第3話 本当の気持ち

TUBEでの配信を切り忘れてチャンネルが炎上した翌日の月曜日学校の昼休みのこと。  

  

 真城は食堂でクラスメイトで親友の黒乃輝良と一年の後輩の涼風夏海と学食のお昼を食べていた。  

  

「ましろ先輩、昨日の配信観ましたよ。大変でしたね!」  

「え?なにが?」  

「なにがって怪しい勧誘ですよ」  

「そうだよなー、それなー!」  

一瞬、チャンネルが炎上して大変だったねと言われたかと思って焦った!  

でも、昨日の通常配信のことを言ってきたから安心した。  

涼風すずかぜ夏海なつみは元気系ウザ可愛女子で交友も広い社交性に富んだ女の子  

黒髪のミディアムヘアーがチャームポイント。  

体のラインが細くてスレンダー体系で良く言えばスポーティーなタイプ。  

悪く言えば、貧乳。夏海はそれを気にしているのだけど。  

おまけに、低身長で小学生に間違われることもあり彼女もそれを悩んでいた。  

 彼女に貧乳は可愛い。希少価値があると教えてあげたいが、そんなことを口走ったらぶっ飛ばされるからコレは禁句としている。  

「ましろは低身長で、女の子の様な外見で可愛いんだから、怪しい勧誘には気お付けないとだね」  

この爽やか系イケメンは、黒乃くろの輝良あきら高校入学時からの友達で一応親友をやっている。  

オレの女装癖も知っていてそれを知っても友達でいてくれている良き理解者でもある。  

キラキラ系陽キャ男子で女の子の憧れの的だ。本人は嫌がっているけど。  

小さい言うな!これでも165cmで平均値だからな!」 

誰が、チビだ!これから大きくなって見返してやる!! 

「その平均値は昭和の頃のデータだからな」 

「小さい先輩、可愛くて素敵です!わたしは小さくてもOKですよ!!」 

「なんの話だ」 

女装して可愛いと言われるのは好きだけど、このなりで可愛いと言われるのは男として複雑な気持ちだった 

「でも、アイドルにスカウトされるなんてスゴイですよね!流石はましろ先輩です!!」  

  

「なっ、夏海!切り忘れも見ていたのか!?」  

「モチのロンです。男の娘アイドル爆誕!!」  

「ウゼー、あのコメント、お前だったのか!?」  

まさか、夏海も配信の切り忘れを見ていたなんて!恥ずかしくなって、まともに顔を見られなかった。  

  

  

「ましろ先輩、わたしもVtuberをやってみたいです!」  

「なつみ、本気か?!」  

「本気と書いてマジです!わたしも炎上したいです!」  

「それを言うならバズりたいだろ!俺の昨日の切り忘れが炎上だ」  

自分から炎上したいやつなんていない。オレも、どうしたものかなー。  

               ***  

真城は自宅へと帰り、自室にと籠る。  

未だ、白雪マシロちゃんねるは炎上が続いていた。  

今日も、配信する待機画面から批判コメントで溢れていた 

『また配信するのかオカマ野郎』 

『心折りにきてやったぜ!』 

『お前の場所、もうねーから!』 

中々に心に堪える待機コメントに批判的な奴らは来るなよと少し思ってしまう。 

待機画面から配信画面に切り替わり、白髪ストレートロングヘアーに雪の結晶のコサージュに青いカチューシャを付け、服装は、フリフリのレースがあしらわれた白ベースの裾に青いラインの入った清楚かん感のある夏らしいワンピース姿 

『ネカマはギリギリセーフだけどアイドルはいかんよな』もなにをやっても批判的なコメントは止まない。  

このままでは、マシロちゃんねるも鎖して転生してガワを変えないといけないのか!?  

そんなのはイヤだ!!  

このアバターには愛着もあるし、折角、ママが一生懸命に描いてくれたのだ。  

 無駄にしたくはない!  

でも、自分だけではどうしたらいいか分からなくなっていた。  

  

翌日、火曜日。  

今日は、朝から体が重たい、気持ちも鬱屈としていて、頭が重い。  

  

恐らく、今のチャンネルが炎上している現状が精神的に堪えているのだろう。  

「あら、真城あなた体調でも悪いの?顔色が悪いわよ」  

  

「どうした、真城。夜更かしでもしてゲームしていたのか?!」  

  

「お兄ちゃん、しっかりしてよー、ゲームもいいけど程ほどにね!」  

  

いや、かなで、お前分かって言っているだろう!  

まあ、炎上のことをバラされるよりはマシだけど。  

  

「わ、わかっているよ、いちいちうるさいなー!」  

  

わざとツッケンドンに言う。  

  

「お兄ちゃんゲームで詰まったら相談に乗るからね、いつでも相談してね」  

  

「おいおい、ゲームの相談か?!」  

  

「まあね」  

  

「程ほどにしておくのよ」  

両親はすっかりゲームの話と思い込んでいるようで、かなでがオレにだけ分かるように言ってくれて助かった。  

  

  

夜に自室で気晴らしにマンガを呼んでいると戸がノックされた。  

  

 かなでだとすぐに分かった。  

  

「入ってくれ」  

読んでいたマンガを閉じて、声を掛ける。  

  

「失礼しまーす」  

  

「お兄ちゃん、力を貸しにきたよー」  

  

「なんのだ?と聞くのは野暮だよな。助かる」  

  

  

「お兄ちゃん、根詰めているでしょ?息抜きになればと思ってさ、今週の土曜に、  

アークスターズ劇場で公演があるんだって。気晴らしにでも遊びに行ってきたら?」  

  

「そうだな、家にばかり居ても気が滅入るだけだしな、行ってくるよ」  

  

「良かった、今のお兄ちゃん見ていられないんだもん」  

  

「お前も来るか?」  

  

「ううん」、わたしはいい。シャイニーズの方が好きだから」  

  

「だよな。わかった」  

  

  

***  

放課後シスターズ全勢力で、渋谷区の街中から新宿区まで真城さんを探すも見つけることが出来ずにデッドラインの土曜日を迎えていた。  

「本当は、真城さんにも見て欲しかったが仕方がないか」  

「佐藤さんが一目惚れした子、遂に見つからなかったですね」  

「残念ながらな」  

「まったく、わたしがいるじゃないですか。この浮気者」  

「そうだったな、気を取り直して、公演を頑張ってきてくれ」  

「「はい、プロデューサー!」」  

こうして真城さんが見つからないまま開演となってアイドル達のパフォーマンスが始まったのだった。  

  

***  

  

ボクは、かなでから教えて貰った情報を頼りに、秋葉原にあるアークスターズ劇場を訪れていた。  

  

折角、だから女装して武装スタイルで来た。周りのオタクさん達が珍しいものを見るようにボクを見てくる。  

今の時代、女の子のファンだって珍しくないだろうに、どうしてだろう?  

途中、ビルのショウウィンドウに移るボクの姿に目が留まる。 

亜麻色のストレートヘアーに、まだ、暑いから黒のショートパンツに明るい色の半袖Tシャツ姿で、外見は女の子なんだなと思った。 

 劇場での公演で放課後シスターズ達が歌って踊っている様子を観て、思っていたよりも熱い気持ちが湧き上って来て興奮した。  

 客席はドルオタの野太い声援が飛び交い、ボクも未来ちゃんに向けて声援をおくる。  

ボクは、男だから、アイドルにはなれない。そう自分の心に蓋をしていた。  

 でも、目の前の光景を見て、ボクはまだアイドルに未練があるのだと痛感する。   

公演が終わり、興奮が冷めやらぬ前に、女装の姿のままで会場から出ようとしたところで、後ろから声を掛けられる。  

 なんだろう?と思い、振り返るとあの日、ボクをスカウトしてきた男の人が立っていた。  

「やっと、見つけた!真城さん、公演を見にきてくれたんだね。どうだった?」  

  

「はい、みんなキラキラしていて良かったです!」  

本当に感動した。そのことだけを伝えてその場を去ろうとしたが気になることがあった。  

「気に入ってくれたみたいで良かった」  

  

「はい。あの、プロデューサーさんがボクになんの用ですか?」  

  

「そうだそうだ、真城さんちょっと来てくれないかな?」  

  

「え??」  

  

ボクがプロデューサーから連れて来られたのは『放課後シスターズ』の楽屋だった。  

  

 え!?ボク、場違いじゃないの?!  

  

ボクが狼狽えていると、一人のアイドルが近づいてくる。  

  

 未来ちゃんだとすぐにわかった。  

  

「もしかして、あなたが、椎名真城ちゃん?」  

  

ボクの顔に未来ちゃんの顔が近づく。顔が熱くなるのがわかる。  

動悸も激しくなる。  

  

「え?そうですけど、なんで未来ちゃんがボクの名前を!?」  

声が上ずってしまい、動揺を隠せなかった。女装していることを引かれるんじゃないかと焦った。  

  

「ずっと、佐藤さんが探していたから。それで、このタイミングで連れてきたから、もしかしてと思って」  

  

「ええ、ボクが椎名真城ですけど、なんでボクなんかをお探しで?」  

  

「佐藤さんが必死になって探すのも分かるなー。キミ可愛いし、放シスの新メンバーになりませんか?」  

  

「え!?ボクがですか!!」  

  

「きっと、似合うと思うのですが、どうかな?」  

  

「でも、ボク男の子なんだ。女性アイドルなんてできませんよ」  

  

「そうなのですか!?可愛いから女の子だと思っていました」  

「それは、ありがとうございます」  

  

「今みたいな女装してアイドルもしたらいいんじゃないでしょうか」  

  

「本気で言っていますか?!男だとバレて迷惑かけるかもしれませんし」  

  

「そうならないように、わたし達で全力でフォローしますよ」  

  

「ありがとうございます。少し考えてから答えを出してもいいですか?」  

本当にボクなんかが放シスメンバーに加わっていいのか、迷いがあった。  

 安易に答えを出してはいけないと思った  

「はい、ご家族とよく、話し合ってから決めてください」  

答えを保留してボクは帰路へとついた。  

 プロデューサーには悪いけど、同じ勧誘でも、未来ちゃんから言われた方が嬉しかった。  

  

 

               ***

見つけて読んでくれてありがとうございます


フォローしてくれると嬉しいです


キミの応援をまってるよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る