神と人の境にて

すいむ

カミの内

 霊峰に連れられて

 政理貴子まつりたかこは数えで七つの頃に初めてお山のお社に連れて行かれた。

 七五三にしても数えで三つの頃は街の方で執り行われたらしい。

 彼女も覚えていないから感覚的にはどちらにしても初めてだっただろうが。

 二歳の子にはここまで来るのも大きな負担なのもあるだろう、三歳だろうがそれは変わらないだろうが。

 お山のお社こと霊峰の神社は貴子の住む政理の御屋敷からはとても遠くトンネルを抜け山を越えて集落から山を登らなければ着かないような道程である。

 それだけでも子供にはかなりの負担になるだろう。

 貴子の母である梛子なぎこは何もかもが気に入らずにヒステリックに叫び父の利三としみつは周りに迷惑だと注意をしてなだめようとしていたがまるで意味がなかった。

 ただ貴子はひたすらその空間に居て逃げ出したいと思う他なかった。

 霊峰の神社はその地域で一番大きいお社であり有名な場所であり、宮司を務めるほうり家も地域の権力者の貴子の家よりも古い家柄である。

 貴子の母方の叔母が祝家に嫁いでおり、五人の従兄妹が居るくらいには仲が良く有名な夫婦であった。


「ようこそ、貴子さん。霊峰の社へ」

「よすがさん、ありがとうございます」


 その中の従姉妹のお姉さんこと祝依香よすがは母方の祖母に溺愛されて政理家の邸宅の離れに滞在してる事が多く貴子とも以前から面識があり、貴子を神社に案内してくれた。

 彼女は兄妹の二番目で長女であり、中学生のお姉さん出ある。

 普段から梛子は叔母夫婦を嫌っており、才色兼備と持て囃されている依香の事はなおさら梛子にとって気に入らなかったようで常々貴子やそして婿入りした利三や家の使用人に当たり散らしていた。


「ここに居る若いお兄さんと子供達は私の兄妹ですの」


 そして依香から兄弟妹の紹介をされたとき、最年長は大学生のお兄さんは銀嶺ぎんれいと言う名前で七五三の補佐をする予定で、一番下は三歳の本当に可愛くて小さい女の子の紫里ゆかり、私よりも少し上の兄妹の真ん中の従兄妹はお兄さんで体が弱くて寝込んでいてその場には居らず青嵐せいらんと言う名前だと依香から聞かされた。

 そしてその下の妹の実子みのりこは貴子と同い年で共に七五三を執り行う事になっていた。

 梛子は叔母家族と共同であることを祖父母の決定にも関わらず以前から反発しイライラが治まらず貴子にも勉強や習い事でさらに強く当たっていた。

 そしてそれに対して貴子は精神的に参っていたが、政理の人間はそれに気付かず貴子は放置されていた。

 善悪も不条理も全て放置されてそれまで育ってきたのだ。

 そして梛子は誰も居ない隙を突いて貴子にキツイ言い付けをした。


「従兄妹達と口を利かないこと。言い付けを破ったらご飯抜きだから」


 なので支度をしてるときも従姉妹と同じ場所で待っているときも、話し掛けられても無視していた。

 貴子も身振り手振りなり口を利けないこと仄めかせば良かっただろうが、小さな子供には何故そんな命令をされたのかをわからなかった。

 貴子は母である梛子に如何に貴子自身が出来の悪いことをずっと吹き込まれ続けてきて自分自身の考えを持てず貴子の思考は雁字搦めになっていた。

 彼女は梛子の言い付けに疑問に思うことも出来なくなっていたのだった。

 

 そして事件は起きる。

 貴子は着付けをして慣れない姿で歩いた時転びそうになった。

 同い年の従姉妹の着物に慣れていた実子が引き留めた。


「危ないよ、慣れない格好だから気をつけてね」

「あ、ありが……」


 実子に助けてもらい貴子はありがとうと言おうとしてそこで声を出してしまい、母親の言い付けを破った事に気付いてしまったのだった。


「あ、あ、あぁぁぁぁぁ――」

「え、どうしたの貴子さん? 貴子さん!?」


 貴子は狂乱状態になり奇声を上げて泣いて全力疾走で何処かに去って行ってしまった。

 実子は貴子の発狂と脱走に対する反応に遅れた上、思った以上に貴子の脚が着物姿にも関わらず早く追いつけず見送る事しか出来なかった。


「ま、まずい……」


 転ぶこともなく視界から消えた事に実子は焦り自身の父であり社の責任者である銀嶺に報告しにその場を去った。





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