第32話 目覚め

 パクスの寝覚めは良いほうではない。




 普通の人であれば、目が覚め、数秒が経てば意識が覚醒し脳も目覚める。




 だが、パクスは目覚めが悪く、目が覚めても瞼が重く、意識が覚醒するまで時間がかかる。




 意識が覚醒するまで、ベットの上でゴロゴロするのがパクスの流儀といえるかもしれない。




 目覚めが悪いのは寝相が悪いのが原因か、睡眠の質なのか…まぁそんなことはどうでもいい。




 ただ、不思議と今回はいつもより目覚めがよかった。なぜかスッキリした。




 (ー知らない天井だ…)




 ベットに仰向けの状態から目を覚まし、最初に目に飛び込んできたのは、白い見知らぬ天井だった。




 久しぶりに目覚めがよかった。だが、例え目覚めがよくても、体を起こすのではなく、ベットに横になったままゴロゴロしようとした。




 だが、できなかった。動こうとしても動きづらかった。原因はすぐにわかった。




「…すぅすぅ、んぅぅ…」




 一人の女性が、地面に座り、ベットに体を預けて寝ているからだ。気持ちよさそうに寝ているが、シーツを掴んでいるため、パクスはあまり動くことができなかった。




 (…誰だ?)




 そう思いながら、パクスはゆっくり、静かに上半身を起こす。




「んぅぅ…あ、れ?私寝ちゃって…」




 すると、女性が起きてしまった。




「ー!?よかった、目が覚めたんですね」




「え?あ、ああ」




 パクスの目が覚めたことに女性は安堵の息を漏らした。




 しかし、パクスはこの女性が誰なのか分からなかった。




「えっと、君は誰なんだ?」




「え!?」




 女性は信じられないようなびっくりした表情を浮かべ目を丸くしていた。




 パクスは記憶力が良くない。だが、この世界にきてからは夢見たような光景を目の当たりにしていた。印象が強く、大抵のことは覚えている。




 だが、パクスはこの女性のことを知らなかった。




 女性はこの国ではあまり見かけない、桃髪のショートカットの髪型をしていて、前髪により右目を隠している。服装も白と黒の制服のようなワンピースをきていて、見た目は可愛く、清楚な感じがする。




 瞳の色は綺麗な水色、まるで空のような美しい色だった。




 街中で見かければ、嫌でも覚える容姿をしているがパクスは覚えていない。




 頑張って思いだそうとするが、全然浮かんでこない。




「私です!ベレスです!」




「え!?ベレス!?」




 待ってられないとでも思ったのか女性から名乗りでたが、なんとベレスだったらしい。




 記憶とは違うベレスの変わりぶりにパクスは驚愕の声をあげた。




「ベレス…なのか」




「はい!私です!」




 そういえば、パクスはベレスの容姿について、全然知らなかった。




 初めて会った時、ボロボロの布を纏い、フードを被っていた。それに髪の色は汚れて茶色くなっていた。




 だが、今は前に会った時とは別人のようだった。




「ーその髪はそれに服も…」




「ああ、確かに前にお会いしたときとは全然違いますからね、そこの配慮がありませんでした。すみません」




 すると、ベレスが謝罪してきた。




 まぁ、前会った時と容姿が違えば誰でも分からないよね。




「あの後、お金をもらった後、服や体の汚れを落とすために使わせていただきました。パクスさんとまた会うときに、同じ容姿で会う訳にはいきませんから」




 どうやら、パクスからもらった金を使ったらしい。




 だが、そのおかげで初めて会った時とは別人のとても可愛い美人へと変わったのだ。




 それに、自由にお金を使っていいとパクス自身が言ったのだった。




 パクスは改めて、ベレスの姿を確認した。




 すると、気になる部分が目に映った。




「ベレス、お前…エルフなのか…?」




 やや尖った耳、その形は元の世界で異世界に憧れていた頃、漫画やアニメでよく目にした形。




 エルフ特有の形だったのだ。




「どう、なんでしょうか…私にはよく分からないです」




 だが、ベレスはその言葉に曖昧な答えかたをした。どうやら、ベレス自身もよくわかっていないらしい。




 …でも、耳が尖っているのはエルフだよな。

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