第14話

 私が住むラハティ王国の国民は、噂が大好きな国民性ゆえに、十分に満たされていると感じる人の割合が多いのだと思うのよね。


 二人以上集まれば『噂』『噂』『噂』で盛り上がる。

「ええー?そんなことがあったの?」

「嘘でしょう〜?」

「信じられな〜い!」

 と言いながら、とっても、とっても楽しむのです。


 鉄道事業を進める中、ほぼ王命でラウタヴァーラ公爵家に嫁ぐことになった私ですが、公爵家の中がこんなに歪な状態になっているということを知りませんでした。だって、そういうことが噂として流れてくることなんて無かったんですからね。


 普通だったら面白おかしく広まっていくユリアナ様の醜聞も、全く私は知らない状態だったのです。前情報が少なすぎたということは間違いないですね。


 彼女のような立場の人間であれば、オリヴェル様と結婚した私を憎く思うでしょうし、私を貶めるためなら何でも行ったことでしょう。本当の本当に危ないところでした。


「私はそんなつもりはなかったのに・・そんなつもりはなかったのに・・」


 涙ながらにユリアナ様が訴えれば、即座に私は悪者となったでしょう。そうして一度貼り付けられたレッテルを貼り直すのはなかなか難しい。そのことが分かっているからこそ、私は別の戦い方を選んだのです。


 私だって『噂』を使うのは諸刃の剣だということは分かっておりましてよ。ですが、やっぱりここは『噂』を使ったほうが良いでしょう。だってユリアナ様ったらとっても面白いキャラクターをされているのですもの!


 男性を複数侍らせて悦に入っているのですもの!面白すぎるったらないわ!それに二人の公爵家の令息たちも、馬鹿な兄弟にも程があるでしょうって思いましたとも。


 幸いにもユリアナ様は自分が公爵家の人間と同等に価値がある偉い人間なんだぞ!と、思い込んでおりましたので、私は戦いを有利に運ぶことが出来るでしょう。


 そんなユリアナ様が、アドルフ王子に対する不敬が理由で身柄を拘束されました。その後は問題がある貴族が送り込まれるという修道院へと送られることになったのです。


 ユリアナ様を溺愛されていたパウラ様はあまりのショックで領地へと引き籠り、愛する妻と共に領地へと移動をすることを決めた公爵は、当主の座を嫡男のニクラス様に引き継がれることを決意。


 婚約者の居ないニクラス様はルーレオ王国のカタジーナ姫を妻として迎え入れて、新公爵として鉄道事業に邁進することになりました。


 もちろん義父母が領地に引っ込んだのは、敵国と接触したユリアナ様の責任を取ってということです。


 今回、王家はラウタヴァーラ公爵家を庇う形としましたが、ラウタヴァーラ公爵家は王家に大きな借りを作ったことになりました。今後は色々な要求を王家からされることになるでしょうが、身から出た錆なので仕方がないことですよね?


 義母パウラ様が領地にある別荘の一つに移ることになった為、長らく公爵家に仕えていた執事のグレンや侍女頭も揃って、別荘の方へと移動をすることになりました。鉄道の事業を進めていかなければならないこともあり、義父であるジグムント様は領地と王都を行き来することも許されましたが、ユリアナ様を溺愛していたパウラ様は責任を取って蟄居、二度と王都に戻って来ることは出来ないでしょう。


 ニクラス様の元にはカタジーナ様が輿入れしてくることになりましたが、息子の晴れ舞台に前公爵夫妻が現れることはありませんでした。


 もちろん懲罰的な意味合いで参加出来なかったんですけど、その行為はたとえ姫が嫁いで来ようとも、その威光を自分たちのために使うつもりはないと宣言しているようにも見えたので、引き際の良さを賞賛されることにもなりました。


 隣国から嫁いできた姫様は、思いの外気さくで聡明な方でした。そんな姫様がニクラス様の伴侶となって一月後に、一つの事件が起こったのです。


 なんと、なんと、なんと、北端の修道院から逃げ出して来たユリアナ様が、王都で買い物中のニクラス様とカタジーナ様の元へ、ナイフ片手に飛び掛かって行ったのです。新妻を庇ったニクラス様はユリアナ様を投げ飛ばし、地面に投げ飛ばされたユリアナ様は、あっという間に護衛の者たちに拘束されてしまいました。


 そんな大事件があったので、事実を知りたい友人たちがお茶会を開いて私から話を聞こうというところなのでしょう。クリスティナ様と愉快な仲間たちが集まって、目をキラキラさせております。


「これは仲の良いあなたたちだから言うのだけれど、他の人には黙っていてね」

 そこで私はこう言って、目をキラキラさせる三人に説明を致しましたとも。


「アドルフ殿下によって北の修道院送りとなったユリアナ様だけど、親切な商人が渡してくれた新聞でニクラス様の結婚をお知りになったのよ。お相手は隣国の姫君であるカタジーナ様、自分こそがニクラス様の妻なのだと思い込んでいたユリアナ様は激怒して、修道院から逃げ出して一路王都へと向かったのよ」


 この商人は王家の仕込みで、ユリアナ嬢がここでニクラス様の結婚を祝えるかどうかを判断されたのよ。結局、ユリアナ様が選んだのは脱走、親切な商人の手引きによって王都にまで到着、刃物を持ってお二人の元へ向かって行ったんですね。


 王家としては、ここでニクラス様の反応も確認するつもりだったのです。ユリアナ様は敵国と通じた重罪人ですが、恋した相手ですものね?どんな動きを見せるかなんて分かったものじゃありません。


「過去にはユリアナ様に恋心を抱いていたニクラス様だけれど、今ではカタジーナ様にぞっこんで、のめり込むように溺愛されているのだもの。ユリアナ様が刃物を持って現れた時点で激怒したのは当たり前のことよ」


 結局、ニクラス様は自分の花嫁を守ったのでセーフ!国をも巻き込んだ大きな事業って本当にシビアですよね〜。


「溺愛といえば、弟のオリヴェル様もすっかりカステヘルミのことを溺愛しているわよね?」

「いやいやいやいや」


 私の夫は私に対して、騎士としての誓いの言葉を吐き出して以降、すっかり人が変わってしまったの。家の権力と財力目当ての頭の軽い女しかこの世には居ないと思い込んでいた夫は、私に連続してギャフンされてザマアされて、パッチリ何かに開眼しちゃったみたいなの。


 私に絶対服従なのは傍目からも良く分かるので、アドルフ王子なんかは笑いが止まらないみたいなのよ。


「カステヘルミ様、オリヴェル様がお迎えに来ていらっしゃいます」

「えええ?もう来たの?」


 最近では出かける際には送り迎えは当たり前、なんならこちらの想定よりも早い時間にわざわざ迎えに来るのよね。


「「「あらら!すごい愛だわ!」」」


 悪友たちが目をキラキラさせているけれど、これも話のネタにされるのは間違いないわ。結婚式であれだけ不満げだったオリヴェル・アスカム・ラウタヴァーラは、妻をかた時も離すことが出来ないって。ユリアナ様が今も生きているのなら、きっと彼女はこの噂を聞いて激怒するのだろうなとは思いますの。



              〈  完  〉




      *************************



 こちらのお話、ルーレオ王国の姫様の名前が当初イングリッドだったところを→カタジーナへ変更しております!!混乱させてすみません!噂を使ったお話となりますが、この後、番外編が続きます。今回スルッとざまあ回避した兄弟のドタバタとなります!!夏到来で暑いし、電気代高いしで、うんざりすることも多いけれど、すこしでも楽しんで頂けたら幸いです!!

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