第2話 邂逅、或いは再会

 友人の祖父の家は、思っていたよりもずっと近所だった。てっきり他の都道府県に行かねばならないと思っていたため、拍子抜けである。


 俺の家から徒歩十五分の友人宅からさらに二十分ほど歩いた場所に、その家はあった。決意を固め、インターホンを押す。


「ごめんくださーい」


 しばらく間があった後、ガチャリと扉は開かれた。


 扉から顔を出したのは、人の良さそうな表情をしたそれなりの年の男性。俺の姿を目に入れたとき、一瞬だけ目を丸くしたのが印象的だった。


「立ち話もなんだからね、あがりなさい」

「⋯⋯お邪魔します」


 お言葉に甘えて、家にあがらせてもらう。


「つまらないものですが」

「うん?ああ、わざわざありがとうね」


 無論、手土産を渡すのを忘れずに。この人の好みは友人からリサーチ済みなため、菓子が口に合わないということは無いはず。


「君は、おとぎ話は信じるかい?」

「まあ、人並み程度には」


 おとぎ話。友人が言っていた通り、この人は俺におとぎ話を伝えたいようだ。


「この地域には、妖精がおってな」


 思っていたよりもファンタジーな導入だ。


「考えるに、君の妹さんはその妖精だったんじゃないかと私は思う」

「確かに俺の妹の可愛さは妖精級だと言っても過言ではないですね」

「そういう比喩的な意味の妖精ではないがな。まあ話を聞いてほしい」


 そして彼は語り出した。







 妖精、という生き物は昔からこの地に住んでいるようでな。ただ、私たち人間が妖精を認識していないだけで、彼らはずっと人間の隣人だった。


 そんな妖精という生き物は、ちょっとした使命を背負っていた。なに、別にそこまで重要な使命ではない。失敗したところで世界が滅ぶ訳でもないし、成功したところで世界を救える訳ではないからな。


 妖精の使命というのは、才能の種を開花させる、といったものだ。妖精は才能の種をもった者を見つけると、姿を表す。


 あるときは友人として、あるときは好敵手として、あるときは家族として⋯⋯。姿の表し方は様々だが、とにかく才能の種をもった者と近しい位置にある者として現れるのだ。


 妖精は気まぐれに人間を導き、種を開花させたりさせなかったり。そして、一定期間が経つと妖精は姿を消す。


 種が開花しなければ妖精は忘れられ、開花すれば開花した本人の記憶にだけは妖精は刻まれる。もっとも、開花した者でも自分の妄想だったのではと思い始めてやがて記憶からなくなることもあるがな。


 この世の中、才能を開花させる者より開花できなかった者の方が圧倒的に多い。だからこそ、この妖精の話を知る者も少ないのだ。



「つまり、俺はなんらかの才能を開花させたから、妹の記憶を保持しているということですか?」

「そういうことだ」


 このおとぎ話がどこまで正しのかはわからないが、妹は存在したという事実を後押しするものであるのは間違いない。


「妹に再会するにはどうすれば良いですか!?」

「残念だが、妖精と再会することは不可能だ」


 不可能。絶対に会えないということか。なんで。なんで再び会うことは出来ないのだろうか。


 あれ、そういえば。


「妖精に関する話を知っているということは、あなたも才能を開花させた側の人間だったりするんですか?」


 才能を開花させた他人から聞いた可能性もありえるが、先程の口振りからまるで自分の体験談を話しているようだった。


「確かに私もかつては才能の種を持っていた。だが、開花させるには至らなかった」

「だったら、何故あなたは記憶を保持しているのですか⋯⋯?」

「それは、私と出会った妖精が禁忌を犯したからだ」


 彼はそう言ってから、しばらくの間言葉を発さなくなった。場は静寂につつまれた。

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