霊峰の褥
貴子とミケは山を下りて神社へ向かっている筈だった。
だが貴子の目に映るのは代わり映えのしないどころか文字通り同じ配置の物がが定期的に見える景色だった。
茂みをかき分け獣道を自身で作り上げていく、その獣道もそのうち作り上げたものを辿る形となっていた。
暫くすると貴子が足の裏が痛くてたまらなくなって口を開き吐露する。
「おねえちゃん、ここ……どこ?……さっきからかわってない気がする」
「!?」
貴子の言葉にミケは険しい顔になった。
「っ……!?」
「あぁ、ゴメンゴメン。怒ってないから」
それに対し貴子はビクッと怯えの顔を見せる、ミケはそれを見て慌てて謝った。
「ごめんね、お姉ちゃんね。目が悪くて遠くの景色があまり見えないの。でも足元やその近くは見えてるし、知ってる場所なら案内できたんだけど。おかしい事になってることに気が付け無くてごめんね」
「ううん……」
まだ幼い貴子には全てを理解することが出来ないだろうが異変に気付けなかった理由の視力の悪さをミケは明かし謝った。
貴子は首を左右に振った。
「そもそもその格好で走るのは大変だし長くは走れないだろうから迷い込んでも山の浅い辺りのはずなのよ。本当ならもう神社まで戻れている距離のはずなんだけどね……」
「あ……」
「やっぱり何かがおかしい……」
ミケは口元に手を添えて呟きそして貴子の方を見やる。
「貴子、足痛いだろうから貴女はしばらくそこの石の上で休んでて。この石は目印の石だからそこなら私でも分かるから」
そう言ってミケは山を凄い速さで登っていった。
「えぇ……」
貴子は置いてかれて焦るもののか細い声しか上げられないほどに疲れ切っていたのは事実で崩れるように石の上に座り込んだ。
暫くして険しい顔でミケはあまりにも袖や袴の裾がボロボロの姿で戻ってきた。
顔までもが一部砂や土で汚れてしまっている。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
「え、どうしたのおねえちゃん!?」
「大丈夫よ、コレくらいなら。それよりもコレ大事に持ってて、絶対に失くさないで」
「!?う、うん……」
「じゃあ、神社に戻ろう」
「うん」
あまりにも酷い格好で何があったのか思わず貴子は訊ねる。
だがミケはそれに答えることはなく、何か書かれた御札を貴子に渡すのみだった。
これを失くさないように大事に持ってとミケは貴子に釘を差す。
そして二人は再び神社への移動を始めた。
すると風景が先程とは明らかに変わり始めた。
そして日が暮れ始めた。
すると、ミケが焦り出す。
「不味い……早く神社に行かないと……」
ようやく見えた社殿の屋根を見下ろして言いました。
「早くしないと……どうなるの?」
貴子が疲れと不安を綯い交ぜにした表情でミケに訊ねた。
すると無表情になりミケは貴子に答えた。
「山から出られなくなって人になれなくなるの」
「……?」
「私みたいな存在になってしまうわ」
「……!?」
幼い貴子はその言葉に言葉も出せずに怯える。
告げて貴子を覗き込むミケの目は暗い何かを宿しているようだった。
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