第5話
ラハティ王国の国民は、人が生きていくには厳しいとも言えるような環境で生活をしている割には、十分に満たされていると感じる人の割合が非常に多い。厳しい環境だからこそ、互いが支え合って生きていかなければならず、人々はより親密な関係を築いているのかもしれないが、この国の民はとても、とても、噂話が大好きなのだ。
「あの話を聞いたかね」
「うんうん、何でも公爵家っていうお偉いさんの家での話なんだろう?」
「一妻多夫の話を聞いた時には本当のことなの?と、思ったんだけどもさあ」
「一人の妻を大勢の男で共有しながら、その多情な妻のために操を立てているってんだから呆れるね!」
「隣国の姫様にさえ手を出さずに初夜を終えたっていうんだよ?」
「「「「本当に、お貴族様のやることなんて、わたしらには全くよく分からないよ!」」」」
「「「「結婚したんだろう?だったら手を出しときゃあ良いのに!」」」」
「「「「それが出来ないのが一妻多夫なんだろ、ある意味すごい話だわ!」」」」
毎朝、全ての新聞に一通り確認をしていくのがカステヘルミの習慣なのだが、平民向けのゴシップ紙を手に取ったカステヘルミは思わず可愛らしい顔をクチャクチャに顰めて見せた。
「俺の妻は顔をクチャクチャにしても可愛らしいな」
そんなカステヘルミをぼんやりと眺めながらオリヴェルが呑気なことを言っている為、カステヘルミは持っていた新聞をオリヴェルに投げつけた。
「オリヴェル様!今すぐその新聞の三面記事をお読みなさい!そんなに呑気な顔ではいられなくなりましてよ!」
「え?デイリー社の新聞の三面か?」
デイリー社はゴシップ記事を得意とする三流扱いの新聞社なのだが、薄利多売で勝負をかけている新聞社だけに、他誌と比べるとダントツに値段が安い。だからこそ、庶民がこよなく愛する新聞ということなのだけれど、そこに記されているスクープ記事は・・
「ラウタヴァーラ公爵家を継いだばかりの嫡男もまた!白い結婚を強行するだって〜?」
思わずオリヴェルが絶叫すると、
「そこにはオリヴェル様の白い結婚も、赤裸々に語られておりますわよ!」
と、カステヘルミは言い出した。
新聞の記事によると、一妻多夫を望み、逆ハーレムを実行する前公爵夫人の親族に当たる令嬢は、自分のハーレム要員に麗しきアドルフ王子を加えようとしたところで不敬罪を適用された。その後、問題がある貴族の矯正も行う、厳しいことでも有名な修道院に令嬢は送られることとなったのだが、その令嬢に対して、公爵家の二人の兄弟は常軌を逸した愛を捧げ続けているという。弟のオリヴェル氏がカステヘルミ嬢と結婚したのは記憶に新しいことだが、オリヴェル氏は今現在も、花嫁に対して白い結婚を貫き通している。そうして、隣国から花嫁を迎え入れたニクラス氏もまた、初夜の場で隣国の姫君に手を出すようなことをしなかった。そのことを純白のシーツが明らかにしている・・という内容だったのだが・・
「確かに・・兄さんも俺と同じように白い結婚状態なのは間違いない」
記事を読みながらオリヴェルがポロリとこぼした言葉を拾い上げたカステヘルミは激怒した。
「オリヴェル様、それは本当の話なのですか!」
「え?」
「まさかニクラス様までも!ユリアナ様への想いを断ち切れぬゆえに初夜をボイコット!」
「そうじゃない!そうじゃない!」
慌てたオリヴェルは懇切丁寧に自分の妻であるカステヘルミに説明をした。自分たち兄弟は、幼い時から一緒に暮らすユリアナに手を出すどころかキスの一つすらしていないのだが、隣国まで『一妻多夫』の噂が広がった弊害で、カタジーナ姫は自分の夫となる人物が性病を患っているのではないかと疑った。
そのため、ルーレオ王国からそちらの病気については第一人者とも言われる有名な医者を連れて来ており、結婚した翌日から一ヶ月の予定で、毎日、診察を受けているらしい。
「一応、俺も毎日診察を受けているのだ。万が一にもカステヘルミが俺を許した場合に、俺は決して病持ちではないと主張するために、一ヶ月後には医師の診断書を貰う予定でいるのだ!」
堂々としたその発言に、カステヘルミは思わず自分の頭を抱えてしまった。万が一にも許したらとはなんなのだ。絶対に自分は許す気はないのだが、一縷の望みをかけているということか?というか、妻なのだから無理強いしてもおかしくないこのラハティ王国の価値観の中で、いつかは許される日をいじらしく待っているのか。
「なんと哀れな・・」
「今、哀れって言ったか?」
「いいえ、そんなことを言ってはおりませんとも」
カステヘルミは首を激しく横に振りながらも、頭の中を整理していく。
「ニクラス様とカタジーナ様は、間違いなく白い結婚」
「病気を疑われているからな」
「スペシャルなお医者様を連れて来たことは公にはしておりませんわよね?」
「コトがコトだけに、公にしているわけがない」
「では、公爵家の中の人間がデイリー社にリークしたということになりますわよね」
ちなみに公爵家の使用人は、ユリアナ嬢の問題ある行動が外には出ないように、隠蔽に隠蔽を重ねるような人たちである。最近、多少の入れ替わりはあったものの、マナーハウスの人員と入れ替えをしたような形となるため、新しい人間を雇い入れてはいないのだ。
「これは、カタジーナ様とお話をしなければなりませんわね」
カステヘルミがそう呟くと、オリヴェルがすぐさま便箋と封筒を用意する。
「調教したつもりはないのですけど、オリヴェル様、成長しておりますわね?」
「それはもちろん、鬼将軍に仕える者として、これくらいのことはすぐに出来なければな!」
そう言ってオリヴェルは自分の胸を叩いたのだが、
「鬼将軍?」
どうやらカステヘルミの夫となったオリヴェルは、カステヘルミのことを心の中で鬼将軍と呼んでいるようだ。
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こちらは、今日は三話更新していきたいと思います!!サラッと終わる予定ですので、本当に暑い日が続いてうんざりするのですが、少しでも気分転換となれば嬉しいです!!
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