第2話匂う
朝の9時。岡本はいつもの如く新聞を読み、小林はお茶を入れた。
今日の依頼者、田中と言う主婦からだった。
11時、田中が現れた。
「初めまして、岡本です。ご要件をお聴きします」
田中はその辺りにいそうな主婦だが、若い頃はきっと美人だったに違いない。
「あ、あの。お恥ずかしい話し何ですが、うちの主人の事で」
「……不倫ですかね?」
岡本はズバリと言った。
「はい、毎週火曜日は帰りが23時を過ぎる事が多く、あの……女性の香水の匂いがシャツからするんです」
田中は伏し目だった。
「浮気調査の依頼ですね?」
「は、はい。それで、いくら位の依頼料が必要なのでしょうか?」
「せいぜい30万円と言ったところでしょうか?」
「……30万円、それでしたらお支払出来ます。どうか、主人の浮気現場を押さえて下さい。事の次第によれば、離婚も考えているので」
田中は旦那の顔写真、会社名、最寄り駅などなど情報を提供して、帰って行った。
「先生、酷い旦那さんですね」
「何が?」
「浮気ですよ!」
「日本も一夫多妻制にすれば良いのにね。浮気なんて、誰でもするし」
「先生、凄い偏見ですよ。悪い偏見。いけませんよ!」
「ま、浮気現場さえ押さえれば良いんだ」
2人は最寄り駅で待伏せして、旦那の顔を確認しに行った。
19時23分の電車から降りた、旦那は自転車で自宅に向かった。
「あんな、真面目な顔して浮気するなんて許せない」
「小林君、君は真面目じゃない顔の男は浮気して良いのか?」
「そう言う訳ではありませんが」
「明日は、火曜日だ。尾行するぞ」
「はい」
2人はラーメン屋に向かい、ビールを飲んだ。
火曜日。
朝の5時に2人は最寄り駅の電柱の陰に立っていた。
岡本はタバコを吸って、吸い殻をポケット灰皿に入れた。
6時20分、旦那が現れた。
7時50分、出社。
仕事が終わるのは18時と聞いていたので、2人は17時までパチンコを打った。
岡本は5000円で5箱、小林は1000円で11箱出した。
時間なので、店を出た。
6時15分、会社から出てきた。旦那の後を尾行した。
旦那は最寄り駅とは反対の道を歩く。
彼は風俗店に入店した。
「先生、最悪な男ですね。奥さんがいるのに」
「そうかな?奥さんだけじゃ、物足りないのじゃ無いかな?」
風俗「ペニ夫」
学生服に着替えた、女の子が男にまたがり、男は触り放題で、飲酒する。
岡本1人、店に入り旦那を探した。風俗通いの旦那を隠しカメラで押さえるためだ。
岡本は旦那を探したが、見当たらない。
「13番様、ルナちゃんご指名入りました!」
と、蝶ネクタイで仕切っているが、旦那だった。
旦那は風俗店で働いていたのだ。
岡本はそれをカメラに押さえた。
そして、店を出た。
「先生どうでした?」
「バッチリ」
「やっぱ、モミモミしてました?」
「いや、従業員として働いていた。きっとお金が必要なんだろうな?」
「週1、3時間のバイトで6万円って、従業員を募集してありましたよ!」
と、小林がサイトを開いた。
「私、間違ってました。旦那さんは浮気じゃなくて、家計の為に働いていたんですね」
「近年稀に聞く美談だな」
翌日
田中と言う主婦は、岡本の事務所に現れた。
旦那が働いている様子を画像で見せた。
「奥さん、お金が必要なんですか?」
「……はい。息子が病気で年の半分は入院してます。私も昼間パートをしてますが、生活がきつくて。……そう、あの人真面目だから、そうところで働いているのが話せなかったんですね。少しでも旦那を疑った私は恥ずかしい人間です」
田中はお茶に口を付けた。岡本は、
「でも、離婚すると言ってましたよね?」
「慰謝料で息子の面倒をみようと思い悩んでいました」
「旦那さんを許してあげて下さい。香水の匂いはあの店ならプンプンしてました。その時の残り香です。これで、調査は終了です」
と、岡本が言うと、
「少ないですが、依頼料です」
「一万円で結構です」
「え?!」
「本来は2週間程掛かりますが、1日で済みました。また、何かあったら相談に乗ります。四方山話でも結構です」
岡本は封筒を田中に返した。そこから、1万円札を3枚取り出し、気持ちですといって、1万円では無く3万円を岡本に渡して、丁重なお礼を言って、田中は事務所を後にした。
「先生、カッコいい!」
「え、ホント?これからは、僕の事を1日10回はかっこいいと言いなさい。今日は店仕舞いだ!焼き肉食いに行こう!今日のパチンコ代で」
と、岡本は帰り支度を始めた。小林は喜んで、書類整理し始めた。
4時になると、2人焼き肉やエドホルモンに向かった。
この日、2人は楽しい酒を飲んだ。酔っ払って小林は岡本に絡み酒。
ま、若い頃は酒で失敗した方が良いと思う岡本だった。
日常探偵 羽弦トリス @September-0919
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