正体不明

 ベレスが落ち着くまで、パクスは側にいた。




 (それにしても…村が…)




 ベレスがためた魔力の威力は強大だった。その威力により、荒れていた土地がさらに荒れてしまったのだ。




 (まぁ、そのうち直せばいいか…)




 パクスはベレスの側にいて、ベレスは魔力切れの状態を緩和するため深呼吸をして、周囲の魔力をためていた。




 …すると突然、パチパチと手を叩く音が聞こえた。




「いや~さすが!」




 現れたのは黒色の執事スーツを着た、白髪の爽やかな顔立ちをした男だった。




 男は拍手しながら、歩きパクス達がその存在に気づくと足を止め、立ち止まった。




「倒したのは君たちか…思ったより、強かったのかな。僕は別に強いとは思ってなかったけど…」




 ペラペラと男は次々と独り言を呟いていく。




「お前さん。何者だ!?」




 パクスは突如現れた男を警戒し、正体を尋ねた。




「僕のことを知らないか…まぁ、確かに別に名を広めてるわけではないから知らないのも当然か…」




 パクスの質問に答えることはなく、男は淡々と述べていく。




「おっと、話がずれてしまったね。それでなんだっけ…ああ!僕の正体についてか」




 男は自分から話し始めたことを自分からやめ、パクスの質問に対して、ようやく答えた。




「僕は"神の十柱"の一柱 "アルブム"」




 男…アルブムは穏やかに笑みの表情を浮かべ平然と言った。




 …………




「神の十柱…」




 パクスはさっきアルブムが言った謎の言葉を口に出し、反復していた。




「…ここにきた目的はなんだ!?」




 ベレスは突如現れたアルブムに対して、何故か動こうとしない。現時点で必要なことを少しでも聞き出そうとアルブムに質問した。




「目的もなにも、僕が出した魔獣がどれほどの強さなのか確認をしてたのさ」




「出した…魔獣…!?」




 アルブムはなんの躊躇いもなく淡々とものをいい、聞き捨てならないことを口にした。




「そうだよ。君たちが倒した魔獣は僕が出したものさ」




「あな…が…」




「え?何?聞こえないんだけど」




 アルブムが魔獣を出したと聞き、ベレスがその言葉に反応した。




「あなたがこの村を!私の家族を!」




 ベレスは憤怒の形相を浮かべ、怒鳴った。




「確かに魔獣を放ったのは僕だけど、実際に襲ったのは魔獣だよ」




「絶対に!許さない!」




 ベレスは両手をアルブムに向け、魔獣に放った時と同じ攻撃を仕掛けようと魔力を練った。




 回復した魔力をすべてつぎ込み、放った。




「アアアアァァーー!!」




「やれやれ…」




 しかし、ベレスの憤怒の叫びも攻撃もアルブムには届かなかった。




 いつの間にか、アルブムの姿が目の前から消えていた。




 (どういうことだ!?)




 パクスはすぐさま、【力】を発動、周囲をくまなく探知した。




「後ろか!?」




「へ~よく気づいたね。まぁ、周囲をよく見ればすぐに分かるか」




 アルブムはいつの間にかパクス達の後ろへと回っていた。




 肉眼では、捉えられないような超スピードにより、ベレスの攻撃を避けた。




 アルブム自身は疲れた様子も驚く表情を浮かべることなく、平然としている。




 (いったい、どうやって)




「成果を取れたから、僕はそろそろ行くね」




「な!?待て!」




 アルブムは突如、去るようなことを言った。




 パクスは逃してはいけないと思って引き留めるが…




「悪いけど、僕はこう見えて忙しいんだ。君たちと遊ぶ時間はない」




 アルブムは聞く耳をもたなかった。




「代わりだけど、この子達と遊んだら」




 そう言うと、アルブムは何も無い空間に手を付いた。すると、空間が歪み、直径5mほどの穴が開いた。




「空間、魔法!?」




「お!正解!よく分かるね」




 空間を操っていることから、瞬時に空間魔法だと悟った。そのことから、先ほどベレスの攻撃を避けた方法はテレポートだと考えた。




「「グオォォーー!!」」




 空間に開いた穴から、魔獣が五匹現れた。




「君たちなら、これくらい余裕だよね。それじゃ」




「待て!」




 そして、アルブムは魔獣と入れ違うように、穴の中へと入り、消えてしまった。




「グルルルル…」




 残ったのは、パクスとベレス、魔獣の五匹だけとなった。


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