第12話 衝突

 魔石とは、魔力が集まり凝縮した結晶のことをいう。そして魔石は、主に魔物からとれる。魔石の魔力が具現化したのが魔物である。つまり、魔物の体内には魔石があるということ。魔力が少ない人でも生活に支障をきたさなかったり冒険のなかで役立つ、魔石を使った道具を"魔道具"という。それほど魔石は貴重なものだ。当然、強い魔物からはより貴重な魔石がとれる。




 そして、魔石を砕くと凝縮されていた魔力が溢れだしてしまう。人の体内には、魔力を保管しておく所がある。その許容量を越えると"魔力酔い"を引き起こすのだ。例としては泥酔した時の感覚だろう。




 魔石を砕いたことで、凝縮されていた魔力が溢れだし、女とヴィドはまさに魔力酔いを引き起こしていたのだ。




「あ~あ、だからやめろっていったのに。人の話を聞かないからですよ」




 二人の様子をみて、パクスはため息まじりにそう言った。




「うっ、な、ぜ、あな、たは、そん、な、平気なの、よ」




 確かに、膨大な魔力を浴びることで魔力酔いが起こるが、体内にためておく場所がなければ意味がない。




「ヴィドには言ったが、俺、魔力ゼロ何だよ」




 パクスは魔法が使えず、魔力ゼロ、つまり体内に保管しておく所がない、そのため魔力酔いは起きなかった、唯一の例外である。




「そん、な、魔力ゼロの人なんて、見たことないわ」




 女が驚愕の表情をした。




「おっ!どうやら、形勢逆転のようだな」




 魔石を砕いたことで、パクスを拘束していた岩がボロボロと崩れはじめた。




「ちなみに、徽章はちゃんとここにあるぞ」




 パクスは懐から徽章を取り出し見せびらかした。




「さて、お前さんらをどうしようかな…」




 ………




「ふぅ~、これでいいかな」




 動けない女とヴィドを木に拘束していた。




「くっ、こんな、こと、して、ただですむと、思わないでよ」




「期限まで残り2日、1日もすれば元に戻るだろう。あとは、勝手にしろ。殺さないでいてあげるだけでもありがたく思え」




「くっ、待って、あなた、魔石は、どこ、から、手に入れた、のよ」




 徽章がいつの間にか魔石の方にすり替えられ、不思議に思って女は聞いた。




「ああ、実はこれのおかげでな」




 パクスはそう言い、腰に下げているポーチのようなものを見せた。




「それ、は?」




「魔道具の一つだが…わかるか?」




「まさ、か、アイテムボックス!!」




「おっ!当たり!よくわかったな」




 パクスが腰に下げているポーチのようなものは、魔道具である"アイテムボックス"だったのだ。




「でも、なぜあなたが?とても、高価の、はず…それに、あな、た、魔力ゼロ、のよね?」




「俺の師匠からもらったものだ」




 アイテムボックスは亡くなった老人の形見としていただいたものだった。




「それじゃ、俺は先を急ごうかな。」




「待て、僕、僕のこと、を助けろ!護衛、だろ?僕は、この女に、操られて、いたんだ。頼む!」




 ヴィドは命乞いのように、助けを求めてきた。




「勘違いするなよ!俺のことをはめた時点で、護衛の件はなくなっている。」




「なっ!?」




 だがパクスはその必死の要求にも、悩むことなく、断った。




「それと、一つ教えてやる。俺は仲間のことは、絶対守るが、敵には容赦しない!」




「うっ、くそっ…」




「そんなことより、自分の心配をした方がいいぞ。今は魔力が充満しているが、なくなったら…」




「魔物が、やってくる…」




「そう!」




 今、ここには魔石を砕いたことにより、魔力が周囲に充満していて、魔物は近づいてこないが、魔力が消えた時には、魔物が周囲からやってきてしまう。




 動けない二人はまさに絶対絶命であった。




「じゃあな」




「なっ!待って!」




 そんな、悲痛な叫びにもパクスは応えず先を急いだ。




 【力】により、周囲の魔物が二人の方に向かっていることにも気にせず…




 ………




「はあ~、今日中に着かなきゃ、ヤバいな~」




 昨日の件から1日たち、期限は今日までになってしまった。




「まぁ、ここからゴールまで急げば今日中につくから…大丈夫かな?」




 ゴールまでの距離を考えたところ、今日中に着くと思い少し安心していた。




「んっ!?」




 【力】の効果により、周囲の異変を察知した。




 (何だ?何かくる)




 すると、周囲の木々が倒れパクスの方向に向かってきていた。




「んっ?お前は誰だ?」




 現れたのは、白と黒が混ざった髪の色をした、目付きの悪い男だった。


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