神と人の境にて

「大丈夫、私がどうなっても貴子を神社まで送り届けるから」

「おねえちゃん……」

「貴女をヒトにするから」


 貴子はミケだけが頼りで無意識にミケの右手を両手で握りしめる。

 そしてミケは貴子を左手を背中に回して抱き締めた。

 ミケの瞳には自分がどうなっても良いから貴子を何が何でも送り届けると言う意気込みと幼い貴子に向けてあまりにも重すぎる思いが宿っていた。

 ミケは貴子にはその気持が重いのはわかっているにも関わらず尚感情を向けるのだった。


「だから、頑張ってやっと見えてきたあの屋根の建物まで行きましょう」

「……うん!」


 もう一息とそうして限界に近い脚に無理を言わせて貴子は山を下る。

 その前を険しい顔を隠しきれないのミケが歩き先導して行った。





「やっと、ここまでついた……」

「あっ……」


 ミケがほっとしてこぼす。

 二人が社殿から離れた森の手前の岩の側まで来たときにはもう日は殆ど見えなくなっていた。

 貴子の体力ももう尽き疲労困憊で脚は既に限界を迎えていた。

 安心で脚が落ちた貴子はそこから動けなくなり無表情になり感情を失い、言葉も出なくなっていた。

 山で助けてくれた姉として慕った存在との別れと鬱屈と抑圧される日常に戸惑い躊躇いがあるのだ。

 そして、夜の帳が落ち始めた。


「危ないっ!!」


 するとミケは貴子を岩の向こう側に突き飛ばした。

 貴子は急にミケに突き飛ばされ神社の敷地に倒れ転がり込みボロボロの姿になっていた。


「うぅ゙……え」


 貴子は涙目になりながらノロノロと起き上がり山の方を振り返ると先程までとは違う山の姿に変貌していて目を見開く。

 暗闇の中にナニかが潜んでいて貴子はそれらがこちらを見て居ることに気が付く。


「ひっ……」


 そして岩の向こう、山側の森の暗闇にミケは何かに引き摺られており更に巫女装束の上は赤く染まり傷だらけになっていた。目に光が見えず口元から血が出ており指はボロボロになっていた。


「おねえちゃん!?」


 思わず悲鳴を上げて貴子は立ち上がり手を伸ばしミケの方に行こうとする。

 すると目に生気を取り戻したミケが血を吐きながら叫んだ。


「こっち来ちゃ駄目、神社の明るい所に逃げて!!」

「っ!?」


 ミケに叫ばれてビクリと貴子は萎縮し止まった直後ミケの姿はナニカに引き摺り込まれて暗闇に消えてしまった。


「おねえちゃぁぁーん!!」


 思わず叫ぶがすぐに、闇が蠢くのを見てビクリと体を震わせ声を押し殺す。

 そして貴子は泣きながらミケの言う通りに足を引きずりながら明かりの灯る本殿の前まで辿り着きそこで泣き崩れ倒れた。


「おねえちゃん……」


 そして貴子は心も体も疲れ果てて気絶した。

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