第67話 目指せベストパートナー!②/テスト結果の発表

 三日間のテスト期間が終わり、次の週からさっそくテスト返しがあった。

 すでに数学を除いて結果が返ってきている。


 テスト結果の点数を見て、みんな悲喜こもごもと言った感じだ。

 というわけで、俺の現在の結果はこちら。


 国語89点

 英語75点

 社会85点

 理科70点


 一学期の中間テスト結果が、50点前後だった事を考えれば大躍進だ。

 人生二周目にして快挙と言える。


「優真君、私も快挙だよ!」


 休み時間に愛奏がやって来て、ニコニコでピースサインしてくる。 

 彼女も今のところ、どの教科も70点台をキープしている。

 頑張って勉強した甲斐があったというものだ。


 幸治と竜一もバッチリ点数が取れてたと聞いている。

 真田さんは国語と英語はこのクラスでトップだった。


 他のクラスメイトも、思いのほか点数が良かったという話だ。

 これなら体育祭での素点も期待できるだろう。

 みんなで勉強会した成果が出ているようだ。


「そういえば、風見さんは大丈夫だったんだろうか」


 心配されていた彼女の話だけ聞いていない。

 愛奏は何か知っているだろうか。


「あーそれが、聞いても教えてくれなくて。ほらあんな感じで」


 彼女の視線の先を見る。


「 (´ω`*) 」


 どうやって発音してるんだアレ。

 あと、何とも言えない表情だ。

 他のクラスメイトも気を使ってか、声をかけられないようだ。


「諦めた表情に見えるかなぁ」


 俺は首をひねる。


「良かったから、ほっこりしてるようにも見えるよね」


 愛奏も首をかしげる。

 う~ん。と俺達は唸った。


 その時、ちょうどチャイムが鳴った。

 最後の数学。

 どんな結果だろうか。


 ■□■□


 テスト返しでにぎわう教室内。

 あちこちで声が上がる。


「あっぶねぇ。ギリギリだったぁ」


「やった、70点だったよ」


 などなど。

 かく言う俺の結果は68点。

 あと一つ! あと一つ正解していれば70点だったのだ。


「ぐおおおお。悔しい」


 赤点ではないが、全科目70点以上をキープできなかった。


 いやまぁ夏休みから本格的に勉強を始めたのだ。

 今の俺の学力からすると、ここまで持っていけただけでも良しとしよう。

 期末テストでリベンジだ。


 ふと気になって愛奏の方を見る。

 彼女と目が合った。

 彼女は手で七の数字を作る。


 なるほど。つまり彼女は70点台だったと。

 うおおおおおお。嬉しさと悔しさが同時に込み上げてくる。

 とりあえず、点数が取れて良かった。


 風見さんはどうだったんだろうか。

 ちらっと彼女の席を見る。


「 ∩(^ΦωΦ^)∩ 」


 だから、どんな発音?

 良いのか悪いのか分からん。

 絶望している顔じゃあないから、たぶん大丈夫だと思うけど。


「はい。それじゃあ確認はそれくらいにして、ちょっと静かにしてくれ」


 数学教師の増間ますま先生が呼びかける。

 教室内が静かになった。


「実は今回のテスト、平均点を約60点になるように作ってある。他のクラスの平均も大体がそんな点数だ」


 なるほど。半分以上は取れるような難易度だったわけか。


「だが、しかし。このクラスだけ点数取れているヤツが多い。平均点は約68点だった」


 おお、想定より上の点数だったのか。


「残って勉強会やっていたのは知っているから、君たちの努力が結果として出たと言えるだろう。でも!」


 そこで増間先生は言葉を区切る。


「正直言って、俺は悔しい! 計算では間違いなく60点前半、悪ければ50点後半くらいの難易度設定だったんだ。これは俺の敗北だ。数学教師としてのプライドが許さない!」


 なんだか語りだしたぞ。

 この先生も変わった人だからなぁ。


「だから、期末は覚悟しておけよ。今度こそ俺の計算通りの点数内に収めてやるからな!」


 ビシィッと宣言されてしまった。


大人気おとなげねーぞ、先生!」


「もっと簡単にしてよー!」


「俺、50点だったんだぞ。難易度上げられたら困るぞ!」


 ハチの巣を突いたような大ブーイング。


「うるさーい。俺は子供の心を捨ててない教師だ。つまり、俺は大人気なくて良いんだ! QED!」


 証明終了してどうする。

 ダメ人間を証明してどうする。


「ひ、開き直りやがった」


「本郷先生にチクってやろうよ」


「冬休みは補習確定かぁ……」


「諦めないでよ。まだ時間あるよ」


 などなど口々に言い合う。


「はい! というわけで、解説するぞー」


 だがそんな意見をスルーして、今だブーイングが鳴りやまない中、解説が始まった。


 期末に備えて今から勉強頑張ろう。

 俺はそう思いながら、解説を聞くのだった。


 ■□■□


 テスト返しが終わったその日の放課後。

 今日も今日とてバイトに勤しむ。


「へぇ。そんなことがあったのねぇ。面白い先生ねぇ」


 今日の倉庫での商品確認は、おばちゃん店員の南野さんと一緒だ。

 いかにもザ・おばちゃんと言った感じの人で、俺の事もよく気にかけてくれる。


 年齢は聞いていない。

 娘さんがいるらしく、中学生らしい。

 どうやら、咲良と同じクラスのようだ。


「面白くても、テストの難易度上げられるのは、ちょっと困るなって思います」


「ふふふ。学生ならではの悩みねぇ。ウチの子ももう少し勉強してくれたらねぇ」


 そんな世間話をしながら、俺達は商品を確認していく。

 今日の箱の商品は重いな。


「あちゃー。今日に限って重たい商品が入ってるわね。優真君持てる? 私、この間腰打っちゃって重たい物持つの注意が必要なのよ」


 南野さんは困ったように言う。

 おお、それは大変だ。


「大丈夫ですよ。こう見えて鍛えてますんで」


 俺はこの間の道場での事を思い出す。

 腰を起点に体を動かすという話。


 あの後、重たい物を持つ時も役立つと、竜厳さんから教えてもらったのだ。

 たしか、自分の身体の方に荷物を引き寄せてっと。


「よっと!」


 俺は箱を抱えて台車まで運ぶ。


「あら力持ち。流石、若いわねぇ」


 頷いて感心してくれる。

 というわけで、せっせと重たい商品を運んでいく。


「それだけ重たい物を持てるんなら、彼女さんにお姫様抱っこしてあげられるわねぇ」


 うふふふと南野さんは笑った。


「お姫様抱っこですか」


 ヒーロー物でたまにあるよな。

 炎の中から抱えて出てくるとか。


「そうよぉ。若いうちにやっておかなきゃ、お互いに年取ると出来なくなるんだから」


 しみじみと南野さんは言う。


「南野さんもやってもらったことあるんですか?」


「ええ、それはもう。結婚式の披露宴とか、二人きりの新婚旅行でとか。懐かしいわねぇ。まぁ今の私の体型じゃあウチの旦那がつぶれちゃうけどね」


 彼女はクスクス含み笑いして、他の商品を準備していく。

 そっかぁ。確かに俺も年を取れば、そんなことも出来なくなるかもなぁ。


 愛奏にお姫様抱っこか。

 うーん。どんなシチュエーションでやるんだ?


 いまいち想像がつかない。

 逆を返せば特別な時にするんだろうな。


「そういえば、話は変わるけど。この間、咲良ちゃんを見かけたわよ」


「え、咲良ですか?」


 どこで見かけたのだろう。


「ほら、媛神の商店街の中のゲームセンター近くよ。ウチの子と一緒に、やんちゃそうな男の子たちといたの」


 この場合「やんちゃ」とは「ヤンキー」と言い換えるんだろうな。


「男とですか」


 俺は眉をひそめた。


「そうそう。子供の交友関係に口出しはあまりしたくないけど、ちょっとねぇ。ほんと最近は反抗期なのか困ったわぁ」


 南野さんはため息を吐く。

 難しい年ごろだ。直接聞いても話さないのかもしれない。

 ここは俺が咲良に確認して、状況を南野さんに伝えるべきか。


「それなら、咲良に一応、聞いてみます」


「そうねぇ。お願いできるかしら。あの年頃の子って、チョイ悪の男にコロっと騙されて痛い目に遭うこともあるから。ごめんなさいねぇ」


 南野さんは申し訳なさそうに言う。


「いえいえ。俺もちょっと気になるんで」


 俺としても妹の交友関係に口出すのはあまりしたくないが、ちょっと気になる。


 なにせ一周目ではそんな話はなかったのだから。

 部活を始めたことで起こった出来事だ。

 つまり、俺が過去を変えたから起こったのだ。

 杞憂で終わればいいけれど。


「さてと、それじゃあ、補充しに行きましょうか」


 準備が完了して、南野さんが促してくる。


「はい。行きましょう」


 俺は思考を切り替える。

 今は仕事に集中しよう。 

 俺たちは準備を終えて、商品を出しに店内へ向かうのだった。


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南野さんは、第16話のラストに登場した、アルバイト店員です。



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