霊峰の懐
「ここ、どこ……?」
泣きながら走っていた貴子は前を見ずに走っていた為気付いたら知らない山の森の中で迷子になっていた。
「うゔぅぅぅっ……」
貴子は不安や無力感が綯い交ぜになり泣き出す。
『だから貴女はダメなのよ、なんであの●●●どもの子供よりも出来損ないなのよ!?』
彼女の脳裏を
彼女を支える心配してくれる人間の声は僅かにあっただろうが、今の彼女の心の中には残っていなかった。
満年齢六歳の彼女には自身を落ち着かせるための心が育ってはおらず彼女はただずっと泣き続けた。
遠くの茂みがガサガサとなりだんだんと音が近づいてくる。
泣いていた彼女はまだ気付かず直ぐ側の茂みから出てきたモノにびっくりして泣き止んだ。
「あなたは誰?なんでここにいるの?」
茂みから出てきたのは貴子より少し上くらいの初めて見る女の子であった。
姿は基本巫女装束であるが袖部分が明らかに茶色、褪せた緑など色んな色が見え隠れしていた。だが、その色の見え隠れは光の反射でもなんでも無いものだった。
「泣いていたみたいだけど大丈夫?」
「うわぁーん」
貴子は巫女装束の女の子に心配されて訊ねられて思わず泣いて抱きついていた。
貴子の頭にはお社の人かとは思っても従兄妹では無いから喋っても良い等はもう既に忘却の彼方であった。
「わたくしはたか子っていうの。七五三でお山のお社にきたけどお母さまの言いつけをやぶってしまってまよっちゃった」
「私の名前は……ミケ、よ。私にはその名前しか無いの」
巫女装束の女の子はミケと名乗った。
貴子は気付いていなかったが自嘲混じりの声が隠しきれず漏らしながら話していた。
「ミケおねえちゃん?」
「……お姉ちゃんで良いよ」
「じゃあ私のおねえちゃん!」
貴子の言葉に名前を省くようにミケは告げる。そしてその通りに貴子は呼んだ。
知らない場所で不安ばかりだった彼女にミケが来たことで抑圧からも解放されて普段上辺だけの笑顔しかしない貴子はこの上ない笑顔をミケ見せる。
少なくとも今の貴子には救いはミケしかなく依存するしかなかったから尚更おねえちゃんと慕っていた。
貴子の言葉と笑顔にミケは本当に嬉しそうな顔をしていた。
「日が暮れる前に神社の所まで降りよう。私が社殿まで案内するから」
「うん、お姉ちゃん」
ミケの言葉に貴子は素直に従い二人は山を下り始めた。
二人の道は道なき道で険しく、慣れない七五三の着物姿に下駄はいつの間にか無くしており汚れた足袋姿で何度も転びそうになったりしながら降りていくことになった。
更に貴子の日常への鬱屈と絶望が意欲をガタガタにしていく、そんな険しい文字通りの獣道を行くこととなるのであった。
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