第6話 旅立ち

「爺さん、大丈夫か…」




 家の中で倒れていた爺さんを寝室へと運び、寝床に横にならせた。




「ふぉ…すまぬな。この頃体の自由がきかなくての」




「そうか…」




 覇気がなく、見るからに衰え衰弱した顔、触れただけで捻り潰せるくらい弱々しかった。




「長生きできただけでも嬉しかったわい…誰しもが訪れる限界がきただけじゃ…仕方ない…」




 老人は百歳を越えているそうで、元の世界の基準と比べても長生きだっただろう。ただ、誰しもが訪れる"寿命"がきたのだ。




「爺さん…」




「そんな顔をするな…パクスよ…笑って送ってくれた方が、わしは嬉しいぞ…」




 自分が今、どんな顔をしているのか、よく分からない。ただ、老人が言った言葉から良くない顔をしているのが分かった。




老人が言ったように誰であろうと限界が来る。




そんな時、自分はどうするのか?今、自分がするべきことは…




「ーッ、いろいろありがとう、爺さん」




 感謝をうまく述べることが出来ず、言えたのは笑って言った、シンプルな言葉だった。




「ふぉ…こちらこそ、ありがとうのぉ」




 老人も笑顔で感謝を述べた。










……




「パクスよ…今になって悪いが…お主に言っておくことがある…」




「…なんだ?」




 お別れ…と思ったが、意外にも老人が、何か伝えるように言った。




「…これからについて、お主に話そうと思っていたこと、じゃ……見たら分かるが、無理のようじゃ…だがら、儂がいなくなった後、儂の、書斎に、詳しく、記して、おる…」




「分かった…」




 老人の声がだんだんか細く、小さく、弱々しくなっていき、命の灯火が消えていくのが感じられた。




「お主と、出会ってから、儂は、とても、楽、し、かったわい…」




「…爺さん、ありがとう…俺も…」




 パクスは、言葉を一度とめ、老人の安らかな安堵の表情を見て、言った。




「…俺も、楽しかった…」




 そう言った直後、パクスの目からこらえきられなかった涙が、頬をつたった。不思議と、その涙は熱く感じた。






………


 老人を看とり、死体を埋め、供養した後、パクスは書斎へと向かった。




「…ここか」




 老人が最後に残した言葉の真意を知るため、書斎へと向かい、引き出しを開けると、一枚の紙がはいっていた。




「紙…?なんだ?」




 見ると、何か文字がかいてあった。




 "この世界の文字"でかかれている。




「勉強しておいてよかった…」




 半年の間パクスは、修行だけでなく、老人からこの世界の文字について教えてもらい、夜、勉強していたのである。




 簡単な文字くらいであれば読むことができるくらいまで、上達したのだ。そして、紙はまるでパクスが読むために書かれたような簡単な文字で書かれている。




『パクスよ…これを書いている理由は、儂の生命が後少ししかなく、お主にすべてを教えてやることが出来ないからじゃ。言葉では無理でも、紙ならば何年たっても残り続ける。』




「…爺さん」




『本題へといこう。これを書いているのはもちろんお主に伝えることがあるからじゃが…伝える内容は、今後のお主についてじゃ。』




 (これからの俺…そういや、爺さん最後に同じようなこと言ってたな…)




『最初に、この土地はアウロラ王国に属している。お主もいつまでもこの森の中、この家にいるわけにはおるまい。だからじゃ、アウロラ王国の王都へといき、好きに生きよ。冒険者になるのもよし、商人になり、店を開くのもよし、じゃが、儂のオススメは王都の騎士団で働くことじゃ。騎士団は国のために働く、いわば便利屋じゃな。収入が良く、王様も優しく、民も心優しいから、お主がよければ入団するといい。試験は厳しいがの。まぁ、もう一度言うが、好きに生きよ!じゃあのぉ…パクスよ』




「…爺さん…」




 老人が伝えたかったことは、将来についての生活などについてだった。




 冒険者か、商人か、騎士団か…何になるか…




「さぁて、どうしようか?」




 ………




「さぁて、行くか!」




 老人からの伝言を受け取り、準備が終えたパクスは外の扉前に立ち、家を一目見て…




「ありがとうございました!」




 と、感謝の言葉を述べた。




「目指すは…アウロラ王国!」




 パクスは、アウロラ王国へと、向かい、老人と暮らした家に別れを告げ、歩き初めた。




 旅立ちの日の空は、今後の運命を祝福してくれるような快晴だった。


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