第16話 才能
「くっ!ふざけるな!お前が俺より上のはず…」
「嘘じゃない!本当だ!」
パクスは老人との暮らしの際、修行の中で聖級の魔物を倒したことがあった。
だが、エストはそんなこと当然信じられなかった。
「でたらめを!」
「ふっ、まぁ信じないならそれでいい。俺は事実を言っただけだ」
エストは怒りの表情を露にしてパクスを睨んだ。
「なら、お前を殺せば俺の方が強い」
「ああ、そうだな」
「ぶっ殺してやる!」
エストはしゃがみ地に手をついた。
(何かくる)
「"樹木"魔法」
そう言った直後、地面から木の根や枝がでてきた。
「な!?樹木、魔法?」
それは今まで聞いたことのなかった魔法…すなわち
「ー!?複合魔法か!?」
「その通り、樹木魔法は水+土の複合魔法だ!」
エストの複合魔法による攻撃が始まった。
………
「ーハハハ、無駄無駄さっさとくたばれ」
エストの魔法によりパクスは逃げ惑うことしかできずにいた。
「ちっ、面倒だな…」
パクスは隙を見つけてはエストに近づこうとするが、
「ーッ!?」
死角から木の根や蔓が現れパクスに襲いかかった。
「ーふっ」
パクスは剣に【力】を付与、木の根や蔓を切り刻んで逃れた。
「はぁ、時間がない。終わりにしよう」
そう言った直後、エストは杖を構え、唱えた。
「樹木魔法 デス·ライク」
その後、辺りの根や蔓がパクスの周りを囲み一気に縮んだ。
「マジか!?」
「終わった…しぶといな…」
さっきの攻撃によりパクスのことを殺したと思ったが、魔力感知を発動させ、周囲の魔力の揺らぎからパクスがまだ生きているとわかった。
「危なかった…死ぬかと思った」
攻撃が直撃する寸前、【力】を発動、脚に流し、跳んだ。それにより、攻撃を回避したのだ。
「…驚いた、飛べるのか」
パクスは跳んだ後、落ちるのではなく、そのまま空中にとどまっている。
「俺の【力】のお陰でな」
普通、飛ぶためには空中にある魔力を操り、自分の身体に流し浮遊する…つまり、空間魔法が使えなきゃ空を飛ぶことができないのである。
だが、パクスは【力】を使うことで飛ぶことができる。
魔法はイメージすることによって様々な形にかえ威力を発揮する。そのように【力】を発動、イメージとしてはオーラのようにさせ、自分を包み込みそのまま操る。このようにすることで浮遊を可能にしたのだ。
「次はこっちの番だ」
パクスは【力】を使う。イメージとしては小さい球のようなものを無数に。そして…
「いけ!」
【力】を動かし無数の球が暴れ回った。
「くだらん、樹木魔法 トゥルーフェア」
エストは木の根や蔓を操り、球を迎撃しようとする。
「なっ!?」
だが、その行いも意味なく、動線上にある根や蔓が球により叩きおられ、穴があいたりしていた。
また、球は物理法則を無視し、さまざまな軌道へと変え、辺りを破壊しまくった。
「………」
このまま続ければ勝つことができたがパクスは【力】を解除させ球を消した。
「ーッ、何のつもりだ!?」
「エスト、お前心を入れ替えるつもりはないか?」
パクスはこの期に及んでエストを殺すのに躊躇し、殺さない道を選ぶため、交渉したのだ。
「何を今さら…」
「俺は出来れば人を殺したくない。お前のことも…だからお前が心を入れ替えるなら…」
「ふざけるな!」
エストに怒鳴られ、パクスは黙った。
「この世界は、強い者が生き残り、弱者は淘汰される。強くなければ何も手に入らない。」
「強ければ何をしてもいいと?」
「ああ、だから俺はしている。弱い者が嫌いでね。虫唾が走る」
「お前は何で…」
「あ!?」
「お前は何でそんな何だ!」
突然、パクスは怒りを露にした。
「何だよ」
「何故そうなんだ!何故弱き者に手をさしのべることが出来ない!この世は弱肉強食、例えそうでも、共存できる未来があるんだ」
パクスは元の世界であった強き者と弱き者が共存している世界を知ってる。だからエストの思想があり得なかった。
「弱い人でも何か得意なことがある。それを伸ばして、役に立てばいい。何故わからない。強き者が弱き者を助ける。それが自然の摂理、人間の秩序というものではないのか!?」
まぁ、自然の摂理や人間の秩序はよく分からんが、人として当然の行いだとパクスは思った。
「…やっぱり、俺とお前は理解し会えない。これ以上話しても無駄だ」
それは、エストによる仲良くできないとはっきり言った、完璧に敵対関係が出来たのだ。
「もう時間がない。今度こそ、もう終わりにしよう」
エストによる闘いの終結の宣言だった。
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