第21話 ベレス
「あ、ありがとうございます」
女性が食べている間、パクスは特に声を掛けるでもなくただただ見つめていた。
女性は結構な量を食べたせいか、顔に生気を宿し若干ふっくらした、ような感じがする。
「気にするな、いきなり倒れたからな。少し焦った」
「あの…、あなたは何で私のことを、助けてくれたんですか?」
女性は何故自分のことを助けたのかを聞いてきた。
「………何故ってヒーローなんだから、困っている人がいたら手を差しのべる、それが普通だ」
パクスは言い切った。もちろん本心からの言葉だが、正直になれず、もうひとつの気持ちは伝えられなかった。
「そう、ですか。助けていただき、おまけに食べ物もくれ…あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」
女性はパクスに感謝の意を述べた。
(思ったより礼儀正しいんだな)
パクスは女性の境遇からこんな礼儀正しいとは思わず疑問に思った。
「なぁ、な、名前を聞いても言いかな…?」
パクスはおずおずと女性に名を尋ねた。
「名前ですか…?私は"ベレス"と言います」
すると女性はベレスと名乗った。
「ベレス、ベレスか。いい名前だな」
パクスは素直に思ったことを口にした。
「あの、あなたの名前は…?」
すると、女性のほうから逆に名前を尋ねられた。
「あ、ああ、そうだよな。人に名を尋ねたら自分のほうも名乗らないとな。俺はパクスだ」
そして、パクスも自分のことを名乗った。
「パクスさん、ふふっ、いい名前ですね」
ベレスは初めてパクスに向けてにこやかに笑った。
「ーー」
パクスはその笑顔に突然胸がドキッとした感じがした…
「パクスさん、あなたは何をしているのですか?」
ベレスがパクスに質問した。
「何をって、職業か?」
「はい」
パクスはベレスからの質問の意図をくみ取り、答えた。
「俺は今、騎士団に入るために試験を受けている。そして一次試験は合格し明後日に二次試験がある」
パクスは今の自分の状況をベレスに話した。
「騎士団入団試験…ということは、パクスさんあなた、騎士団に入って"称号者"になりたいのですか?」
「称号者…?…ああ、"称号者"か!」
"称号者"、その言葉に聞き覚えがあり、記憶をたどってみると、老人から聞いた言葉だった。
"称号者"それは、騎士団の中でもトップのような、偉い人…簡単にいえば、最強の人達だ。
最強と言ったが全員が強いと言うだけてなく、特殊な能力を持っているから、なったということもあり得る。騎士団に入り、様々な素晴らしい功績、圧倒的な実力を認められ、王様から直々に自分にあった、好きな称号を授かり、称号者になることができる。
パクスは老人からこの話を聞いた時は胸を踊らせた。
「称号者か…確かに初めて聞いた時も今もめちゃくちゃ興味を持っている。だが俺は、安定した生活のために騎士団に入ると決めた。だから、それが最初の理由…まぁ、称号者になることを諦めないけどな」
パクスは今の自分の気持ちを正直に述べた。
「そう、ですか…すごいですね」
「いや、そんなことはない」
パクスは普段自分のことを卑下する時がある。
「ベレス、お前は何であんなことをしていたんだ?」
ベレスが男たちに囲まれ暴行を受けていた、普通とは思えない光景にパクスは事情を聞いた。
「………」
「…あ、別に話したくないなら無理に話さなくても、いいから、な…?」
ベレスが身動きしないことから、やってしまったとパクスは思い、しどろもどろになった。
「…いえ、そうですよね。不安がるのも当然です」
そして、少し時間がたった後、ベレスは意を決したような顔つきをし、語り出した。
「何故、私があのような境遇になったか、あなたにお話します」
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