第4話 猛暑、まぢ猛暑。
ここ数日、気温は四十度付近をうろうろしています。
ならば、野郎共はくたばっているかと言われると、風の子は暑さも吹き飛ばすようで、尚更元気になったように見えます。
私はというと、万年教室組の一人ではありますが、やはり教室にこもっています。ひんやりとした教室を出れば、廊下ですら嫌になる暑さですから。出ないのが利口というものです。
最近は、折り紙に休み時間の全てを捧げたいところですが、いかんせん提出期限が目前に迫った宿題があるのでそうともいきません。
「オリジナル新聞を作ろう!」なんて言い出したのは勿論あの担任です。夏休みを目前にした今、夏休みに行くべきおすすめスポットを新聞にまとめろと言うのです。
夏休みの宿題を片付けるべく既に取りかかろうとしているというのに、今課題を出すのです。なんとも生徒想いな担任だと言うしかありません。
「香代子さんどこまで行った?」
前の席から声をかけてきたのは、いつも話しているグループの一人、あの日、先生に『国内情勢について話してます』なんて答えた(一応本当です)あの人です。
クラス一の秀才で、学童保育でよく一緒に帰っていたために仲良くなりました。出会ったときから彼女は私をさん付けで呼ぶのですが、どう考えても面白がっているようにしか思えません。しかし、私の友人は皆私をさん付けで呼びます。
ともかく、私は「あと、まとめと絵だけ。」と答えました。
「私まだ半分。」
「やばいじゃん。がんば。」
「うぇーい。」
そう言うと、彼女はピースをしてゆらゆらと体を左右に揺らしました。お気に入りのふざけ方だそうです。
「エアコンかけても暑ーい。エアコンなかった頃よりかはましだけど。」
「今の3年生くらいからさ、一気に学校グレードアップされてからのウハウハな学年だしさ、ずるいよね。」
「扇風機で乗り切る辛さを味わってみろ!って思うよね。」
一通り怒りをぶつけ終えると、またため息をついて作業に取り掛かりました。
時折愚痴を吐きながらも、なんとか課題は終わらせました。とはいえ、小学五年生が数時間程で作った新聞ですからクオリティはたかがしれていますし、ウサギすら満足に書けない私の絵など見たがる人もいないでしょう。問題は内容なのですが、私はド定番で埋めました。しかし、細かいおすすめまで詰めたので悪い成績にはならないはずです。
五六時間目をこなし、精一杯体を冷やしてから外に出ると、やはり暑いことこの上ありません。母は口癖のように「昔はこんなに暑くなかった」というのですが、その涼しさが戻ってきてくれることを心から願います。熱帯の仲間入りを始め、そろそろ背の高い植物でも生えてくるのではないかと危惧するこの時に、「お道具箱を持って帰れ」と命令する大人もどうかしていると思います。せいぜい体積は一万五千立方センチといったところでしょうが、鞄の細い持ち手は手に食い込むし、右下に体が引っ張られるし、かと言って隣にいる友人も同じ状況なので助けを求めることもできず、一キロをひいはあ言いながら帰るのです。
またしても母は「私の小学校は山の中にあったからさ、すんごい遠かった。」とよく語るのですが、涼しい遠い道と暑い近い道ではプラマイゼロではないでしょうか。
しかし、家を目前にして私の思考は纏まりません。猛暑故なのでしょうが、まっこと、勘弁していただきたい猛暑です。
なにせ、挨拶は既に暑さに浸食されていますから。
「じゃあまた明日ね。…暑いね。」
「うんわかった、まぢ暑いね。」
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