第19話 ヒーロー

「何だよ?」




 突然、自分たちの前の現れたパクスを睨み付け、一人の男が言った。




「その人、嫌がっているだろ、離してやれよ」




 パクスは臆することなく男たちに向けていい放った。




「お前には関係ないのないことだ、と言っただろ!?」




 男が先ほど言った台詞と同じことを言った。




「時に、お前さんらは何故その人を狙う?」




 パクスが疑問に思っていたことを聞いた。




「何ってこいつは俺たちから金を盗んでいたからな!きっちり返してもらわないと…」




 男が女性をねめつけ、言った。




 女性はその威圧に耐えきれず、ずっと下を向いている。




「なら、俺がその借金を返す!だからその人を離してやれ!」




 パクスが突然、そう言った。




「「ーなっ!?」」




 男たちだけでなく、さっきから下しか向いていなかった女性も驚愕の表情をしていた。




 (え!?なん、で?)




「は、お前何だよ。ヒーロー気取りか?」




 一人の男がパクスに向けて言った。




 (ヒーロー…?ヒーローか、いいな)




 元の世界ではヒーローは好きだった。




 なんなら、自分がヒーローとなる夢を持っていたくらいだった。




「そうだ。俺は"ヒーロー"だ!」




 パクスは堂々とそう言い切った。




 (ひー…ろー…?)




 女性はパクスを見つめ驚きの表情を隠せないでいる。




「だから、その人を離せ。ヒーローとして困った人は見過ごせないんでな」




「ちっ、やる気か!?おい!お前ら!」




「「おう!!」」




 一人の男が臨戦態勢に入り、二人の男に合図した。




 だが…




「調子にのるなよ…」




 パクスは強烈な殺気を男たちに浴びせた。




「「ひっ!?」」




 男たちは、臨戦態勢を解き、パクスの殺気に呑まれた。




「いいか、もう一度言う。俺がその人の借金を返す。だから、その人を離せ!」




 パクスはもう一度、今度は殺意を込めて言った。




「ーッ、ほらよ」




 男の一人が女性をパクスの方へ押し、女性はパクスの背中側に回った。




「ほら」




 パクスは金貨1枚と銅貨数枚の入った袋を男に向かって投げた。




「それと、二度とこの人に手を出すな!もし、何かしたら許さねぇぞ!」




 パクスは脅しの意味を込めて言った。




「へっ、そんな奴もう関わりたくねぇわ。いくぞ!」




 男たちはパクスに背を向けて消えていった。




「……」




 男たちが見えなくなるまで見届けた後、




「ええと、あの…」




 パクスは振り返り、背中の方に隠れている女性に声を掛けた。




「ーッ」




 (…ダメか、やっぱり) 




 女性は初めて会った時と同じ表情をしていた。




「…あ、あの」




「…ん?」




 また、逃げられるのかと思っていたが、女性が声を発した。




「その…ありがとう、ございます。」




「ああ、いえ。別にこれくらい」




 女性が感謝を述べた。




「「………」」




 (き、気まずい)




 その後は特に話す内容が思い付かず、二人の間に気まずい空気が流れた。




「ぐぅうううーー」




 その時、女性のほうからお腹の音がなった。




 それと、同時に女性が倒れた。




「あ、あの、ちょ…」




 パクスは突然倒れた女性に駆け寄り、状態を確認した。




 (今のって、腹の音か?見たところ、痩せすぎてるな。そりゃ倒れるか、仕方ない)




「ふっ、よいしょ!」




 パクスは女性を抱っこし宿の方へと連れていった。


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