アオは秋に春の色をもたらす
廊下から杖の音が近付きわざわざノックされる。
「失礼します」
そう言って楓、銀流、利三の三人が入ってきた。
「皆七五三お疲れ様。大人のお話も終わったから貴子さんは大人の方の支度が出来たらお家に帰る事になるわ」
「そうですか」
楓の言葉に貴子はしゅんとした顔を見せる。それでも帰りたくないと暴れないとても出来た子である。
楓はその言葉の後居間を退出して銀流と利三が残った。
「まぁまぁ、今度は私が遊びに行きますから…元気出して、実子は体が弱くて出られないけど」
「今度はたまには此方に遊びに行くことも考えよう」
「うん……」
依香と利三が落ち込む貴子を元気付ける。
その後銀流が話し出した。
「祝実子と政理貴子、二人共おめでとう。これで二人は氏子として受け入れられた。本来だったらもう二人やる筈だったんだがな……。この行事には色々意味があるのだが時間が押しているのでまぁ、今日はその様な難しい話は無しにしよう」
「今日はありがとうございました」
「うむ、元気に健やかに育ってくれ。そうだ、本題は政理家の利三殿やお前さん達の祖父母と話し合いをして決まった事を話に来たんだが、利三殿」
銀流が前置きが長い話をして貴子が銀流へ素直に挨拶をする。
銀流が話を始めると空気が明らかに変わり皆が銀流の事を見てしっかり話を聞くようになる、そして声にも何か人の心を動かす力があるのだろうか。
貴子は
そして銀流は良きに計らえみたいな返事をして本題に移る時に利三へ急に投げる。
利三も一瞬ピクリとしたが何も言わずにそのまま話を始める。
「えー、貴子と祝のご兄妹のこれからに関するお話がありまして」
そう言って利三は貴子を見て本題を告げた。
「貴子。貴子の許婚者が決まった」
「!?」
貴子も許婚者の意味はある程度は知っているようだ。
「え!?」
「あらあ」
「なるほど」
「いいなずけってなにー?」
「いずれ結婚する相手の事よ」
「おとーさんとおかーさんみたいなー?」
「そんな感じそんな感じ」
銀嶺はまだ幼いのに婚約者をあてがわれる事に素直に酷く驚愕する。
貴子は価値観として早い段階から婚約者が居ることに驚きは無いようだ。
実子は考え込みだしたが紫里の質問にすぐ答えていた。
「然様でございますか。して許婚者は何方ですの?まぁ、消去法で察せますが……色々と大丈夫ですの?」
依香は頬に手を当て利三に訊ねる。
「その心配は無用だ、準備出来たかー」
「はい」
銀流が廊下に向かってそう言うと楓が可愛らしい男の子を部屋に連れて来た。
ズボンを穿いて少しお洒落な洋服を身に着け髪の毛は肩より上で切り男の子としては髪はやや長めである。そして顔の色は白いが頬赤く生気はあり、穏やかそうな目は他の子供達を見ていた。
「祝
男の子はそう言って皆の前で綺麗なお辞儀を見せた。
「アオは私の名前の読みからの愛称で従兄妹だと隠す為だったんですよ、半ば騙すような真似をして申し訳ない御座いません」
そう言って皆の前で貴子に向かって膝を付いて謝る。
「い、いえ、うそはいってませんでしたし……男の方だったんですね……」
貴子は男性だと告げられ衝撃を受けていたが、そもそも女性とも言ってない事を思い出し怒ってはなかったが色々な恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
「青嵐、ずっと立ったり歩ける様になったのか!?」
「なぜか昨日から動けるようになったんだよね」
「何でそんな綺麗なお辞儀してるんですの!?後でスカート穿きませんこと?」
「えー……後でお付き合いします」
「察しはついてたけど驚いた」
「にーちゃんー」
「後で話そうか」
成り行きを黙って見てた実子と紫里以外の子供達が様々な理由で驚き青嵐の周りを囲むそして喜んだり様々な声を発した。
「この二人は将来何もなければそのまま夫婦になるだろう」
「祝と政理の名に恥じぬ様精進致します」
「どうか貴子の事を気に掛けてくれ」
銀流がそう告げて青嵐が意気込みを話しお辞儀をする。
利三が所作に感心しつつ貴子の事を宜しく頼むと青嵐に言った。
「これからも宜しくお願い致します」
青嵐はそう言って手を差し伸べる。
はにかむその笑顔はとても綺麗で貴子は見惚れてしまうが、その魅力は女性のモノに近いものだった。
「こ、これからもよろしくおねがいします」
貴子は差し伸べられた手を両手で取り握る、すると青嵐ももう片方の手も加えて握手した。
青嵐は飛び切りの笑顔で貴子を見る。貴子の顔はもう茹で蛸のように真っ赤になっていた。
こうして貴子には少し年上の従兄妹の許婚が出来た。
「おー」
「あらぁ」
「ほぉ」
「きゃー」
そして外野は全て見ていた。
帰りの車のドアの前で紫里以外の子供達はお別れの挨拶をしていた。紫里は幼すぎて危ないので祖父母と居間に居る。
因みに隔離が決定した梛子は祖父母の監視下で貴子とは別の車に乗せられて既に出発していた。
「元気でねー、貴子ちゃん」
「今度遊びに行く際は青嵐も連れていきますわね」
「はい、おまちしてます」
「その時は何持っていけば良いのかな?」
「……親に訊いたら?」
「うん」
「わ、わたしはなんでも……」
変な空気になったときにまた貴子は顔真っ赤にしていて従兄妹達に可愛がられていた。
一方、利三と銀流が最後の挨拶をしていた。
「この度は梛子がご迷惑をおかけしました」
「次はまともであることを願うよ、本当に土砂崩れが心配だ」
「……仰る通りです」
山の中なので利三は渋い顔になる。
「今日は晴れてるから大丈夫だろうが、暗くなる前にトンネルは越えておかないととただでさえ遠くて子供の負担になる」
「……はい、では……貴子、帰るよー」
涼しい顔で銀流は言い利三は貴子と一緒に車に乗り車が動き出した。
そしてその車は神社から去り山を降りていく。
「またねー」
見送りに来た子供達は笑顔で手を振っていた。
そして貴子はヒトとしての新しい日常が始まった。
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