アオはアワし

「お姉さんは日ぶがとくいとききましたが」 

「え、そうなのか依香?」

「えぇ、お祖母様が先生を呼んで習ってましたわ」

「にちぶー?」

「日本舞踊っていう踊り。舞のことでヒラヒラと扇持って踊ったりするの」


 貴子は従兄妹の依香や銀嶺と話していた。

 長女の依香が祖母により実家を空けているように長男も社というか家のトラブルでお寺に預けられている事が多く、その為この社であまり顔を合わせないせいか仲は良いがお互いについてあまり知らないことが今ここで露呈している。

 最年少の幼い紫里が座る実子の足に軽くペチペチと叩きながら実子に向かって訊ねる。

 それに対し実子がスラスラと答えていた。

 

「あら実子さん詳しいのね、日舞見たこと無いでしょう?」

「お兄さまの音楽の教科書に載ってたので」

「ん?……みのり子さんはお兄さんのきょうかしょよめるの!?」

「……えぇ、まぁ」


 実子が依香の言葉に返事をした内容でまだ小一とは思えない所業が貴子にバレる。

 散々実の母親に罵倒されて劣等感に苛まれた貴子に対して同い年でもコレだけ差があると知らしめてしまうのは心折れてしまう危険がある。

 これは失言だったと実子とそれより上の兄妹が水面下で焦りだした。

 因みに実子は銀嶺の持つ高校英語の教科書以外は大体読めるし銀嶺の夏休みの課題を手伝った事もある。

 依香の方は宿題を政理家の屋敷で祖母の呼んだ家庭教師とやっていたので実子のお世話にはなっていないようだが、実子が依香には難読な明らかに古い本とか読んでるのを目撃しているので察してはいたようだ。


「その代わり私はすぐ上のお兄さん程ではないけど激しい運動も出来ないから、本を読んだり絵を描いたりするような事しか出来ないんだよね。それに生まれつきあまり目も良くないし、私は貴子さんみたいに

「あ……そっか」


 慌てて実子はその代わりにあまり目が見えない事と走れない事を告げた。

 すると貴子は劣等感とは違う方向に複雑な表情を従兄妹達に見せた。

 当たり前だが昨日全力疾走で出奔して結果的に自分の足で帰って来られた貴子にはかなりの体力がある証拠でもある。


「きのう、山の中でたすけてくれたみたことのないおねえさんがいたの」

「……どんな人だったの?」


 貴子が昨日の話を始めた。

 実子が話を促す。

 因みに紫里以外はふんわりとは昨日の出奔事件と貴子の足取りを把握していた。


「きれいなお姉さんで今日おきたときにわたしをみてくれたお姉さんにどこかにていた人だったの」

「今日起きたときのお姉さんに似てる……?」

「お姉さん?あ」

「あ……」


 貴子の言葉にそれを聞いた紫里以外の三人がお姉さんという言葉に首を傾げ見合わせる。そして少ししてから何かを察した顔をした。


「それでその人の名前は何と言ってたの?」


 実子はとりあえず話の続きを促した。


「お山でたすけてくれたお姉さんはミケと言ってました」

「っ……!?」

「……?そうでしたか」

「……なるほどね」

「みけー?」

「猫よ、にゃーにゃー」


 貴子の言葉に兄妹達はバラバラの反応を示した。

 高校生の銀嶺はその言葉を聞いて驚愕の顔をしたが慌てて平静を取り繕い、中学生の依香はよくわかっていないのか普通に受け答えをして流した。

 実子は達観したような納得した顔をしていた。そして紫里ににゃーにゃーと誤魔化し相手をする。


「大きな岩があったりがけの近くをとおったりお姉さんいなければ道も分からず帰って来られないところでした」

「!?そんなことになってたのか」

「え……?」

「……何はともあれお疲れ様」

「がけー?」

「危ない所よ」


 貴子の言葉に銀嶺は驚愕の顔をし、依香は不可解な顔をして実子は達観した顔をしていた。そして紫里の問いに実子が答えていた。


「……それで朝起きた時のてどんな人?」

「すごくキレイで、よすがお姉さんよりどこかぼんやりしててどこかにきえちゃいそうなお姉さんでした。お名まえをきいたらアオっていってました」


 実子は誤魔化すように質問した。

 そしてその質問も普通に考えると既におかしいのだが幼い貴子は何の疑問を持たずに返事をした。

 

「……なるほど」

「そうでしたか」

「そっかあ」

「おねーじゃなくて、むむむ」

「紫里、しぃー」

「?」


 貴子の言葉に全員が何かを察して、紫里以外は顔を見合わせる。

 紫里は直球で言おうとした時実子が紫里の唇に人差し指を押し付け静かにさせた。

 紫里と貴子は首を傾げた。

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