番外編
第1話
ルーレオ王国とラハティ王国の共同事業として両国の間に鉄道が通されることが決まり、ラハティ王国の公爵家の元へ、ルーレオ王国の姫が輿入れすることになった。ルーレオ王国には未婚の姫が二人おり、ジョアンナは正妃腹、カタジーナは妾腹。
ラハティ王国のアドルフ王子はすでに結婚をして子供が居るし、下の弟たちもまだ十歳と幼い。その結果、姫の結婚相手として未だ未婚のラウタヴァーラ公爵家の嫡男、ニクラスに白羽の矢が立つこととなったのだ。
「ええ〜、お相手はそれなりに顔が良いという噂は聞いているし、釣り書きの絵もそれなりに見目麗しいように思うけれど、一妻多夫希望の男なのでしょう〜?不潔だわ〜」
ジョアンナ姫は二十一歳、あれが駄目、これが駄目だと言い続けていたらこんな年齢になってしまったという姫君であり、ここで是非とも嫁に出してしまいたいと考えている王家の意図には反する形で、ジョアンナは文句をブウブウ言い出した。
ラハティ王国から流れて来た噂によると、ラウタヴァーラ公爵夫人が憐れと思って引き取った令嬢が、常軌を逸した令嬢であったらしい。未婚であり、婚約者も居ないという状態で、公爵家の外で行われる茶会や夜会では見目麗しい若者たちを侍らし続け、公爵家に戻ったら戻ったで、公爵家の二人の兄弟を両側に揃えて甘え続けていたらしい。
彼女は誰か一人の男性を愛するタイプの女性ではなく、複数の男性を同等に愛するタイプの人間だった。一人の男性が複数の女性を愛して側近くに侍らすことを『ハーレム』と言うのなら、女性がそれをやることを『逆ハーレム』とラハティ王国では言うらしい。
この逆ハーレムの一員となっていたのが、ニクラス・ヨルマ・ラウタヴァーラ、ルーレオの姫の嫁ぎ先ということなのだ。
「嫌よ!嫌よ!嫌よ!そんな不潔な男なんて絶対に嫌!絶対にイヤーーーッ!」
ジョアンナ姫が大騒ぎを続けた結果、カタジーナ姫が呼び出されることとなり、
「カタジーナ・フィギュラ・フォン・ルーレオ、君にはジョアンナの代わりに隣国へ嫁いでもらうことになる」
と、父である国王から言われることとなったのだ。
「さようにございますか」
カタジーナは人差し指を自分の口先に当てながら少しだけ考え込むと、
「それでは結婚式はもっと早くにすることに致しましょう。王女としての持参金も妾腹の姫となったのですから減額する方向に致しましょう。なにしろ向こうの醜聞が広がったことでの変更ですので、相手の有責で話を進められるでしょう」
と、至って冷静に言い出した。
「隣国にオムクスが潜入している話は聞いておりますし、私としても隣国と進めたい話もあります。冬になって国同士の行き来が出来なくなる前に輿入れしたいですね」
ルーレオ王国からラハティ王国まで鉄道を通すことは国としての悲願でもある。これは絶対に成功させなければならない一大プロジェクトであり、ラハティ王国を激しく敵視するオムクスなどに邪魔をされている場合ではないのだ。
「君はまだ十七歳だし、相手とは八歳も年齢が離れてしまうんだけどね?」
国王が気遣わしげに言うと、
「そこは全く問題ありませんけど、こちらが妾腹の姫ということで相手がゴネたりしませんかね?」
と、カタジーナは疑問を口にする。
「それは絶対にないとラハティ王家側から言われている。そもそも、醜聞の元となった令嬢自身が妾腹なので、妾腹に対しての偏見はないのだろう」
「あらまあ、元恋人も妾腹ですの」
カタジーナは呆れながら天井を見上げると言い出した。
「恐らく、何の苦労も知らずにのうのうと生きてきたおぼっちゃまなのでしょう。それならそれで、一つだけお父様にお願いがあります」
「娘よ、一体何のお願いがあるのだね?」
カタジーナが願いを告げると、国王は難しい顔をして唸り声を上げた。
「それは・・いささか心配性過ぎるのではないだろうか?」
「そんなことはございません、お父様も隣国から流れて来た噂を聞いているでしょう?であれば、私の身を守るためにも是非にも必要」
「う・・う〜ん」
結局、国王は娘の要望を聞き入れることにした。
娘の嫁ぎ先に対しては、明らかに失礼とも言えることでもあるのだが、娘の言うことにも一理ある。そもそものところ、そのような醜聞を撒き散らすことになった相手自身に問題があると言えるのだから。
正妃の娘となるジョアンナ姫は、当初の予定よりも早くカタジーナが輿入れすることや、ジョアンナからカタジーナに変更されたことによって持参金が減額されることを知ると、
「おーっほっほっほっ!妾腹だからこんな対応になってしまうのね!憐れだわ!そんな状態で輿入れしたら、相手に見くびられるのに違いないじゃない〜!」
と、嬉しそうに笑い出した。
カタジーナよりも四歳年上のジョアンナ姫だが、最近では四歳も年下の妹姫と比べられることも多く、彼女にとってカタジーナは目の上の瘤のような存在だったのだ。
美姫として周辺諸国でも有名なジョアンナではなく、カタジーナが嫁ぐこととなったことで、隣国ラハティは大きく肩を落としているのに違いない。しかも妾腹であり、価値がないということが理由で持参金は減額。父王も余程に邪魔に思ったのか、婚姻までの期間を短縮することを申し出て、それを隣国ラハティも許すことになったのだ。
「きっとラウタヴァーラ公爵家の嫡男とやらも、私ではなくてカタジーナが嫁ぐことになって大いに嘆いているでしょうね」
ふふふ、と、ジョアンナの口元から笑いがこぼれ落ちていく。
「是非ともカタジーナの結婚式には出席しなくっちゃ!向こうは私とカタジーナを見比べて、ガッカリするのは間違いないし、なんでこんな嫁を迎えなければならないのだと、公爵家の嫡男はきっと憤慨することでしょうね!」
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本編にて、最終話の出てくるお姫様の名前を当初イングリッドとしていたのですが、カタジーナに変更しております!!混乱させてすみません!よろしくお願いします!!本当に暑い日が続いてうんざりするのですが、少しでも気分転換に利用して頂ければ嬉しいです!!
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