ヒトの子になって
昨日の騒ぎで延期になった貴子と実子の七五三は梛子抜きでしめやかに行われた。
貴子は撮影の時以外は沈んだ顔をしていた。
まだ幼い彼女には環境が変わっていくのも不安でたまらず隠しきれないのだろう。
「貴子さんの事情は聞いたから、別にもう喋って良い筈よ」
「……うん……きのうはごめんなさい」
「わかった。別に怒ってないわよ」
貴子は実子にそう言われ謝り実子は涼しい顔で肩をポンポンと軽く叩いた。
そして氏子となった貴子は実子と共に実子の実の母であり宮司の奥方である楓から千歳飴を貰った。
「大変な思いをしたようですね、貴子さん。こうやってまともにお話するのは初めてですわね」
「はい……」
撮影の後、杖をついてやって来た貴子の叔母で梛子の妹である楓が貴子を哀れんで頭を撫でてきた。
「これからもお家で何かあったら貴女のお父さんか私の子供達にでも助けを求めるのよ。私の娘の依香なら貴女達のお祖母様や叔母さんの私にも直接コンタクトが取れるんだから。」
「伯母さんは喧しいし逃げても良いんですよ」
「はい……」
「梛子さんは私達の事大嫌いなのを公でも隠そうとしませんからね……全く、あの人が裏で何て言ってるのか想像はつきますが」
「私達のハンディキャップを
「……」
杖を支えにして立つ楓が実の姉のことをさん付けで呼んでいる時点で赤の他人扱いなのを貴子は完全には理解できていなかったが、母親の梛子の日々の暴言を聞いているので控えめに言って関係が宜しく無いことは流石に理解していた。
そして実子はズケズケと貴子と同い年とは思えないほど饒舌で毒舌である。
「壊れる前に逃げる事も助けを乞うことも必要なのよ。それは卑怯な事では決してないのよ」
「はい……」
そう言った楓は遠い眼差しをした後慈しむような顔を貴子に向けた。
その顔立ちは不思議と姉の梛子よりもその娘であり楓にとっての姪である貴子に似ていた。
その後お社の御用達のカメラマンによる撮影を行い二人は笑顔やすました顔など色々撮ってもらっていた。
貴子は父の利三と最後に隔離が決定した梛子と祖父母達のワンショットを撮って終了した。
撮影前にカメラマンの方から梛子に向けてなにか言っていたようだが貴子にはわからなかった。
「貴子さんにとっての叔父様はまだ貴子さんのお父さま達と大人の話し合いでお忙しいから後で挨拶しましょうね」
そして控室として利用している部屋にてその後着物から動きやすい服に貴子と実子の二人は着換えて篝と楓が着物や小道具などを畳んだりしてしまったりしていた。
楓は二人が着替え終わると途中になっている事も篝に任せて二人を連れて部屋を出た。
そして貴子の叔父様こと楓の旦那でもある宮司の祝家当主銀流は応接間にて利三と話し込んでいて冷たい目で利三以外の政理家の者を見やっていた。
「貴子さんも居間に連れて行きますわね」
楓は応接間にノックして一人入ったあと銀流と利三にそれのみ告げて部屋を出て子供を二人連れて移動した。
あまりにも酷い醜聞とその後始末を小さいからわからないと言って子ども達に聞かせるのは良くないと判断したのだろう。
「どうか私の子供達とお話になって下さいね」
貴子にそう言って楓は二人を他の兄妹達が居る居間に入れた。
「実子もお願いね、あともうすぐおやつにすると言っておいてね」
実子にはそう言ってから居間の前から楓はお茶とお菓子の用意の為に台所に向かって去っていった。
二人が入った居間の方では畳の上に上は先程まで高校生の当主を補佐してた銀嶺から目を離すと何処行くかわからない幼女の紫里までがバラバラに居て上の兄姉は紫里の面倒を見ている図である。
銀嶺と依香は狩衣や巫女装束から既に着換えて銀嶺は動きやすいカジュアルな洋服に依香も丈の長いワンピースを着ていた。
そして実子も適当にテーブルの側に座る。
貴子は兄妹たちに向かって頭を下げた。
「みなさんごめんなさい。きのうはごめいわくをおかけしました」
そして部屋は静まり返る。
正座していた実子の姉の依香が口を開いた。
「貴子さんは――」
貴子はその言葉を聞いて目を瞠った。
「お茶とお菓子を持って来ましたよ、あら」
おやつ一式を楓と篝が持ってきたときに見たのは貴子は子どもの輪の中で話している光景であった。
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