第6話
クリスティナ様主催のお茶会で皆様がドン引きしている姿を見ていた私ですが、給仕のために控えている侍女たちも同様にドン引きしているのが良くわかります。
クリスティナ様が輿入れしたカネルヴァ伯爵家なのですが、新興貴族で中道派という毒にも薬にもならない立ち位置を維持し続けてきた家柄でもあるのですが、当主となったクリスティナ様の旦那様はかなりのやり手なので、侍女として仕える方達も優秀な人を揃えていることでございましょう。
侍女さんたちを生きた家具程度にしか考えない人も世の中には多いのですが、と〜んでもないと思いますの。彼女たちにだって友人もいれば家族もいるし、ここラハティ王国は二人以上集まれば噂話に花を咲かせるというのは当たり前のこと。
一妻多夫を望む女性がいるなんて(面白い話)今度会う予定の誰々に話してみよう、あの人にも話してみよう。優秀な人たちなので、公爵家で養われているユリアナ様という令嬢が〜なんて話には致しません。ちょっとお嬢様から聞いたのだけれど、こんな貴族が居るみたいなの。という前振りから面白おかしく平民の方々にまで広めてくれることでしょう。だって『一妻多夫』だって言うのだもの。
「いや、聞いた話なんだけど、お貴族様の中にはとんでもない女がいるようなんだよ」
というように面白おかしく言うでしょう!
もちろん、私が出所というようにして話を広めるようなタブーを犯す方がこの中に居るとも思えませんが、一応、自分の立場を守るためにこのようなことも言っておきますわ!
「私が見ただけのイメージで判断するのはまずいと思って、公爵邸で働く人の意見も聞いてみましたの。そうしたら、ユリアナ様は夕方になるとニクラス様と二人っきりで、庭園の散歩をしているというの。だというのに、午後のティータイムでは三人揃って楽しんでいらっしゃる。今のところオリヴェル様が横恋慕をしている状態じゃないかと言う意見が多かったのだけれど・・」
私の結婚式では切なげ眼差しをして、花嫁そっちのけで見つめていましたからね。横恋慕、諦められない恋、そんな美談でまとめ上げようとする人が多いのも事実なんだけれどね?
「私はそうではないと思ったの」
そんなことにはさせませんけれどね!
「単にオリヴェル様が横恋慕をしているだけだとするのなら、午後のお茶を三人で密着しながら飲むことにはならないと思うの。横恋慕しているのなら、幸せそうにお茶をするニクラス様とユリアナ様を柱の陰からじっとりと見るくらいでないとおかしいでしょう?」
「「「確かにそうかも」」」
皆さんの意見の一致、ありがとうございます!
「そもそも、夕方にニクラス様とユリアナ様が逢引きするように散歩をされているようなのだけれど、使用人が目につかない場所で、オリヴェル様とユリアナ様は会っているのかもしれないわ」
公爵邸は広いから、二人きりで会える場所なんていくらでもあると思うのよね〜。
「もしもユリアナ様が普通の令嬢で、夕方に共に散歩をしているニクラス様だけを愛しているのなら、午後のお茶会もまたニクラス様とだけ行うと思うの。そうじゃないと、ニクラス様に対しても、オリヴェル様に対しても失礼だと思うのよ。だけど、それをユリアナ様はしていない、それをあのお二人もお認めになっている。つまりは、公爵家のご子息様達は、ユリアナ様による一妻多夫をお認めになっているのよ!」
「「「ひぇー〜―!」」」
遂に三人から淑女らしくない声が漏れ出ているけれど、淑女である私は聞かなかったことに致しましょう。
「一人の妻に二人の夫、だからこそ、そのようなお茶会が成立するのですわ!ですが、私が調べてみたところによると、どうやらユリアナ様の夫はお二人だけではないご様子なのよ」
「「「えええ?」」」
私は社交界でユリアナ嬢を見たことがなかったのだけれど、公爵家から溺愛されるユリアナ嬢は、公爵家の派閥内で行われるお茶会や小規模な夜会などには参加していたみたいなの。
「これは侍女から聞いた話なのだけれど、ユリアナ様はとにかくお顔が素晴らしく整っている男性がお好みのようで、相手に例え婚約者がいようとも気楽に声をかけていくそうなの。とにかくボディタッチが多い方なので、声をかけられた男性はあっという間に夢中になってしまうそうなの」
なにしろユリアナ様は執事のグレンにさえ過剰にボディタッチをしているのよ。本当によくよく観察をしてみると、利用が出来そうな人にはボディタッチをして愛想も非常に良いのだけれど、下級メイドなんかには目もくれない。自分の利になるかどうかで判断しているのでしょうね。
「貴婦人は無闇やたらに男性に触れたりしないと思うのだけれど」
「そうよね?触れたりしないわ!」
「ユリアナ様は何でも許されるのよ」
「可愛らしい方だったものね?」
「そう、そういうことなのよ」
例えばユリアナ様が平々凡々とした容姿の持ち主であったなら、あそこまで公爵家の令息たちも夢中になったりはしなかっただろう。とにかく彼女は華やかな顔立ちで、庇護欲をそそるような眼差しの持ち主で、喋ると愛嬌があり、何でも許されるような雰囲気に包まれているのです。
「これは本当の本当に、親友である三人にだけ言うのよ。親にさえ言っていないことだから、胸の中に収めておいて欲しいのだけれど」
「「「絶対に言わないわ!」」」
「あの結婚式の後、オリヴェル様は初夜に訪れることはなかったの」
ここぞとばかりに、ドーンと重い真実を放り込みました!
「おそらくユリアナ様とは、すでに同衾しているのじゃないかしら?他の女とは寝られない、真実の妻しか相手にしたくないということだと思うのよ」
これはあくまでも想像ですが、ドーンと放り込むことに成功よ!
「私はね、一妻多夫を応援しているの!」
私は満面の笑みを浮かべて言いましたとも。
「幸いなことに白い結婚は私にとっても都合が良いものですもの。離婚後、修道院に行って神に仕えても良いですし、家庭教師として働くという手もありますわよね!」
なにしろ完璧な淑女、淑女の中の淑女と言われるように育てられているので、家庭教師は向いているかもしれません。
「だけどね、私と同じように自分のお相手がユリアナ様の多夫の中の一人だという方がいらっしゃったら、それは苦しい日々を送っているのではないかと思うのです」
なにしろ、真実の相手がユリアナ様なので、私と同様に見向きもされていない状況でしょうしね。
「私と同じような方がいたら救済してあげたいと思っているのだけれど、三人は協力してくれるかしら?」
今回、私がクリスティナ様主催のお茶会に参加した理由はここにあるのです。
「私は警戒をされているでしょうし、自由にユリアナ様のことを調べることが出来ないの。仮にもオリヴェル様の妻である私がユリアナ様のことを調べ出したとしたら、何かよからぬことを企んでいるのかと思われて、最悪の場合、殺されてしまうこともあり得るでしょう?」
「殺されるだなんて!」
「大袈裟じゃないかしら?」
「でも、相手は公爵家なのよ?醜聞が広がらないようにするためには、それくらいするかもしれないわよ」
私は三人のお友達を眺めながら言いましたとも。
「顔が広い三人には、是非ともユリアナ様の周辺のことを調べて欲しいの」
にっこり笑って言いましたとも。
「私たちは一妻多夫を応援していると断言しても良いと思っております。そして、その一妻多夫の犠牲者となっている方がいらっしゃったら、忠告していきたいと思っておりますの」
「忠告って何を忠告するのかしら?」
マリアーナ様の質問に私はしっかりと答えました。
「絶対に体を差し出すようなことをしてはいけません、だって、一人の女性を複数の男性で共有しているのでしょう?どんな病気を持っているかなんて分かったものじゃないのですもの!」
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ここで一旦、一区切りとして明日11時から最終話まで更新していこうと思います!!私的にはワクワクが止まらないのですが、読んで頂いた方が少しでも楽しんで頂ければ幸いです!!
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