道の先

 (何が…起こったんだ)


 突然、目の前に街灯のような光で照らされた道にパクスは目を疑った。


 いや、パクスだけでない。全員が驚いた。


「……道?ありました?」


「いえ。ありませんでした。突如、できたように思えます」


 淡い光で照らされた道の先は長く続いている。


「どう、しますか?」


 突然現れた道。もしかしたら、罠かもしれない。そういった不安要素が全員を包み込んでいる。


「行くか!」


「え?行くんですか?」


「ああ。この先にヴィルトがいるかもしれないだろ?」


 こういった時、先へ進んだら必ず『何か』が起こる。それが吉とでるか、凶とでるかは分からない。しかし、行動しなければ何も始まらない。


 …………


「長いな」


 かれこれ二十分近く歩き続けている。


「あの…パクス様?これって…」


「ああ。俺たち、迷っちまったな」


「エェー!!迷っちゃったんスか!?」


「仕方ないじゃん!明かりがあるから、その通りに進むのが普通だろ!」


 パクスの言葉に、全員が白い目で見てきた。


「ごめんなさい…いや、でもさぁ~」


「だ、大丈夫ですよ。パクス様。もう少し進んでみましょう。もしかしたらあと少しかもしれません」


 そんなパクスを憐れんでか、ベレスがフォローしてきた。


「しかし、二十分ほど歩いてきましたが景色が変わるようには見えませんでしたが」


「そうだよなーーそれよりもお前が誰なのか聞いてもいいか?」


 ヴィルトの暴走の際に突如現れ、以降味方として動いているが何者なのか分からないままだった。


「あ…すみません。この人は、私が呼び出したんです」


「呼び出した……?」


「はい…。聖魔法の中で、従者を呼べる術がありまして…それで…」


 聖魔法の術は未だに謎が多い。しかし、その中で聖魔法は従者を呼び出すことができるらしい。そして、呼び出された従者は召喚者の意のまま行動する。


「はい。主に呼ばれ、馳せ参じました。」


 メイド服を着ているからなのか、それとも立場上の振る舞いなのか、姿勢を正し、優雅にスカートを摘まんでお辞儀しながら挨拶をした。だがーー


「ーーあれ?それだけ?」


「ーー?」


 ネネムによって召喚された女性の言葉を聞いていたが、肝心ともいえることを聞いていなかった。


 ーー名前だ。


「名前は?」


「ー?召喚された者は普通、名を持ちません。召喚者がつけてくれるものです」


 現時点では名無し。召喚者が名前をつけてくれることだとしたらーー


「え?、え?なんで、皆さんこっちを見るんですか!?」


 全員の視線がネネムに向いた。


「召喚したなら名前をつけなきゃ、どう呼べばいいか困るんじゃないか?」


「うぅ…でも…その時は咄嗟のことだったので…時間がなく……」


 全員の視線を向けられ耐えられなくなったのか、ネネムは視線を下へ、声のトーンは徐々に小さく、体をもじもじとさせ始めた。


「ーーでしたら、今ここでつけるのはどうですか?」


「……今、ですか?」


 ひ弱なネネムを見るに耐え兼ね、ベレスが提案した。


「で、でしたら……」


 従者の女性はネネムの方を向き、片膝を地面につき、片手を胸に…まるで、称号などの栄誉の物を授かるような振る舞いをした。いや、まるで、ではない。召喚された者として名を頂くことはとても栄誉なことなのだ。


「…レト……というのは…」


「レトーーは!かしこまりました。今、この時より、私は、"レト"と申します」


 ここで、ネネムの従者、レトが誕生した。


「それよりも!どうするんスか!?この状況!」


 ネネム達のやり取りを、黙って見ていたラエティアが我慢出来なくなったのか声を大にして、叫んだ。


「ーー!?なんだ!?」


 ラエティアが叫んだ途端、周りの木々がざわざわとうごめき、次の瞬間、一直線の道しかなく、横は茂みで覆われていたのが、はれていた。


 真横に道ができたのだ。


 …………


「ーお待ちしておりました」


 道ができたと気づき、パクス達はその道を通り、五分足らずで明らかに終着点と思われる所に着いた。


 そこには、体が淡い光で包まれ、緑色の長髪をなびかせた女性が立っていた。



 



 

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