第2話 相談と炎上

 アークスターズ事務所内でレッスンを終えた、アイドルたちが肩で息をしてへばっている。


「皆、お疲れさま。大変だったよな。はい、ドリンクとタオル」


佐藤は、アイドル達にドリンクとタオルを渡していく。


この光景、バスケ部のマネージャーみたいだ。いや、男がかよ!普通逆じゃね?!


「ありがとうございます佐藤さん。もう動けません」


未来たんは床にへたり込みもう一歩も動けない様子。


「皆、明日はレッスン休みだし、お願いしたいことがあるんだ。いいかな?」


「いったい、何をお願いするつもり?プロデューサー」


真凜が疑問を抱き、訊ねてくる。


 そうだよな急なお願い事だから皆、不思議がるよな


「それは、スカウトを辞退した、椎名真城さんを探して欲しいんだ」


「え?スカウトを辞退したんですよね?それって、いらぬお節介なんじゃ―」


「いや、俺が思うに、真城さんはウソをついている。皆、真城さんを探すんだ!」


俺の勘だと、彼女(彼)はアイドルに興味を抱いているのではないか無いにしても憧れを抱いていそうだ。 そう、俺のソウルが言っていた。


「佐藤さん、わたし達、真城さんがどんな子か知らないんですけど、写真とかないんですか?」


「無い!」


未来たんの言い分ももっともだ。顔も分からない相手を探せと言っているのだから。


真城さんとは昨日、街で会ったきりだった。SNSに顔出し投稿でもしていない限り、彼女の顔は確認できない。そもそも普段は彼という可能性だってある。


そんな中、真城さんを見つけるのは骨の折れる仕事だろう。


「はぁ!?それじゃどうやって捜すばい!ばり難しいよ」


 さくらちゃんの猛抗議も分かる。これじゃあ、目隠しして街を探せと言っているようなものだ。


「写真は無いが、特徴なら捉えているぞ。キラキラした美少女で萌え萌えキュンとした娘だ!」


佐藤は自分が思いつく限りの真城さんの特徴を伝えたつもりだったが―


「「「抽象的すぎて分からないよ!!!!」」」と全アイドルから突っ込みを喰らってしまった。


「じゃあ、明日から捜索スタートだ。土曜日の劇場公演までには探し出すんだ!」


「えー!!!!」

 再び、アイドル達の驚声が響き渡るのだった。

               ***

真城はアークスターズプロに電話して、辞退を伝えた夜にITUBEで白雪マシロとして配信をする。


昨日あったことをアイドルにスカウトされたことは伏せて、渋谷の街で友達と遊んでいたら怪しい勧誘をされたとだけ語る。


 するとコメントで、『怪しいキャッチセールスには気を付けて』


『マシロちゃんはきっと、リアルでも可愛いから、悪い虫がつかないか心配』

 

 など、マシロを心配するコメントが流れる。


「皆、ありがとうー!でも、ボクは大丈夫だよ、ちゃんとお断りしておいたから!」


真城は自分でも騙され易い性分だと自覚しているから、常日頃から気を付けていた。


 良く言えば、純粋。悪く言えば、単純バカ。中学までは性善説を信じていたまであった。


 リアルでも外見がこんなだと悪い奴らも湧いてくる。


 付き合う友人には、人一倍敏感だった。VTuberを始める時も不安がなかったかと言われれば噓になる。


 それでも、リスナーは次第に増えていって、個人Vでもそれなりにやっている方だと思う。


 男の娘キャラというのが武器であり自分の好きを維持できる鎧だった。


 ガワがないただの配信だったら誰も興味を示さなかっただろう。


 それほど、男の娘アバターが無ければ、自己肯定感の低い、ただの陰キャだった。


 リアルのボクは、人とのコミュニティを上手く築けない弱い人間。


 そんなボクを肯定してくれて、友達でいてくれている数少ない人達には感謝している。

 配信が終わり、ネットの波に乗せて言えなかったことを妹のかなでを部屋に招いて

妹相手の相談を開始した。


 まさか、この後にあんな事態に陥るとわ思わなかった。


               ***

「お兄ちゃん、相談ってなに?」と妹が文句を言いながら妹が部屋に入って来た。


茶髪ロングヘアーで中学生にしては整っている容姿は未だ、成長途中であどけない。


あまり、意識しないようにしているが胸だって中学生らしからぬ成長を遂げていた。


オレの目から見ても美少女と言っても過言ではないだろう。


それも中学ではスクールカーストのトップに君臨する陽キャギャルなのだ。


我が妹ながら中学生にしてカリスマの片鱗を見せているから末恐ろしい。


いったい、どんなJKになるのだろうか、妹の成長が楽しみだ。


「まあ、ここに座って」とかなでにクッションを差し出す。


 オレは、座椅子に座り、かなでと向かい合う形を取る。

「お兄ちゃんから相談ごととは珍しいね。なにかあった?」


「それが、昨日、友達と女装して渋谷の街を歩いていたら、アイドル事務所のプロデューサーから、『アイドルに興味はないか?」』って声を掛けられて」


「それってスカウトじゃん!お兄ちゃん、受けるの?!」


「いや、自分にはできないって今日、辞退の電話をした」

 

 男のオレでは女性アイドルグループでは勤まらないだろう。ファンに男だとバレたら、炎上は免れないだろうし、危ない橋は渡りたくない。


「えー!もったいなーいお兄ちゃん女装しなくても顔が整っているんだからやってみればいいのに!」


「本気で言ってる?!」


「マジマジ、シャイニーズもイケるんじゃない?あー、男の娘アイドルかーそれも良き!」


「かなでもそんなことを言うのかー、男が女性アイドルになるなんてなんて気持ち悪いだけだろ」

オレはボブショートの前髪を弄り、そう、声を漏らす。


うちの妹は本気で言っているのだろうか?だとしたら正気じゃない!


「案外、お兄ちゃん、本心ではやりたいんじゃなの?後悔しない?!」


「バカ言え、後悔なんかするもんか!」


 そんなことがあってたまるか。ボクはこれでいいんだ。と自分自心に言い聞かせた。


 妹との相談が終わり、一人で部屋でマンガを読んで寛いでいると激しく部屋の戸が叩かれた。


 何ごとかと思うと「お兄ちゃん、入っていい?」とかなでが部屋に入ってくる。


「別に、ノックしなくてもいいんだけど、乙女の部屋じゃあるまいし」


「いや、おにいちゃんも一応、男の子だし部屋でいけない本でも読んでいらら隠す時間があった方がいいでしょ?」


「お前な!分かっているじゃないか」


「もう、男子高校生!お年頃なんだからー」

「まったく理解がある妹で助かる」

オレは可愛いものが好きな男子だが、性欲だって年相応の男並みにはある。


 かなでは気遣いができるが、母さんはノック無しで、突然入ってくるから普段から気は張っているのだ。


「なんだ?用って?これから配信の反省会をやろうと思ってたんだけど」


オレは、毎回、配信でお可笑しなところはなかったか配信後に,アーカイブをチェックする習慣をしていた。それを(『反省会』と呼んでいた。


「わたしも一緒にチェックしてもいい?」


「まあ、いいけど、あまり茶々を入れるなよ!?」


今回、かなでも交えての反省会は初めてだった。少し、緊張する。


「じゃあ、はじめるぞ」


 オレは、は動画のアーカイブを開こうとITUBEマイページを開く。すると異変に気付く。

「あれ、おにいちゃん、配信中になっているんだけど?!」

「え!?マジ??」


「そそ、マジンガー!」


「ゼート!!」


・・・・・・


「ってふざけている場合じゃないぞ!!ってことはさっきの相談も、配信されていたってこと?!」


「どうやら、そうみたいだ。まあ、妹との会話なんて聞かれたところでどうってことはないけどな!」


「おにいちゃん、本当に大丈夫なの?!アイドルにスカウトされた話していたけど―」


「あっ!ヤッバ!!」

焦る気持ちでコメント欄にスクロールすると、そこにはマシロを誹謗中傷するコメントで溢れていた。


「マジかー」


その中の一つのコメントが心に重く突き刺さった。


「男の娘VTuberなのは100歩譲って認めますが、男なのにほんまもんのアイドルにだけはならんといてください!!」とあった。


 『男の娘アイドル良き!頑張ってください』


『男の娘アイドル爆誕!!』


など肯定的なコメントもあったが、『100』の好きより『1』の嫌いの方が心を抉る。

言葉が出なかった。なんで関西弁の怒り口調ってこんなにも威圧的なんだろう?


「おにいちゃん、大丈夫?」

かなでが酷く心配して、オレの顔色を伺ってくる。

オレはなるべく気丈に振舞い、「大丈夫だ、これくらいどうってことないさ」


スカウトは断ったんだ。誤解さえ解けば、この炎上だって火消しできるはずだ。そう、信じたかった。






               ***

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