第9話 第一次試験

「さて、脱出と言ってもどっちに向かうべきかな?」




 試験開始の合図がなり、受験者同士の殺しあいがあった中、パクスを含め他の数人はその場を離れ、速い脱出をするべく散り散りになっていた。




 だが、いきなりテレポートされ、現在地の把握ができず、ゴールとなる場所がどの方角か分からないので、パクスは四苦八苦していた。




「ふぅ、仕方ない…速く脱出しなきゃな。他の奴らがきてめんどくさいことになるから。」




 他の受験者が来ることで今いる場所が殺戮場へと変化することを避けるため一刻も速く脱出するよう腹をくくった。




「せーーのっ!!」




 パクスが脚に【力】を込め、地面を力いっぱい蹴ると、ものすごい跳躍力により、雲と同じくらいの高さに着いた。




「えーと、場所は…」




 次は、眼に【力】を集中させ視力を上げる。




「オッ!あった」




 一周ぐるりと周りを見渡したことで、目的地である場所がはっきりと見ることができた。




「へぇ~、結構遠いな。歩いてせいぜい2日かな?」




 ここから目的地までは歩いて2日ほどの距離であり、普通に歩いたら時間内に着くようだが…




「…来たか」




 するといきなり、目の前の茂みが揺れ熊のような魔物が現れた。




「まぁ、魔物がいるって知ってたからな…そう驚きはしない」




 パクスは森にテレポートされた直後【力】を発動させ、周囲を感知していた。つまり、このようなことが起ころうと想定内だったのだ。




「修行していて良かった…おかげでお前が相手でも問題なく勝てる」




 すると魔物は構え、パクスに襲いかかった。




 魔物の鋭い牙がパクスを噛み砕こうとするが、パクスはそれをかわし、剣に【力】を流し込み強化、そのまま魔物の首を一刀両断…魔物は切断面から血を流し倒れ、そのまま動かなくなった。




 老人のもとでの修行により、【力】の使い方、武器の扱いを習得し、さらに鍛え上げたことで魔物の首をはねるのは問題なかった。




「うん…問題ないな。先を急ぐか」




 魔物との戦闘を終え、パクスは先を急いだ。




 ………




「そろそろだと思うんだけどな…」




 魔物との戦闘の後、パクスは速く脱出するため先を急いでいた。




「オッ!あったあった」




 辺りが暗くなり、視界が闇に包み込まれる中、パクスは今夜の野営地を探していた。




 そこで探していたのは、生きるために大切な"水"を確保するため、川を探していた。




「………うん。この水は飲めるな」




 ………




「ふぅ、それにしても、これが試験かよ」




 川の水を飲み、パクスは一息ついていた。




 今日の試験により、起きた出来事、今後の方針について、熟考していた。




「できれば明日で着くようにしないとな。もし、着かなくても、明後日で間に合うようにしないと」




 すると…




「はぁはぁ…ぜぇぜぇ…川だ!」




 茂みから誰かが現れ川の水をがぶ飲みした。




「ぷはー…うまい!危なかった、もう少しで…って何者だ!?」




 現れたのは訓練場で監督官に質問をし、叱責をくらっていた金髪の男だった。




「いや、何者だといわれてもお前さんと同じ受験者だけど」




「何!?そうだったのか…それはすまない」




 男はパクスの話を聞くと素直に自分が言った発言に対し謝罪した。




「だがしかし、この場所は僕が見つけた!つまり僕が使う責任がある。特別に見逃してやるから別の場所にいきたまえ」




 それは男が突然言った、何とも自己中な発言だった。




 (…は?何を言っているんだ。こいつ)




 男の言葉を無視し、黙っていると、




「おい!聞こえているだろ!この僕が見逃すと言っているのに無視とはいい度胸だな!僕は貴族の"インディア"家の長男、ヴィド·インディア様だぞ!」




 と、男…ヴィドはそう言った。




 (インディア家…知らねぇな)




 この世界について、老人との暮らしのなかである程度の常識は知っていたが、インディア家というのは、パクスは知らなかった。




 否、知らなかったのではなく、"覚えていなかったのだ"。実際、インディア家という単語は聞いていたが覚えられなかったのだ。パクスは他の人に比べて、記憶力があまりいいほうではなかった。ただそれだけであった。




「おい!」




 ヴィドはまた、大声を上げた。




「はぁ…あのさ勘違いしているところ悪いが、お前さんが言うには、この場所は速いもの勝ちと言うことだな」




「ああ、その通りだ!だから、先にいた僕が使う権利があり…」




「だったら使う権利があるのは、俺だな!」




「何!?」




「だって、先にいたのはお前さんじゃなく、おれだからだよ」




「何を?!君が後で来たんじゃ…」




 どうやら、焦っていたあまり周りが見えていなく、自分が先についていたと思っていたらしい。




 すると…




 『ドォォォー!!』




 少し離れた所で大きな爆発音がなった。




「な、何だ!?」




 (爆発…近いな)




 聞こえた所を予測するに、歩いて10分くらいの距離だと思えた。




「オッケ、わかった。お前さんにこの場所を譲ろう。俺はもう少し離れた所に行くから。じゃな!」




 爆発音から他の受験者がいると考え、出くわさないよう、すぐに離れるように決断した。




「ちょ、ちょっと待て!君を僕の護衛に任命してやる!ありがたく思ってくれ」




 ヴィドが命令のような口調で言った。




「は!?護衛だって?何で?」




 パクスは当然の反応をした。




「あ、当たり前、だろ?僕はインディア家…王様の一族だぞ!助けるのが当然だろ!」




 ヴィドは次期王様になれるとたかをくくっているようだ。




 (はぁ~めんど…断ったら何か言ってくるしな…)




「わかった、仕方ないからしてやる」




 と、パクスは仕方なくヴィドの護衛を引き受けたのだ。




「うむ、苦しゅうない。なら、君はどんな魔法が使えるんだ?」




 護衛を引き受けたことで、どんな魔法が使えるのか聞かれた。




 味方の情報を知るのは大切だからだろう。




「どんなって言われても…俺、実は魔法 "使えない" んだ」




 すると、パクスは誰しもが予想出来なかった返答をした。




 ………




「ふん、ここの魔物は相手にならないわね」




 パクスたちから少し離れた…"爆発"が起きた場所で赤色の髪をツインテールにまとめた女は、目の前の魔物の死骸を見ながら呟いた。




「あいつは上手くやってくれるかしら…」




 ゴールである目的地の方角を振り向き、女はそう呟いた。




 ………




「この俺を相手に勝てると思ったその浅はかな態度がお前たちの敗因の原因だ」




 テレポートされ、試験が開始された場所で、周りにおびただしい数の受験者が倒れ、その中央に一人の男がたたずんでいた。




「さて、邪魔者がいなくなったことだし、先をいそぐか」




 ゴールである目的地の方角を振り向き、男はそう呟いた。

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