平和な道のり……

「これで…いいんです…」




 日が暮れていく道で、ベレスは…宛もなく彷徨って、これでいいと、自分に言い聞かせていた。




 故郷のフィム村で起きたことを騎士団の人に話した後、ベレスはパクスを待つことなく、歩いていた。いく宛はない。ただ、誰にも見つからないようなところへ行こうとしていた。




「私なんかと…一緒にいる必要ありませんよね…」




 ベレスは内心、感謝している。




 最初の出会いは印象最悪と誰もが思える。そんな中、パクスは悪口を言うことなく、優しく声をかけてくれた。




 もう一度会った時は、揉めている場面だった。




 そんな状況にも、助けるために立ち向かってくれた。




 そして、自分の故郷を、家族を襲った元凶を知ることができた。




 でも…これ以上、一緒にはいられない。いてはいけない。




 きっとパクスなら、自分のために動いてくれるだろう。しかし、それはパクスの時間を奪ってしまう。パクスは称号者になる。そうなってしまえば、自分のことのために、時間を割いていると役目を果たせないでいる。




 それに…




「ここにいたのか…」




「ー!?」




 背後から声を掛けられ、ベレスは咄嗟に振り返った。




 背後に立っていたのは、パクスだった。




「いなくなったから、探したぞ」




「……で、……さい」




「え?」




「来ないでください!」




 ベレスは大声を出して、パクスが来ることを拒絶した。突然のことに、パクスは押し黙った。




「なんで…」




「……私と一緒にいると、良くないからです」




「何を言ってるんだよ」




 ベレスの言葉を理解できず、パクスはベレスに近寄り、問いただした。




「パクスさんは称号者になったんですよね」




「ああ」




「私は…これから、故郷の村を襲ったあの人を探します。パクスさんは称号者としての役目がありますよね?だから…」




 ベレスは、アルブムを探すため、旅に出ると言った。パクスは称号者として、国で役目を全うする必要がある。つまり、ベレスの旅に同行することはできないのだ。




「……私の目的に、パクスさんを巻き込みたくないんです」




 そう言った、ベレスの目には涙が浮かんでいた。




 パクスはベレスと話してからは、これから一緒にいると思っていた。




 しかし、ベレスの気持ちを考えていなかった。




 パクスは他人の気持ちを察するのが、得意ではなかった。




 だが、そんなパクスでも、今のベレスの心境は分かる。




「…………」




 今のベレスにどんな言葉を送ればよいか。どうすればよいか。




 パクスは少し考え、ベレスの顔を正面から見て、言った。




「目的って、要は復讐だろ?」




「……はい」




 ベレスはパクスの問いに、力強く答えた。その言葉から、ベレスの覚悟が伝わってくる。




「探すって言っても、宛はあるのか?」




「……それは…探して…」




「この広い世界をか?とてもじゃないが、見つけられるとは思えない。運が良ければ見つかるかも知れないが…」




 パクスは言葉を溜めて、言った。




「はっきり言うと、無理な話だ」




 広い世界とは言っても、パクスは旅をしてはいないから、適当に言ったことである。だが、どんな世界でも広いからな…あながち間違いではないだろう。




「そんなこと、分かっていますよ!でも…無理でも、私はやるんです!」




「アルブムの奴を見つける前に、死ぬんじゃないのか?」




 広い世界のなかで、どこにいるかも分からない人を探すのは、不可能だろう。




「例えそれでも…あなたには関係ないじゃないですか!」




 ベレスは涙を流しながら、強く言った。




「いや!関係ある!」




「え?」




「なぜなら、俺は"称号者 英雄ヒーロー"だからな!」




 パクスはベレスの言葉に、反論した。




「だからって…」




「称号者とは、国のため、世界のために、民を守る存在!困っている人に手を差し伸べる、それがヒーローだ」




「…………」




 パクスの言葉をベレスは黙って聞き続けている。




「目の前にいる人を助けるのが、俺の役目だ。だから、俺にも関係はある」




「でも……」




「俺は、君に伝えたいことがあるんだ」




 突然、パクスから話題を切り替えられ、ベレスはびっくりした。




「伝えたいこと…?」




「ああ。君に、俺の秘書になってもらいたい」




「秘書……ですか?」




「ああ、そうだ」




 突然の言葉にベレスは唖然とした。




「さっきの私の話、聞いていましたか!?」




「もちろん」




「だったら…なんで……」




「称号者である俺には、仕事がある。だから、誰かに隣で支えてもらいたい」




 称号者であるパクスは仕事におわれ、一人じゃいろいろ大変だから、ベレスに手伝って欲しいということだ。




「なんで…私なんか…」




「困っている人がいたら手を差し伸べる。それがヒーローだ」




「ー!!」




 つまり、ベレスにも仕事を与えたという意味だろう。




「それに称号者として、活躍していると奴らの情報を得ることができるのかも知れない」




「でも…」




「俺の夢のためにも、奴らを倒さなければならない。だから、隣で支えて欲しい。そして、手を貸して欲しい」




 パクスは優しく、言った。




 それに対し、ベレスはきょとんとした顔をしたが、やがて顔をほころばせ、涙を拭いながら




「分かりました。お願いします」




 そう言った。




 …………




「ちなみに夢って何なんですか?」




 涙を拭い、落ち着いたベレスが聞いた。




 その言葉を聞いたパクスは、青く無限の彼方へ続く広い空を見上げた。




『みんなハッピーエンドが好きだろ?




 でも、必ずしもそうとは限らない。




 世の中何もかも自分の思い通りになるわけではないのだから。




 嫌なことがあり、現実に目を背け、生きていくのが辛いと思うこともある。俺だってそうだった。




 でも、そんな日々でも、いつか必ず嫌なことが覆るほどの幸福が訪れる。




 それが"人生"ってもんだろ?




 嫌なことが起こっても、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて……




 その先に、自分の夢見た景色がきっとある。




 だから、諦めず、抗い続けるんだ!』




「俺の夢。それはもちろん…」




 この世界に来て、嫌なこともあった。




 視野を広げれば様々な人もいる。




 自分の理想のために、人を殺す。




 試験に合格するために、裏切り、相手と手を組む。




 いろんな人がいる。自分の夢のために、理想のために…行動する。




 他人にも夢や目的があるんだ。




 もちろん俺にもある。




 元の世界では、不可能だが、この世界ではなれる。




 自分の憧れのヒーローに。そして、幸せな生活を手に入れること。




 そのためにも…"平和な世界"を実現するんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る