第20話 パクスと女性
パクスは女性を抱っこしたまま宿へと着いた。
部屋へと着いたら女性をベッドに横にならせた。
(さて、何か食べ物…この状態の時って、固形物とかはやめたほうがいいよな…?)
空腹時に熱いものや冷たい物を食べると胃がびっくりするというのをパクスは知っていた。
また、固形物などの、固い食べ物でも胃がびっくりしてしまったり、お腹を壊してしまう原因に繋がってしまうのではないか、と考えていた。
(なら、食べやすいスープ系がいいかな…)
………
目が覚めると、目に飛び込んできたのは見知らぬ光景だった。
(あれ?ここ、どこ?)
私は確か…お金を盗んだところを捕まって何かされて…いや、その前に誰か…そうだ!ヒーローと名乗る人が助けてくれたんだ。
あの人と会うのがこれで二回目のはず…私は最初、彼が怖かった。
私の見た目から近づいて声を掛けてくれる人なんかいなかった。
たまに声を掛けてくれる人はいたけど、大抵下心のような、自分の鬱憤を晴らすために利用しようとする人ばかりだった。
この人も他の人と同じ類いの人だと思った。
だが、この人は………
周囲に、久しぶりに嗅ぐ、美味しいそうな匂いが充満していた。
(何?この匂い…)
今まで生ゴミや腐った物の臭いを嗅いできたことで嗅覚が鈍感になっていた中、匂いを嗅いだことで嗅覚が鋭敏化し鼻腔を突き刺した。
肝心の食べ物が見えなくても口の中は唾液でいっぱいだった。
その中でもお腹の音はなり続けている。
「…おっ!起きたか」
「ーーッ!」
匂いの元を探そうとベッドから降り立ったところ、さっきまで考えていた…ヒーローと名乗る男の人が目の前に立っていて、目があった。
………
(あれ?びっくりさせちゃったかな?)
女性が目を覚ましたことだから、今度は怖がられないように優しく声を掛けたつもりだった。
だが、またもや女性に同じ表情をさせてしまった。
(う~~ん、どうしよう…?)
ぴりついた空気の中どう話を切り出せば良いか、パクスは考えていた。
すると、女性の方からお腹の鳴る音が響いた。
「ーーあッ!」
女性はお腹を押さえ、赤面した。
「…ああ、そういや何も食べていないんだよな?ほら…」
パクスはそう言い、温めておいたスープを女性に差し出した。
ちなみに温めるために魔石を使った。魔石には魔力が込められており、魔力がないパクスでも魔石を使えば物を温めることもできた。
「ーこれって?」
女性から発せられた言葉は弱々しくか細い声だった。
「スープだ!…大丈夫、毒は入っていない」
女性が不信な目を向けてくるからしっかりと毒は入っていないことを伝えた。
毒なんていれるわけないけど女性の境遇から考えられるのだろう。
「ーー」
スープを目の前に差し出しても女性は受け取ろうとはしなかった。
(いらないのか?う~~ん、どうしたら…)
そうパクスが悩んでいると、
女性のお腹から大きな音が鳴った。
「ーあっ!」
女性はお腹を押さえ、顔を真っ赤に赤面した。
「ほら、食べろ」
パクスは女性にもう一度スープを差し出し、
「………」
女性は無言で受け取った。
そして、そこからは早食いのように、女性はスープを口の中に放り込んだ。
その間、パクスはアイテムボックスから干し肉などの非常食や売店で買った食べ物なども出し、女性にあげた。
「………うっ、うっ」
女性は食べながら涙をボロボロとこぼしたが、食べるのはやめなかった。
「ーー」
その間、パクスは女性がやっと食べてくれたことによる安堵の気持ちと温かい視線を向けた。
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