第70話 目指せベストパートナー!⑤/風見さんの活躍と竜一の想い

 障害物競争に出る風見さんを見送って。

 俺は幸治や竜一と待機席で競技が始まるのを待つ。


「…………」

 

 竜一はなんだか難しい顔している。


「どうしたの? 竜一」


「いや、ちょっと気になることがあってな。情けない話でもあるんだが」


 気になって、情けない話とな?

 はて? 何の事だろう。


「情けないことってなんだ? 竜一」


 幸治が怪訝そうに聞いた。


「なぁ、二人から見て、さっきの一年生の重量物競走はどう映った?」


 んー? どう映ったって、みんな力持ちだなぁってことくらいか。

 いやそれなら気になるわけがない。


 あの時って違和感あったか?

 あるいは何か他と違う事があっただろうか?


 俺は思い当たった事を言ってみる。


「あ、森山が随分と速かったよね」


「だよな。ありゃあ凄かった」


 竜一は望む答えだったのか、首肯した。


「やはりそうか。むぅ。言うべきか……?」


 彼はただでさえ怖い顔が、さらに厳しい顔になっている。


「何かあのレースであったの?」


「アイツだけ荷物が軽かったんじゃないだろうか」


 竜一らしくない人を疑う発言だった。


「俺の気のせいかもしれない。間違っていれば負け犬の遠吠え。情けない話だ。でも、しかし」


「気になるってわけだ」


 幸治が言葉を引き継いで言う。

 竜一は頷いて続けた。


「そうだ。実は森山が赤島とグループである以上、警戒していた。レース中に何か仕掛けてくるかもしれないと思ってな」


 竜一は思い返すように言う。


「その時、たまたま思ったんだ。やけにしっかり立っているなと。リュックの中身も他と若干雰囲気が違った気がしたんだ」


 ふーむ。確かに俺もなんだか他と違って安定感があって、力持ちだと思ったな。

 まさか、俺たちに勝つために不正をした?


 仮にする理由はあっても、どうやって?

 俺達は腕を組んでうーんと唸る。


「どうしたの? 三人とも。難しい顔して」


「藤門君。随分と怖い顔になってるわよ」


 愛奏と真田さんが心配して俺たちに寄ってくる。


「いやぁ、ちょっとさ」


 俺はさっきの違和感を二人に話してみた。


「ってことで、まさかねぇって話でさ」


 競技の運営は先生達も含めて行うのだ。

 その中で堂々と不正が出来るだろうか。

 だが、この話を聞いて愛奏と真田さんまで難しい顔になった。


「ねぇ優真君。たしか重りって用意するの体育委員か、運動部の人だったよね」


「えーっとたしか、そのはずだよ」


 今もクラスメイトの中で運動部の生徒が何人かいない。

 障害物競争のスタッフに行っているようだ。


「……あり得るかもしれない」


 愛奏は険しい表情でつぶやいた。

 おやぁ? 何か根拠があるんだろうか。


「どういうことだ。近衛」


 竜一が尋ねた。


「運動部の中には、レオンの息がかかってる生徒がいる……って噂があるの」


 おっとぉ。それは初耳だ。

 言い切ってから濁したあたり、ひょっとして一周目の情報か。


「スタッフとして動いている生徒に頼んで、重量物を軽くするくらいの細工は出来るかも」


「マジかよ。もしそうなら、大変だぜ」


 幸治が顔をしかめる。

 確かに大変だ。

 証拠がないが、ちょっと怪しくなってきたぞ。


「やはり、先生に言ってこよう。間違っていれば俺の恥だけで済む」


 竜一が立ち上がる。

 だが、真田さんが遮った。


「待って。藤門君は雫玖の競技を見てあげて。あの子、貴方の頑張りを見て、やる気出したみたいだから。お願い。代わりに私が言ってくるわ」


「いや、しかし」


「いいから、ちゃんと応援してあげて。それに真面目な私が物言いしてもそこまでダメージ無いわ。任せて」


 竜一は少し考えてから席に座った。


「そうか、分かった。すまないが頼む」


「ええ。みんなも応援お願いね。私一人で行くわ」


 真田さんは言うが早いか、歩き出す。


「ごめん。瑠姫。お願いね」


「ありがとう、真田さん」


「頼むぜ。真田」


 俺たちは彼女を見送った。


 ■□■□


 障害物競争は俺たちが話している間に始まって、男子の部が終わった。

 そして、女子の部がスタート。


 風見さんは凄かった。

 スタートするや進行方向に置いてあるハードルを潜るのだが、小柄な体をさらに小さくして、スピードを落とさずササっとクリア。

 さらにコース上に設置された網をシャカシャカと軽快に通り抜ける。


『あーっと、一年女子、白組が速い! まるで、障害物が無いかのようだぁ!!』


 実況にも熱がこもる。


「いけー! 雫玖。頑張れー!」


「いいぞ! 風見さん!」


「走れ! 風見ぃ!」


「風見、凄いぞ! 往け!」


 俺たちも力いっぱい応援する。

 その後も、跳び箱を軽く跳んで、平均台をバランスよく渡る。


 いやぁ、それにしても障害物を次々とクリアしていく姿は、見ていて気持ちが良いな。

 まるで、マ●オか。●ービィか。

 上手い人のアクションゲームプレイを見ているようだ。


 クラスのみんなも、そのあまりの躍動っぷりに驚き顔だ。


「すごい。ほとんどスピード落ちてないよ」


「風見って、運動神経が良かったんだな。なんで軽音なんだよ」


 俺もそう思う。

 歓声に混じって、風見さんの声が聞こえる


「うはははははは。アタシ、サイキョー!!!」


 ケラケラと笑いながら彼女は走り抜け、最後の障害物であるマットの上での連続転がりまで到達。

 ここまでダントツのトップ。


 二位はやっと平均台をクリアした。

 彼女はマットの前で一瞬だけ立ち止まる。


「フジモン! 見ててよぉ! うりゃりゃりゃりゃぁ!」


 テンション高めに言って、コロコロ転がる。


「おお! あれこそ、清道流の前回り受け身!」


 竜一までテンションが高くなってる。

 確かにあれは前回り受け身だ。


 いつの間に覚えたんだ。彼女。

 あれだけ回ったら目を回すのだが、若干ふらついただけで、そのままゴールしてしまった。


『圧倒! 圧倒的なぶっちぎりで白組ゴォォォォル!』


 実況が叫んで、会場が拍手であふれかえる。


「イェーイ! 一位ぃぃぃぃ!!!」


 Vサインで彼女は観客に応えた。

 いやぁ、マジで凄かった。

 ふと隣の竜一を見る。


「な!?」


 俺はビックリしてしまった。

 あの怖い顔の竜一が、めちゃくちゃ穏やかな顔で笑っている。


 そ、そんな顔が出来たのか。

 幸治も驚いて目を丸くしていた。

 愛奏も気づいたのか、ニコニコ笑って言う。


「藤門君、良かったね。雫玖が一位で」


「ああ、彼女はやはり凄い」


 声まで穏やかで優しい。

 どうやら、彼女に見惚れてるようだ。

 ちょっと上の空だぞ。

 その様子を見て愛奏はニヤリとした。


「戻ってきたら、ちゃんと労ってあげてね。雫玖の事、好きなんでしょ?」


「ああ。そうだなって、うぇ!?」


 不意を突かれて、竜一が驚いたように声を上げる。


「ぬふふふふ。やっぱり、そうだったんだぁ。言質取ったよぉ」


「ま、まて、ちがう。まだ、好きじゃない!」


 あわあわして竜一が否定する。

 あーあ。言えば言うほどドツボにハマるぞ竜一。


「竜一ぃ。お前もア、オ、ハ、ルかぁっ!」


 ほら見ろ。幸治が嫉妬で睨んでるぞ。


「へぇ、『まだ』好きじゃないのね」


 真田さんが戻ってきた。

 悪魔の角を幻視してしまうほどの、悪い顔だ。


「いや、そのだな」


 竜一が顔を赤くして慌てる。


「ま、あのパッパラパーの雫玖を射止めるなら、それくらい慎重でも良いのかしら?」


「だよねぇ。意外と雫玖って乙女チックなところあるし。一回くらいデートしてからの方が良いかもねぇ」


 二人でキャッキャと盛り上がる。


「あの、みんな。今の話はせめて彼女には黙っていてくれ。俺はまだ彼女が好きなのか答えが出ていない」


 竜一が真面目に言う。


「竜一。答えが出てないって。なんとなく気になるだけってこと?」


 俺はこの際だからちょっとその辺、聞いておこうと思って質問した。


「ああ。俺みたいな男に、気さくに話しかけてくる彼女は、確かに気になっている。でも、俺は人付き合いが壊滅的だ。いままで女子と話したら泣かれるか、怖がられるかだった。だから構ってくれるから気になってるのか、その、す、好きだから気になってるのか分からない」


 そう言って表彰待ちの風見さんに目を向ける。


「だから、もう少し考えて答えを出したい。こんな気持ちになるのは初めてだからな。距離感を間違えないように、しっかり考えたいんだ」


 彼が語る言葉を聞いて、俺は感動してしまった。

 なんて純真で真っ直ぐな話だ。


 見ろ、悪魔化していた愛奏と真田さんが浄化されて苦しんでるぞ。

 なんなら幸治もスンってなってる。

 揶揄ったり嫉妬したことで罪悪感が生まれたようだ。


「悪かった。竜一。しっかり考えろ」


「ゴメンね。藤門君。ちょっと調子乗っちゃった」


「ええ、ごめんなさい。ちゃんと考えて答え出すのは、きっと正解よ」


 三人とも謝罪する。


「いや、俺も人に話すことで少し整理がついた。ありがとう」


 竜一は笑って言う。

 ということで気を取り直して、俺達は残りの障害物競走を応援するのだった。


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風見さんの活躍と見せかけて、竜一の心情がわかる回でした。



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2024年11月27日 07:09
2024年11月28日 07:09

高校の時に好きだった子がチャラ男に染められて破滅したので、偶然にもタイムリープした俺は彼女の全てを奪って幸せにすることにした 沖彦也 @oki_hikoya

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