責任

「「え?」」




 突然のパクスの発言に二人は呆気にとられた。




「称号者だから…師匠だから…そんな理由で楽勝?」




 出会ってまだ一日ともたっていないがパクスは怒ることもなく話しをしていた。だから、パクスが怒ったことに驚いた。ベレスも同様に、ガチでキレるパクスを見るのはそうそうないので呆気にとられた。




「ヴィルト。称号者という以前に"称号"という言葉の意味、知ってるか」




「称号、ですか…」




 パクスの突然の質問に、即答できなかった。しかし、パクスは待つことなく、聞いてからせいぜい一、二秒後に言った。




「その人を表す本名ではない呼び名。つまり二つ名ってことだ。だが!俺はこう思っている」




 パクスは自分が思っていることを言った。




「称号とは人がこうなりたい、ああなりたいと思い、努力し手に入れる憧れの象徴。希望の言葉だ!称号を手に入れるのは努力し、結果を出し、自分だけでなく他人に認められた時にもらえるものなんだ!」




 パクスの言葉を三人は黙って聞いていた。




「いいか!称号者とは国を、世界を守る希望の存在なんだ!称号者にはそう簡単になれるものじゃない」




「でも、師匠はなっているではありませんか」




「俺がなれたのは運が良かったんだ。今、称号者は俺を含めて五人しかいない。少ないんだ。穴埋め的な感じでなれたんだ。…普通、称号者になるには何か結果を、功績を出さないといけない。でも俺はそんなもの成し遂げていない。だから…」




 パクスはそこで一瞬言葉をためた。




「俺は称号者なんて言えた義理じゃない」




「そんなことありません!」




 パクスの言葉をベレスが否定した。




「パクス様は困っていた私を、未来のなかった私を助けてくださいました。それは本当の救世主ヒーローのように。だから…」




「いいから、黙って聞いてくれ」




 しかし、そんな言葉を最後まで聞かず、パクスが途中で遮った。




「俺は称号者なんて言われる者じゃない。いわば、"仮"の称号者だ。……でも俺はこのままでいるつもりはない。俺はこれからも人に認めてもらえるような、本当の英雄ヒーローの称号者になる。そのためにも、このような依頼を受けていく」




 パクスの言葉を三人はそれぞれ、意味を理解するよう聞いていた。




「いいか。どんな依頼でも、誰かが困っているんだ。だから、依頼がくる!俺は称号者として国を、この世界を守る義務がある!人を守らなくてはならない!どんな依頼でも、気を抜いていれば失敗し、最悪の場合、見たくもない光景を見る羽目になるんだ!」




「ーー!!」




 パクスが言った言葉の重みを理解し、はっと息を呑んだ。




「師匠…すみません、軽率でした」




「お師匠様…ごめんなさい…嫌いにならないで欲しいッス…」




 パクスの言葉を聞いた二人は、とても反省した様子になった。




「…強大な力にはそれ相応の責任というものがつく」




「…いい言葉、ですね」




「俺の故郷で、ある人が言った俺の好きな言葉の一つだ。少し変えたが…」




 どんな力でも、使い方によって、訪れる結末は変わる。自分が思い描く、未来へと進むためには、よく考えて力を振るう必要がある。そのための責任を背負う覚悟も必要になる。




「……俺の弟子なんだろ?なら、この言葉を大切にして、これから歩んでいけ」




「師匠…それって…」




「…ずっと師匠師匠うるさいからな…」




「「やったー」」




 曖昧にしていたが、ここまでくれば引き返せないと思い、パクスは二人を正式に弟子と認定した。




 というか、正式な弟子というわけではなかったんだな。一方的に師匠って言われてたみたいだ。




 これで一応、いざこざは解決した。これからの依頼の達成に向けて、パクス達は気持ちを切り替えた。




「よし!それじゃ、やるぞ!」




「「「はい!」」」




 …………




「お師匠様って、怒ると、怖いんッスね…」




「…そう、ですね。あまり…というか怒る所をみないですから」




パクスの話の後、女性二人で何やらひそひそと話していた。


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