精霊という存在

 精霊。それは、光や闇などの各属性を司る霊体。その中で、自我を持たず上の指示通りに動くのが、微精霊と呼ばれる。そして、各精霊の中でも、それらを束ねる超越した存在が精霊王なのだ。


「微精霊…」


「はい。この子によって、この方をここへお連れし、眠らせています」


 ヴィルトはぐっすりと眠っている。


「それで、スピリス…だったか。お前の目的は何なんだ」


 パクスはずっと気になっていたことをスピリスへ聞いた。


「目的とは…?」


 しかし、スピリスは何のことやらと言った顔をしている。


「とぼけなくて良い。ヴィルトをここに転移させ、俺たちのこともここへ案内した。何かあるだろ?」


「どうして…そう考えるのですか?」


「どうしてって…何もなかったらこんなところに連れてこないだろ」


 パクスの言葉に、スピリスの顔が少し柔らかくなった。


「ーーおっしゃる通り、ここへお連れしたのは皆様のお力をお借りしたかったのです」


「私達の…ですか?」


「はい。あなた方…グロリア様と同じ称号者の方達です」


 スピリスの顔に力がこもった。


「それで、その内容とは?」


「神の使徒ーー中には神の十柱と名乗る奴らのことです」


「「「「「!?」」」」」


 スピリスの言葉にその場にいた全員の顔に驚きと畏怖、そして怒りが宿った。


「神の十柱……」


 その中でもベレスだけは怒りに満ちていた。


「この方に取り憑いていたあの強大な呪いは、神の使徒によるものです」


「ーー!確かに、あの男、最後に『神のため』、とか言ってたな」


 脳裏に浮かぶのは、神への忠誠心を本物にし、自殺した男だった。


「以前……数年前に神の十柱と名乗る男が、『獣王国 レフェーラ』を壊滅させたのはご存知ですか?」


「獣王国を壊滅?」


 獣王国 レフェーラーーそれは文字通り、獣人が住む国である。王国を統べる者は国王と呼ばれる。しかし、獣王国では獣王と呼ばれるのである。


 パクスが称号者となって、約一年が経つ。その間、パクスの元に様々な情報が舞い込んできた。しかし、獣王国のことについては初耳である。


「ベレス。聞いたことあるか?」


「いえ、特に聞いたことは」


 パクスは自分自身でも自覚してるぐらい記憶力が悪い。印象強い出来事については覚えていることはある。しかし、聞いたことがあってもどうしても思い出せないときは、ベレスやその場にいる者に聞くことにしている。


 だが、そのベレスでさえも聞いていないと言う。つまり、パクスの元にそういった情報が降りていないのだ。


「ーー獣王国を壊滅させたのは、炎を扱う神の使途でした。またその男は、我ら精霊の生活圏である森をも焼き付くしているのです」


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