盛夏

たんぜべ なた。

お盆前に

 高層建築灰色のヨウカンに囲まれ、街の時代じかんから忘れ去られたかのようにポカンと口を開けている緑地帯の一角。

 ここは、市街地のど真ん中に取り残された寺院と、そこに併設された墓所。


「なぁ、ボウズ。

 お前さんは、こんな時期にお墓の剪定除草バイトなんて仕事をしているんだ。

 本当に『徳のある』事をやっているんだよ。」

 そう笑っているのは、植木屋バイト先親方オーナー

 今日は二人で終日、墓所ここ剪定大掃除である。


 しかし、これだけの高層建築マンションに囲まれていることだから、さぞかし高級物件お高いお墓なのだろう。

 そう思いながら、墓前に手を合わせてから、掃除にはいる。


 来週は『お盆』に突入する…だからこその『墓所の大掃除』なのである。

 翻って考えてみれば、お盆に里帰りする理由には、少なからず『お墓参り』というイベントは有ったことだろう。

 今では、『お盆』といえば、海外旅行を筆頭に、避暑地観光やらテーマーパーク散策など、非日常を楽しむ期間へと変貌を遂げてしまった。

 核家庭化が叫ばれて久しく、お一人様も増加傾向にある昨今、果たして『お墓参り』イベントなどあるのだろうか?


「墓参りを『はばかられる人』が多いから、俺達のような仕事も稼ぎ時なんだ。」

 複雑そうな顔をして、そう答える親方。


 生温い額の汗を拭おうと、首に巻いたタオルに手を添え、視線を上げて見えるのは、澄み渡る蒼い空。

 耳を済ませるまでもなく、響き渡る蝉時雨。

 乾いた喉を潤すために口に含んだ水筒から注ぎ込まれるのは、よく冷えたスポーツドリンク。

 一服ついて、再び雑草達との格闘が再開する。


 お昼のチャイムが流れる頃、流石の暑さに蝉も小休止をしているようだ。

 お寺からのご厚意で、お昼は高級店屋物幕の内のご相伴にあずからせてもらう。

泡入り麦茶ビールのお供が無いというのは、世の中は世知辛くなったものですね。」

 親方が大変残念そうな顔になれば、住職が大笑いしている。


 さて、来週はどんな『お盆休み』を迎えるとしよう?

 海に行こうか、山に行こうか…。

 そう言えば、誘うべき友人が何人居るかの確認もしなければ。

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盛夏 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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