憤り

 (アルブム…神の十柱の一柱…)




 アルブムが去る前に残した魔獣の死骸の側で、パクスはアルブムが言った謎の言葉を反復していた。




 …………




 残った魔獣は目の前にいる、パクスとベレスに赤い眼を向け、殺意を込めていた。




「ちっ!ベレス!動けるか」




「それが、魔力が、切れて…」




 (無理か…)




 アルブムに向け、回復した魔力をまた使ってしまい、再び魔力切れを起こしてしまったのだ。




「グワァーー!!」




 パクスの視線が魔獣からベレスへと向き、意識が離れたことを魔獣は見逃さなかった。




 魔獣は吠えて、パクスへと襲いかかった。




 周囲の魔力を使い強化した爪が、服を破り、肌を傷つけ、命を奪おうと研ぎ澄まされていた。




「ー!ふっ!」




 だが、パクスはそんな魔獣の行動に冷静に対処した。




 【力】を使い、避けると同時に魔獣の背後へと回り、手刀を放った。




 【力】が宿った手刀は容易く魔獣を両断した。




 (あと四匹…)




「グルルルル…」




 一匹の魔獣が倒されたことに他の四匹は魔獣は警戒を露にした。




「なんで…こんな…」




 パクスは元の世界にいた時は災難なことが多く、嫌な目にあっていた。




 漫画やアニメで異世界系の物やファンタジー作品を見ると、元の世界とは比べ物にならない、幸せな生活を手にすることができると思っていた。




 魔力、剣など元の世界では、考えられないことが異世界では可能だった。パクスは魔力は持つことはできなかったが…異世界では、幸せな生活が待っていると心を踊らせていた。




「なんで…こんな気持ちにならなきゃ…!」




 騎士団入団試験では、嫌な目にあったが別にここまでの気持ちにならなかった。




 しかし、アルブムが現れ、ベレスの故郷の村、家族にした行い、思想を考えると、関係無い自分までも憤慨する。




「グルルルル…」




 パクスが自分の気持ちに浸っていても、魔獣は待ってはくれない。




「ーッ!!」




 …………




 そこからは一方的だった。【力】を発動、エストとの闘いの時に出した球を無数にだした。




 そして…




「ーー」




 パクスが合図すると、無数の球が魔獣目掛けて暴れまわった。




 魔獣は突然のことでも、回避していたが、球はパクスの意思で動く。その動きは物理法則を無視し、動線上にいる魔獣を攻撃した。魔獣の体は周囲の魔力により、強化され固くなっている。魔力を付与しない武器では、傷一つ付けることはできない。




 しかし、パクスの【力】によって出した球はそんな魔獣の体をも貫通した。




 魔獣がどんなに動いても球は魔獣を追い、倒した。残りの魔獣もすぐに死んだ。




 …………




「ベレス、大丈夫か?」




「はい。…すみませんでした」




「いい。まさか…こんなことになるなんてな」




 魔獣を倒し、一件落着…とは思えない結果になってしまったが、ひとまず落ち着いた。




 (神の十柱…いったい何者なんだ!?)




 アルブム、神の十柱…気になることはとても多かった。

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