造時に不具合があったプランターは、大抵の場合まったく動けないらしいね。ほとんど人形と同じ。直すよりも一から新しいプランターを作った方がコストがいい」

「それがこの一花は……ああ一花! 勝手に部屋を出ようとするなって! またわたしの赤い髪を触らせてやるから!」

「ふふ……一花は喋れないことと、精神年齢が幼い以外に問題がない。人間への変身も出来る」


 要するに、製造時に不具合があったら普通動かないのに、一花は動いている。これが本当に珍しいパターンだったのだ。

 

 一定レベルの知性テストにも合格。社会工作用の、人間態への変身も問題なし。


「一花、これで自分の言いたいことを入力してみて」

「プラ? ……プラ!」


 私は一花に手のひらサイズのデバイスを手渡した。

 機能は文章を入力できるのみ、という簡素なタイプだ。

 一花は手早くデバイスを操作する。


『総統! わたしおなかがすいた!』

「文章を使ってコミュニケーションも出来る」


 なんとも変わった子だ。

 だから、プラントの技術部が興味をしめした。


「技術部が調査をして……それでさっきの電話。トウリ博士は私に『先生になろう』って言ったんだ」

「いやいやいやいやいや。まてまてまてまてまてまて」


 祥子も赤髪を振り回して、だいぶ驚いているようだ。

 

 ああ、トウリ博士というのはプラント技術部の総元締めである女の子で、プラントを私と一緒に立ち上げた古株だ。


「先生ってなんだよ?」

「一花を近くで観察してほしいってことみたい。珍しいパターンを解析して、プランターの強化につなげたいんだね」


 そして、今の一花にはプラントの情報がほとんど存在していない。

 観察しつつ、いろいろ教えてあげて? とのことだ。


「そ! れ! は! プラントの総統の仕事じゃないだろ!」

「でも、おもしろそうじゃない?」


 誰かを教え導くなんて、久しぶりだ。


「祥子も子供だったころは私が先生だったね。懐かしいなぁ」

「……それは、そうだったけど」


 自伝にも書いておかないと。それも大切な思い出だ。


「祥子が夜眠れなくて私のベッドに………」

「わー! わー! わー!」

『わたし聞きたい! おしえて!』

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