第69話 目指せベストパートナー!④/体育祭開始!
雲一つない秋晴れの天気。
平日の今日、いよいよ西ノ山高校の体育祭が行われる。
丁度良い気温のグラウンドに、生徒も教職員も集まり、現在、開会式が執り行われていた。
『えー。では怪我のないように今日一日、競い合ってください』
校長が開会式の挨拶を締めくくる。
毎度のことながら長ったらしい挨拶だった。
半分以上は聞いてなかったし、なんならこの挨拶中に貧血で倒れた学生がいた。
始まる前から生徒にダメージ与えてどうするんだ、まったく。
『続いて、選手宣誓。生徒会長、
「はい!」
生徒会長が勢いよく返事して、前に出てくる。
彼女の事は良く知らないが、確か三年生で、かなり勉強が出来て、有名大学からの推薦も確実という噂だ。
『宣誓! 私達、選手一同は、お互いをリスペクトして、正々堂々と競い合うことをここに誓います!』
ぱちぱちと拍手が起こる。
『では、続いて、準備体操。体育委員は前に』
というわけで、しっかり体を動かして準備する。
そしてその後、開会式が終わって、ブルーシートとテントが張られたエリアの『生徒待機席』に俺達は戻った。
俺は配られた白色の鉢巻を巻く。
「頑張ろうね! 優真君」
愛奏が拳を突き出してきた。
おや、珍しく熱血らしい。
「うん、愛奏。命、燃やしていこう」
俺は彼女の拳に自分の拳を当てて応える。
だが、その行為をクラスメイトが見ていたようだ。
「あー、始まったばっかりなのにイチャイチャしてるぅ」
「こらー! そこのバカップル。士気にかかわるから、やるならこっそりしてよ。泣いてる八条君もいるんだよ!」
「くっそー。優真のヤツめ。恋人と拳合わせて鼓舞し合うなんて、羨ましい、妬ましい!!」
「泣くな、八条。こっちは命じゃなくて嫉妬を燃やしていくぞオラァ!」
やいのやいのと騒がしくなる。
皆、テンションは上々らしい。
力石君が待機席の前に出る。
「みんな! いよいよ始まるが、その前に改めて確認だ。あの得点を見てくれ」
全員、得点表が置いている場所に注目する。
紅組 972点
白組 988点
青組 946点
黄組 954点
「中間テストの三学年分の合計点数が表示されてるわけだが、現在、俺達白組がリードしている」
赤島のいるクラスは紅組だ。
現在、第二位。
気を抜くと負けそうだ。
「ほぼウチのクラスが叩き出した点数でリードしていると聞いている。ただし、気を抜けばあっという間に追い越されて負ける。俺達一年二組が、ガチに勝ちに行くという事は同じチームの二年生、三年生にも伝えてある。先輩たちもこの点数を見てやる気になっているようだ」
ふむふむ。つまり、開始時点の得点でモチベーションが上がったわけだ。
先生達の目論み大成功だな。
「というわけで、頑張ろうぜ! みんな!!」
力石君が拳を突き上げて鼓舞する。
「応!」
「イェーイ!」
「よっしゃぁあ!」
それに応えてみんなが返事する。
さぁ、ここからが本番だ。
人生二周目の体育祭。
やってやるぜ!
■□■□
さて、体育祭が始まって、すでに四種目が終わった。
点数差は微々たるもので、変わらず俺達の白組がリードしている。
『さぁー。まもなく重量物競走が始まります! 実況は引き続き、放送部二年の小西がお送りいたします!』
軽妙な実況を聞きながら俺は待機席で応援する。
重量物競走は竜一が出る種目だ。
『この競技は重量物を背負い、さらに持って五十メートル走をしてもらいます! なお、この競技は男女の部で行われます。また、得点配分は一位30点、二位は20点、三位は10点、四位は5点となります』
小西先輩がルールが説明される。
『さて、この競技の重要なところは何でしょうか。解説の柳田先生』
何故か解説席に理科の柳田先生が座っていた。
『それはズバリ、バランスだよ、バランス。重たい物を背負って、持って、物理的に考えて、丁度良いバランスで動くことが重要だ。あと、腰を痛めないように気を付けて持つことだね』
したり顔で解説する。
当たり前の事を言ってるはずなのに、理科の先生が物理的とか言ってると「なるほど」と思ってしまう。
さては、それを狙ったな。
『ぎっくり腰にならないように気を付けて欲しいですね。先生、ありがとうございました。さぁ! 競技の準備が整ったようです。まもなく始まります!』
実況が言う様に準備が整ったようだ。
一年生男子の部から始まる。
つまり、竜一がスタートラインに立っている。
「がんばれー! 竜一!」
「負けんなよ! 竜一ぃ!」
俺と幸治は精一杯の声で応援する。
「いけー、藤門!」
「腰痛めないでねー、藤門くーん」
「フジモン! ふぁいとー!」
などなどチームのみんなも声をかけている。
競技に出る選手をよく見ると、紅組はあの森山とかいう巨漢が出るらしい。
赤島のグループの奴だ。
体格は竜一と変わらずがっしりとして強そうだ。
そんな彼を応援する声が聞こえる。
「
「ブッ倒せー!」
「ガクト! 一位取ったらサービスしてあげる♥」
紅組はガラが悪すぎる。
いや、正確には一年一組か。
紅組の先輩たちが戸惑ってるな。
何人かはノリで便乗してるっぽいが。
気を取り直して競技を見る。
選手の前には、見るからに重そうなリュックが置いてあった。
それをスタッフとして借り出されている運動部の生徒が補助して、選手が背負う。
持ち上げるとき、大変そうだったな。
何キロくらいあるんだろう。
『ちなみに、背負っているリュックの重さは十五キロあり、手に持つ物は五キロあります!』
『人は体重の四十%を超える物を持つと危険だ。ましてや競争となるとさらに危険だ。だから安全面を考えた上での重さだね』
実況者と解説者がそれぞれ言う。
なるほどなぁ。理科の先生っぽくちゃんと解説してる。
背負って持って、選手の準備が整う。
竜一の様子を見ると、平気そうだ。
ずっしりとして安定感がある。
流石は清道流古式格闘術の兄弟子だ。
森山の方を見ると、あちらも平気そうだ。
というか、なんだか軽そうな雰囲気だな。
相当、力持ちらしい。
『位置について』
係りの声で各選手が構える。
『よーい』
バーンと音が鳴って、選手たちが動き出した。
みんな急ごうとするが、転ばないように小走りだ。
『あーっと、分かっていましたがこの競技、スピード感がありません! 白組一歩リードか。青組がちょっと加速しています!』
『前の方へ体を傾ければそれだけ、足が早く出て、速度が出る。物理だね』
実況と解説が盛り上げる。
竜一は速度を落とさず小走りだ。
『おーっと、ここで青組がコケた! 白が一位か。いや! ちがうぞ!』
実況に熱がこもる。
小走りで競う選手をよそに、森山が走るような速度で駆け抜けた。
『速い! 紅組が一位だぁー!』
そのままゴールしてしまった。
竜一は二位だった。
選手たちを称えて拍手が起こる。
惜しかったなぁ。竜一。
最初はリードしてたんだけどなぁ。
とはいえ悔やんでも仕方ないか。
二年生と三年生の応援をしっかりしよう。
■□■□
その後二年生、三年生と競技が終わって白組の結果は以下の通り。
一年生:二位(20点)
二年生:一位(30点)
三年生:四位(5点)
二年生は凄かったが、三年生は途中で転んでしまい最下位だった。
合計点数は55点。
ちなみに紅組は60点。ウチのチームとは5点の差だった。
他の競技のおかげで、総合得点はまだ白組が1157点で一位だ。
けれど紅組が1153点と僅差になってしまい、危なくなってきた。
これは大縄跳びも本気でやらないとヤバいかもしれない。
そんなことを考えていると竜一が戻って来た。
「すまない。まさかあそこから抜かれるとは思わなかった」
竜一が申し訳なさそうに言う。
「いやいや。二位だよ。二位。すごいよ」
「謝んなよ。竜一。結果はしっかり出してるぜ」
俺と幸治が称える。
「そうそう。気にしない、気にしない。それよりアタシ、ビックリしちゃった。フジモンって力持ちなんだね」
風見さんがニコニコして言う。
「ははは。あの程度なら問題ない」
謙遜するように竜一は笑う。
「じゃあ、こんど肩車してもらおうかなぁ。アタシって背が小さいから、フジモンに肩車してもらったら、きっと世界が違って見えると思う」
彼女はキラキラした目で言う。
「そ、それはたぶん危ないからやめた方が良いな」
竜一はちょっと困ったように応えた。
そりゃそうだ。よく考えれば、女子の股の間に頭を入れることになる。
それは色々と危険だろう。
『障害物競争に出場する選手は、選手待機場所へ行ってください』
ふと、アナウンスが聞こえた。
「おっと、アタシの番だね。よーし、頑張ってくるよー!」
やる気ブンブンぶん回して、風見さんは意気揚々と向かう。
「頑張ってこいよ。風見」
「雫玖、頑張ってねー」
「ここで負けたら順位が逆転するから、しっかりね」
その背中に幸治と愛奏と真田さんが声をかけた。
「わーかってるって。バッチリ一位獲ってくる!」
風見さんはグッと親指を立てて競技に向かうのだった。
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やーっと体育祭本番にたどり着けました。
ここからはテンポよく進めたいです(願望)
ちなみに理科の柳田先生は生物関係が専門。
家でヘビ、トカゲ、タランチュラなど飼育している。
幸治は彼の飼育動物を見せてもらったことがある。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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