アツカヒニクシ

 高校の敷地内の社殿から出て同い年の従姉妹の関係である高校一年の実子と貴子二人は立っていた。

 社殿の中には『常盤の庭』に所属する生徒が居て活動をしている。

 彼らを纏めるのが実子や貴子、そして生徒会の活動で中々此方に来られない町の社の姫川生徒会長である。

 貴子と空秀も生徒会の一員になり貴子は書記で、空秀は会計を担っている。

 生徒会選挙が終わり生徒会も代替わりをした為それに伴い貴子にも『常盤の庭』の人間の活動に関する事などを少しずつ共有して引き継ぎを行っていた。

 当代の『常盤の庭』管理人である実子がいない状態でも活動が円滑に行われるようにする為に注連縄の巻かれた大岩の前で二人は話し出した。

 

「あの子達は扱い方を間違えると手痛い竹箆返しを喰らうから気を付けるように」

「本当に、ミコ様の仰るとおりですわ……いや本当に」


 体の弱い実子は来られない日の為に貴子に管理を委任する日もあるだろうと色々教えていた。

 普段から間空秀に苦労する貴子はげんなりとした表情をこぼす。因みに当の空秀はガヤガヤとうるさい社の中で爆睡中である。


「いや、貴女に付けた空秀ほど厄介なのはなかなか無いけどね」


 ヨヨヨと手弱女のふりをする貴子に思わず実子は突っ込んだ。

 

「付き人としてを御せているなら大丈夫だと思うけど、いやどっちがお世話してるんだろう」


 いや止めておこう、と実子は言い話を切る。


「うっかりミスとかを指摘してもらえて事前用意もしてくださるけど、如何せん朝にしろ何にしろあの子の寝起きが悪すぎるですのよね……」

凸凹デコボコでもどうにか上手くいってるなら私は良いと思ってるよ。あの子は理解してもらえるかの不信感の塊みたいな子だから、頭が良すぎて逆に視界が狭い」


 腕を組んで実子は貴子に言った。


「しかしまあ、実子さんを甲斐甲斐しくお世話する龍野は大丈夫ですの?見るからに……キワ、ツワモノですけど」


 貴子が様々な言葉を考えオブラートに包んだ結果キワモノからツワモノになったが実子の付き人であり筋骨隆々でガッシリした体躯の男児である龍野紅葉たつのこうようを表す言葉として間違っては居ない。

 誰も信じられない様な境遇で実子が遠い場所から掬い上げてきた彼は実子を狂信しているような状態であり、それから月日が経って尚ソレは変わらない。紅葉はあまりにも有能であり身体も見た目通り強靭であるが、思考は武骨と言うわけでもなく柔軟でなんでも吸収してこなし実子の付き人としての地位を手に入れた。今では着替えなどで部屋を出払うようになど実子が命じないと全く離れようともしない。

 今回も実子が命じたから社の鳥居の陰で待機している。


「紅葉は私には勿体無い程有能で何処でだってやっていける傑物だよ、私が見ていなければ何しでかすのかわからない訳でもないし」

「ソレ本人に言ったら何か仕出かしかねませんことよ……」


 紅葉自身に聞こえてないか貴子は不安になるが、実子は気にする素振りもないようだ。

 貴子は紅葉に対して感心を寄せ親戚としても信頼している。だが暴走した彼を止めるには甚大な被害が出るのは想像に難くない。


「お願いですから、実子さんは龍野を御して下さいまし」

「まぁ、うん」


 かつて初対面で紅葉に野生の獣のようなギラギラした目と怪我だらけで不信感丸出しにした顔を向けられた貴子は実子に対して願った。


「子供の頃からカミの領域に触れたりさらに長く浸ったりするとヒトとして不安定になったりするからどうにもな、大人になれば落ち着くと思うが」

「……それは本当ですの?」


 何処から訊けば良いのか、何処まで本当なのか嘘をついてないにしろツッコミどころが多く貴子は胡乱気な目で実子を見下ろした。

 貴子から胡乱気な目を向けられた実子は伏し目がちに口を開く。


「それよりも来年になったら一波乱ありそうだ、紅葉同等の有能さと爆弾を抱えた子が来そうだ」

「え!? それって紅葉と揉め事起こして被害出たりしませんこと?」

「いや、まだ成長した本人には会ってないけど私達と同い年の女子だからどうなんだろう。紅葉とは利害関係で左右されそうな気がするが」

「え、私達と同い年ですの……と言うことは来年は転校生が居るって事ですの?」

「おそらくは……とりあえずこれで私は今日は帰るよ」

「あら、まぁ……」


 貴子にそう言って実子は紅葉の下へ向かった。

近付いてくる実子に気付いた紅葉は倍の速さで颯爽と実子の元に向かい荷物を受け取り帰りの挨拶をする為に社殿の方へ向かって行った。


「ではお身体をお大事になさって、ご機嫌よう」


 貴子も実子に挨拶をした後、生徒会室のある校舎の方に向かおうとした。

 校舎の前辺りで背中と言うべきか項と言うべき辺りがチクチクと貴子は感じ振り返る。


「?」


 貴子が優雅に振り返るとじいっと此方を見る紅葉が鳥居の側で立って居た。

 それなりに遠いので人間の耳では余程の大声でもないと音を拾えない距離である。

 特に口元も動いてないので喋ってはいないように貴子からは見えた。


「何かしら……」


 貴子が呟きながら首を傾げると紅葉の元に実子がやって来て話し出し紅葉の目線から貴子は外れた。


「まぁ、深くは考えないでおきましょう」


 口元に手で隠して呟き生徒会室に向かった。


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